第127話 大坂城内の女鼠たち
走りながら才蔵は思った。このまま真っすぐ左近のいる木賃宿へ向かったら、背後に張り付いている監視役に「なぜ見ず知らずの男の居場所を知っていた?」と、徳川に寝返った事が偽装だと怪しまれてしまう。素戔嗚は、疑ってはいるものの、水路で逃げた男が真田の忍びであることはまだ知らない。どっちつかずに見える才蔵の思惑は、もし素性が割れていないなら、左近と激闘した末「相手が思いのほか手強くて取り逃がした」という言い訳を立てることで、後から「あれは伊達や毛利の間者だった」と嘘の報告をし、素戔嗚の目を真田から逸らすことだった。
〈まずは、俺も標的である左近の正体を知らないという前提を作らねばならん・・・〉
そう思考を巡らせた才蔵はピタリと立ち止まり、背後の暗闇に向かって声を張りあげた。
「おい、目付の下っ端ども。後を付けているのは知っている。一つ聞いてもいいか? 顔も知らねえ奴を殺せと言われても無理な相談だ。その男の特徴や、最後に消えた場所を教えろ。一流の忍びってやつを見せてやるから後学の参考にすればいい。損はさせねえぜ」
すると後ろの暗がりから素戔嗚が残した部下の一人の声が返った。
「農民風の身なりだ。薄茶の小袖と袴に、あとは脚絆を履いていた。小太刀を持っているぞ・・・姿を消したのは船場の狭い路地の袋小路だ」
「袋小路だと? へっ、なるほどな」
才蔵は知ったかぶって、態とらしくニヤリと笑って顎を撫でた。
「追い詰められた者の考える事など決まってら。どこへ逃げたか見当をつけるから、俺をそこへ連れてゆけ」
「・・・・・・」
戸惑いながらも一理あると思った監視の忍びは、男を見失った船場の袋小路に才蔵を連れて行った。すると才蔵は、あたかも全てを見抜いた振りをして、壁を伝って建物の屋根の上に立つと、四方を見回してからまた態とらしくニヤリと笑い、
「あっちだ.ついて来い」
と言って屋根伝いを走り出した。
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ののうノ野
磐城まんぢう書き下ろし小説『ののうの野』を不定期掲載しています。 時は戦国、かつて信州祢津地域に実在した”ののう巫女”集団にスポットを当て…
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