連載小説 サンタドロップス(1)
今年もまたこの季節がやって来た。
俺が一番嫌いなこの季節。
紅葉で華やいだイチョウ並木はすっかり枯れ木と化し、街路樹は煌びやかなイルミネーションで飾られた。そこら中に定番のクリスマスソングが鳴り響き、街は赤と緑の装飾で彩られる。
カップルがやたらと多い気がするのは、もう何年も彼女の居ない俺だけだろうか、クリスマスなんて無けりゃいいのに。
俺は雑踏の中にいた。二股の道路に挟まれた丸い塔の様な建物に大きなサンタクロースが描かれている。
「サンタなんていない、サンタは俺だ!いつまでもガキみたいな事言ってんじゃねえ」
小学五年の時、父親にこう怒鳴られた。この瞬間、俺の心の中に存在していたサンタクロースは消滅した。
「チェッ!何がサンタだ、バカヤロー」
俺は吐き捨てる様に言った。
スクランブル交差点の信号が青になり、四方から一斉に人々が横断を始めた。すれ違う人達全てが鼻と口をマスクで覆っている。あの新型バイアルスが流行り出して僅か二年も経たずに、この世界は全く違うニューワールドになってしまった。
この世はすっかり変わった、マスクの下の素顔を晒す事は今やタブーで、人前でマスクを取る事は裸を見せる同然に恥ずかしい事に思える。
群衆に紛れて俺は交差点を渡り始めた。こちらに向かって一直線に歩いて来る一人の女に目が行った。
つづく
