20名の"家族経営"は、なぜ50名になった瞬間に崩れ始めたのか
組織には、壁がある。5名の壁、20名の壁、50名の壁、100名の壁。よく言われる話です。ただ、実際にその壁にぶつかるまで、私はこの言葉の意味を理解していませんでした。
20名だった頃、組織運営はシンプルでした。誰が何をしているか、全員分把握できていた。誰かの表情がいつもと違えば、その日のうちに気づけた。指示を出せば、誰に伝わったかを確認する必要すらありませんでした。全員が同じ部屋にいたからです。
50名を超えたあたりから、同じやり方が通用しなくなりました。理由は、単純な人数の問題ではありません。組織内の関係性の総量が、人数の増加以上のペースで膨らんでいくことが原因でした。
「把握コスト」という考え方
組織の中で誰が誰と関わっているかという関係性の数は、単純な人数の掛け算では測れません。20名の組織であれば、成立しうる関係性の組み合わせは190通り。これが50名になると、1,225通りに跳ね上がります。人数は2.5倍にしかなっていないのに、関係性の総量は6倍以上に膨らんでいる計算です。
私はこれを「把握コスト」と呼んでいます。経営者が組織全体を頭の中で維持するためのコストは、人数に比例するのではなく、この関係性の総量に比例して増えていく。20名の頃に感じていた「大変さ」の延長線上に50名の運営があると思っていたのが、そもそもの誤算でした。
崩れたのは、3つの経路だった
振り返ると、把握コストが限界を超えたとき、崩れたのは一つの機能ではなく、3つの経路でした。
一つ目は、横のつながりです。20名の頃は、隣のチームが何に困っているか、聞かなくても分かりました。50名になると、隣の部署の状況すら、誰かに聞かなければ分からなくなります。
二つ目は、縦の伝達です。急いで作ったマネジメント層は、権限は持っていても、現場の温度感まで拾い上げる訓練を受けていませんでした。悪い報告ほど、階層を一つ上がるごとに、角が取れて丸くなっていきました。私のところに届く頃には、深刻さの大部分が削られていたのだと思います。
三つ目は、文化の伝承です。20名までは、新しく入った人も、直接私と何度も話す機会がありました。何を大事にしている会社か、言葉にしなくても伝わっていた。急拡大の中で採用した人の多くは、私と数回しか話さないまま現場に配属されていきました。
この3つが同時に細くなっていったことで、現場で起きている小さな異変が、誰にも報告されないまま放置されるようになりました。「自分の担当ではない」「誰かが気づいているはずだ」という空白地帯です。私の場合、その空白地帯の中で、幹部の不満は蓄積し、一部の社員による不正は見過ごされていきました。
誰か一人が悪かったわけではありません。全体を把握する係が、3つの経路が同時に細くなったことで、いつの間にか不在になっていた、というだけの話です。そして、その係を最後まで担うべきだったのは、他の誰でもなく、経営者である自分自身でした。
今、外から見えること
複数の会社を外から見る仕事をしていて分かることがあります。この壁にぶつかっている会社は、想像以上に多いということです。そして、その多くが、私と同じように「拡大が先、仕組みは後回し」という順番で進んでしまっています。
仕組みを先に作ってから拡大するのが理想ですが、現実の経営はそう都合よく進みません。だからこそ、拡大の最中に、横のつながり、縦の伝達、文化の伝承。この3つのうち、どれが細くなっているかを、定期的に確認する習慣だけは持っておくべきだったと思います。
把握コストは、経営者一人の力でどうにかできる範囲を、ある日突然超えます。超えたことに、超えた後でしか気づけません。
あの頃の自分に必要だったのは、もっと働くことでも、もっと厳しくすることでもありませんでした。その日が来る前に、外から一緒に見取り図を確認してくれる人でした。
今、社外No.2として他の経営者の隣に立っているのは、あの頃の自分に一番足りなかったものを、今度は自分が届ける側になりたいからです。
同じように、今の組織の見取り図が自分の中で曖昧になってきていると感じる方には、「判断の壁打ち」という30分の時間を用意しています。
