【読書記録】川上未映子『春のこわいもの』
あらすじ
世界が一変してしまったあの春、私たちは見てはいけないものを覗きこんでしまった──。持てる者と持たざる者をめぐる残酷なほんとう。死を前にして振り返る誰にも言えない秘密。匿名の悪意が引き起こした取りかえしのつかない悲劇。正当化されてゆく暴力的な衝動。心の奥底にしまい込んだある罪の記憶。ふとしたできごとが、日常を悪夢のように変貌させていく。不穏にして甘美な六つの物語。
感想

…こわかった。ほんとうにこわいものだった。
背筋が、というより、
胸の奥のあたりをぐっと掴まれて
なんとも言えない悪寒が
胸の中にじわっと広がる感じ。
このひとは、奇才という言葉が正しいんだろう。
人間のものすごい、けれど
きわめて日常的な醜さを、
甘美さでもって描き出す天才。
見たくもない、自分でも目を背けて
いたいような感情が掻き立てられて、
ああ…私、人間だ、悲しいほどに、
と思ってしまう。
けれど(女性の話が主だったのは
あるかもしれないけれど)
総合的な余韻は甘やかで耽美的。
取り憑かれたような文体で、
引き込まれるように読んでしまう。
続きが気になってしまう。
特に「青かける青」「花瓶」
「ブルー・インク」が好きだった。
甘美で曖昧さを多分に含ませつつ、
心のどこかに刺さって忘れられなくなる、
これからの人生でも何度か
思い出してしまう作品。
夢でありながら不穏で、
少しの毒がある。
人間の真実のどこかを
抉り出している、気がする。
感想文、画像編集: 泉伶カノ
