早く寝て欲しいと願っていた、あの夜のこと。
夜だけは、忙しさに負けたくなかった。
子どもがまだ幼かった頃。
共働きの私にとって眠る前の絵本の時間は、
一日の中で唯一、子どもとゆっくり向き合える時間だった。
「何冊でもいいよ」
そう言いながらもベッドに運ばれてくる本の厚みを見るたび、
私は少しだけ身構えていた。
十冊を超える日もあれば、
一冊を大事そうに抱えてくる日もある。
正直に言えば仕事も家事も終えたあとの私は、
一目散にベッドに倒れ込みたかった。
それでもやめなかったのは、
本を抱えて往復するその小さな背中が、
あまりにも嬉しそうだったから。
「今日はどうしてこれを選んだの?」
そう聞くと、誇らしげに理由を話してくれる。
途中で選び直しに戻る日もあった。
十冊読んでもまだ遊びたがる夜もあった。
スムーズじゃない時間の方が、ずっと多かった。
読み聞かせをやめてしまいたい夜も何度もあった。
「一冊目で寝落ちしてくれないかな」
そんなことを思っていた私も、確かにいた。
それでも、ページをめくるたびに
子どもの目はきらきらと輝いていて、
ワクワクしているのが、見てとれた。
疲労の向こうで私はその好奇心を見ていた。
読み終えたあとの静かな寝息と、
私の小さな達成感。
早く寝てほしいと願っていたあの夜、
私は同時に、この子の好奇心を守っていたのだと思う。
読み聞かせがなくなった今あの頃の夜を振り返ると、
「やってみたい、見てて。」
と安心して自走できる子どもの土台は、
きっとあのベッドの上で育っていたのだと気づく。
学力では測れない成長がある。
それを、あの日の私に伝えてあげたい。
信じて、よく頑張ったね、と。
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