正解を急ぐより、選択肢を広げられる自分へ
令和7年度からいわきアカデミアで新たに始まった高校生向けプログラムの「探究カフェ」。
夏休みに2回、そして11月のスピンオフ編。全3回を通じて、3校・14名の生徒が参加しました。
集大成となる成果報告会を終えたとき、そこには凜とした表情で前を見据える一人の高校生の姿がありました。

福島県立磐城高等学校の瀧澤穂さん。
3回すべてに参加した瀧澤さんは、この数ヶ月間で何を経験し、どのように変わっていったのか。その歩みを瀧澤さんの真っ直ぐな言葉から紐解きます。
焦りの中にいたあの頃
「朝起きてから寝るまで、目の前のスケジュールをこなすことで頭がいっぱい。それなのに、周りを見渡すと、同じ環境にいるはずの友人たちが、自分とは全く違う景色を見ていることに気づいたんです」
高校入学後の瀧澤さんは、言いようのない焦りの中にいました。
初めての電車通学、夜遅くまで続く部活、そして次々と出される課題。
それらに追われる日々の中で、瀧澤さんは「将来、どんなことをしてどんなふうに生きたいか」を見つけるヒントを求めて探究カフェに応募しました。
探究カフェは、学校の枠を超えて集まった高校生たちが、社会人ゲストとの対話を通じて自分の探究活動をブラッシュアップし、地域でのアクションにつなげていくプログラムです。
転機となったのは、今までに出会ったことのない、いわきをこよなく愛する社会人ゲストと、他校の生徒との出会いでした。

自分の興味・関心を突き詰めたり、地域の課題に声を上げたり。
学校の評価軸とは全く別の物差しで世界を広げている人たちの姿は、瀧澤さんの目に新鮮に映りました。
「課題は困りごとではなく、新しいことを始めるチャンスなんだ」
瀧澤さんの視点は「自分の悩み」という内側から、「自分が暮らす社会」という外側へと広がり始めました。
「悩み」が「アクション」に変わった瞬間
いわきアカデミアでは、高校の「総合的な探究の時間」等において、市内の企業などを訪問し、社会人から仕事への情熱や職業観などを聴く「いわき発見ゼミ」を実施しています。瀧澤さんが通う磐城高校もいわきアカデミア設立当初からこの事業を活用してきました。
瀧澤さんが選んだ見学先は、いわき駅周辺のまちづくりに取り組む「たいらまちづくり株式会社」。
実際にまちを歩き、まちづくりに携わる方々から現場の声を聞く中で、「いわきの空きビルを有効活用し、街を活性化するには?」という一つの問いが生まれます。

瀧澤さんのグループは、古いビルを単に「寂しい」と捉えるのではなく、その裏側にある課題を分析しました。
リノベーションなどの初期投資がネックで、新しい人が参入しにくい現状がある。それなら、高校生の『力』をコストの代わりに充てられないか――
そうして生まれたのが、「空きビルを一定期間、無料で貸し出す仕組み」という提案です。
高校生がボランティアとして清掃やDIY、広報を担う代わりに、オーナーには数ヶ月の賃料無料期間を交渉する。若者がリスクなく挑戦を始められる「お試しの場」を作ることで、まちに新しい風を吹かせようという、当事者意識に溢れたアイデアでした。

「ただ住む場所としてではなく、地域の課題を自分事としてとらえ、解決のために動ける大人になりたい」
この言葉には、いわきのまちを想う、一人の当事者としての決意が宿っていました。
生き方は、もっと自由でいい
成果報告会で発表する瀧澤さんの声に、もう迷いはありませんでした。

「以前の私は、ただ会社に所属することが将来だと思っていました。でも、いわきの資源を生かして起業する方々や、たいらまちづくり会社さんのような活動を知り、生き方はもっと自由でいいんだなと気づきました」
かつての「やりたいことを見つけなければ」という焦りは、今や「自分に何ができるかを問い続けたい」という、ポジティブな意欲に変わっています。
瀧澤さんは、これからの自分自身が大切にしたい「3つの姿勢」を力強く語ってくれました。
自分の興味の種を見つけること。
アンテナを常に張って行動すること。
いわきというフィールドに興味の種をまき、情報収集を止めないこと。
その眼差しは、自分自身の未来と、大好きないわきの未来を同時に見据えています。
探究の先に見えた、新しい自分
全3回の講座や成果報告会などを通じて、会うたびに大人びていく瀧澤さんの成長に、いわきアカデミアを運営する私たちも驚かされました。
最初はどこか不安げだった瞳が、対話を重ね、まちへ出かけ、自分の言葉を持つにつれて、どんどん強く、真っ直ぐなものへと変わっていく。
その姿は、周囲の大人たちにも「学ぶとは何か」「成長とは何か」を問い直させてくれるものでした。
探究とは、単なる調べ学習ではありません。
社会を知り、自分を知り、その接点で「どう生きたいか」を模索する学びです。
いわきアカデミアは、これからも瀧澤さんの、そして高校生たちの挑戦を、全力で応援し続けたいと思います。
