就労支援は「人間の能力」を見ているか――成熟なき支援と構造的暴力としてのマッチングの誤作動
序:求職者の尊厳・権利・能力が損なわれる就労”支援”制度
本稿は、「履歴書では測れない能力を、AIはどこまで見抜けるのか?」「偏見と採用の構造的問題」の二論考の続編であるが、より、日本の就労支援政策の構造的問題に踏み込んだ内容となっている。
本稿で扱う問題は、「望まない形の就労支援」「希望と違う社会復帰」を強いられた人にとっては、御自身の経験した不正義を可視化するものとなるであろうし、日本の就労支援政策と他国の状況との比較研究をしている人々にとっても、構造分析・当事者性の融合等で、示唆に富むものになっていると思われる。
さて、日本の就労支援政策は、20年以上にわたり「支援」という言葉を掲げ続けてきた。しかし、その実態はしばしば、労働市場に“とりあえず押し込む”ための制度的装置として機能しており、その過程で、求職者の尊厳・権利・能力が深刻に損なわれる場合がある。
企業の採用面接においても、履歴書・職務経歴書等の採用書類を重視する採用書類中心主義は依然、根強く、採用書類に現れない能力・強み・潜在性が軽視される傾向が強い。その結果、高度な能力を持つ人ほど、適職から遠ざけられるという逆転現象が起こる。
これは単なる制度の不備ではない。これは、学術的には、“構造的暴力”(structural violence)と呼ばれる現象である。
こうした構造的問題について、本稿では、
・就労支援現場における偏見と能力の誤読
・その背後にある制度的欠陥
・OECD/EU諸国との比較
・就労支援職に必要な倫理と成熟
・筆者自身の経験が示す象徴的問題
を考察する。
第1章 能力の誤読――採用書類中心主義の限界
日本の採用文化は依然として「採用書類を中心としたスクリーニング」を基本としている。しかし、採用書類には、
・心理的回復力
・高度な集中力
・訓練された注意制御
・パターン認識能力
・長期的持続力
・創造的問題解決
・ナラティヴ理解力
・他者支援の姿勢
といった“測定困難な能力”は一切記録されない。
前二論考で出した例であるが、長年TVゲームに打ち込んできた40歳男性が、アクションゲームのノーダメージ攻略を行い、youtubeで数万人のフォロワーを獲得し、持続的に高評価を受けているとする。
このことは明らかに、
・実行機能の強さ
・忍耐力
・試行錯誤力
・反応速度
・高精度な判断力
・自己改善能力
・情報編集能力
を含んだ高い能力プロフィールである。
しかし、履歴書だけに基づいて判断する面接官は、「職歴がない」「ゲームばかりしていた」「社会的能力の育成がない」という表層的情報だけで、能力ゼロと誤認する可能性が高い。これは、人間の偏見(cognitive bias)×制度的慣習が生む典型的なエラーである。
第2章 AIの評価は何を補えるのか?
興味深いのは、同じ求職者をAIに評価させると、しばしばまったく異なる結論が出ることだ。
AIは、
・膨大なゲームプレイ時間
・攻略技術の難易度
・行動パターン
・動画編集の技術
・視聴者との交流
などの情報を、人間よりフラットに評価できる。
つまりAIは、履歴書の外側にある“実質的能力”をかなりの程度まで拾い上げることができると言える。もちろんAIも万能ではないが、少なくとも、偏見で求職者を切り捨てるリスクは低い。この点において、AIは、人間の限界を補完するツールとして重要な意味を持つ。
第3章 筆者自身の経験は何を示したか
筆者が数年前に利用した居住区域内にある就労支援説では、担当支援員(男、50代)が、筆者に対して、以下のことを行なった。
・名前を正しく呼ばない:成人男性に対して、本人の許可なく「ちゃん」付けで呼ぶ
・意図を聞かず、一方的に方向性を押しつける:「君にはこれが合っていると思うよ」と言い、理由を述べて断っても、やめない
・履歴書の情報だけを絶対視する:なぜそのような歩みだったのかを想像できない
・筆者の能力をゼロ査定する
・WEB上の言論活動を「収入になっていないから価値なし」と判断する
・希望を無視し、低スキルの仕事を強制する
これらは、明らかに深刻な人権侵害行為である。
固有名は伏せるが、この支援員の行動は、
・憲法13条の尊厳原則
・労働者の自由
・厚労省の職務倫理規定
・OECDの就労支援ガイドライン
・国際労働機関(ILO)の“ディーセントワーク”基準
のすべてに抵触し得る。
このことからわかるのは、支援員は、筆者の高度な能力を一切理解できなかったということだ。慎重に能力を見定めようとする支援員であれば、人権基準や職務規定に違反するような言動自体、取らないからだ。だが、当該支援員が理解できなかったのは、筆者が価値を持たなかったからではなく、その支援員自身の視野・成熟度・能力が極めて低かったからである。
第4章 日本の就労支援が抱える「構造的問題」
本章では、日本の就労支援事業が抱える構造的問題を指摘する。
(1) マッチング重視 → 人間軽視
現在の日本の就労支援は、能力の適正理解より“早期就労” を優先する。これは行政側の「雇用統計の改善」を重視する文化とも関係する。
その結果、
・本人の希望
・本人の潜在能力
・回復の段階
・適職探索
・長期的キャリア形成
が軽視され、短期的・機械的マッチングが優先される。それが、本人の利益になると、どうしてみなせるだろうか。
(2) OECDによる警告
OECD Employment Outlook 2022では、日本の就労支援事業の問題点として、
・個別支援の弱さ
・相談員の専門性不足
・労働者のエージェンシー(主体性)の軽視
・人権ベースアプローチの欠如
が、主要な課題として指摘されている。
(3) EUの就労支援は「尊厳中心」
EU諸国(特に北欧)は、
・相談員の資格要件の厳格化
・心理・社会・法制度の専門家による多職種支援
・労働者の自律の最大尊重
・適職探索 → 適性診断 → 長期ビジョンの構築
という構造で運用されている。日本とは思想的に根本が違う。これは、EU諸国が、包括的な憲法教育により、国民に広く深く憲法・人権・尊厳思想が浸透しているということから来る、当然の制度設計・運用であると推測される。
第5章 就労支援職に必要な倫理と成熟
成熟した就労支援者は、次のことを備えている。
✔(1)履歴書の外側を読み取る力
書類に書いていない能力を、50の質問や対話から読み取り、ナラティヴとして統合できる。
✔(2)偏見の自覚
自分のバイアス(年齢偏見・職歴偏見・メンタル偏見等)を把握し、定期的に、偏見の除去・是正のための学習・研修を行っている。
✔(3)求職者を「目的」として扱う態度
カント的言い方をすれば、人を手段として扱わない。これは、日本国憲法・国連憲章・各国憲法にも明記された尊厳思想である。
✔(4)権力勾配を認識したコミュニケーション
「支援者=上、求職者=下」を無意識に前提しない。クライアントに対して、支援者は、自分が特定の権力関係を前提した関わり・語りをしていないかを、常に自己点検し、必要な調整をすることが求められる。そうでなければ、「支援」が「抑圧」「強制」に容易く横滑りし、労働者の権利・尊厳は侵害され、望まぬ就労を強いられる可能性が高くなるからだ。
✔(5)AIと人間の補完関係を理解している
能力の測定にAIを併用すると、“埋もれている強み” が浮かび上がりやすいことを理解している。
✔(6)求職者の長期的キャリアを尊重
短期的な労働市場投入ではなく、本人の人生全体を視野に入れる。
こうした倫理と成熟の欠如した支援者は、求職者のキャリアと尊厳を破壊する危険性が高いだけでなく、就労支援制度・事業全体にも、不利益・リスクをもたらす可能性が高いと推測される。こうした不適格な支援者は、支援制度自体への信頼性を毀損するリスクが高いため、労働者の利益・制度の適正運用及び信頼性確保のためにも、早期の改善が求められる。
第6章 構造的暴力としての就労支援の誤作動
前述した通り、現状の日本の就労支援現場・採用現場では、「能力のある人ほど過小評価される」という逆説が発生している。
そして、支援員・面接官の偏見や未熟さによって、
・適性のない低スキル職に押し込まれる
・自己評価が下落する
・キャリアの失敗が“本人のせい”にされる(本当は構造的不備や支援員・面接官の偏見・未熟さが原因であるにもかかわらず)
という現象が起こり続けている。これは、個人の努力不足ではなく、構造の問題である。
第7章 あるべき未来――“人間中心”と“AI補完”の統合へ
以上の考察を踏まえれば、未来の就労支援の姿は明確だ。
◆ AIの役割:
・書類に現れない能力
・活動履歴
・非定型な経歴
・趣味の高スキル性
・認知能力
を拾い上げること。
◆ 人間の役割:
・ナラティヴの統合
・長期的キャリアの伴走
・尊厳の保護
・求職者のエージェンシーの回復
・心理的安全性の提供
この両方が揃って初めて、“成熟した就労支援”が成立する。人間とAIは、相互補完的に関わることが可能であり、就労支援現場・採用現場では、その可能性は大きいと考えられる。
◆補記(筆者の経験を踏まえて)
第3章で述べたように、筆者は数年前、居住自治体の就労支援施設を利用した際、担当支援員から複数の構造的人権侵害を受けた。
支援員は、筆者の名前を正しく呼ばず、履歴書だけを根拠に能力をゼロ査定し、希望を一切聞かず、一方的に「自分が正しい」とする方向性を押しつけた。
後にこれは、憲法13条・職務倫理規定・ILOディーセントワーク基準に照らしても重大な問題を含むことが判明し、筆者は当該施設・運営法人・自治体・厚労省に、報告書を提出し、調査や再発防止等を要望した(なお、報告書の筆致は、事実の列記、抵触する憲法・法律・倫理規定の指摘、構造分析等を踏まえた、冷静で理性的なものであり、行政官が読むことを想定した書式・文体であったことを付記しておく。特に、制度の不備を制度設計者に伝える際は、感情を廃して、事実と根拠を淡々と積み上げ、改善の検討をしていただけないかとお願いする体裁が望ましい)。
こうした経験も踏まえ、本稿では「支援者の未熟さが、求職者の未来を奪い得る」という問題を強調した。
終章:本来の就労支援の目的
前述した通り、高度な潜在能力があるのに、低スキル職を押しつけられ、自己評価が下がり続けてしまう求職者は、日本に非常に多い。
これは、求職者個人の問題ではない。日本社会の、構造的・制度的欠陥が生んでいる問題である。
就労支援の目的は、求職者を「労働市場に押し込むこと」ではない。これは、完全に非人間的発想であり、日本国憲法・国際人権基準・他国の憲法や就労支援制度の観点からも、許されない。そうではなく、本来の目的は、人がその能力・尊厳・自由を最大限に発揮できる場へ導くことである。
そのためには、支援者側の成熟、偏見の自覚、権力の扱い方の慎重さ、そしてAIとの補完的な協働が不可欠である。
日本がこれらを実装できるかどうかが、今後の社会の成熟度と発展を決定づけるだろう。
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