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【小説】怪異は連鎖する 第二話


アパートの怪異


このアパートで巻き起こる怪異は、主に音だった。これは私が体験した話である。

夕方5時を過ぎていただろうか。日が長くなった初夏の季節。学校を終えて帰宅した私は部屋でのんびりと寛いでいた。そのうちに、段々と眠気に襲われてそのまま横になり眠ってしまった。

それほど深い眠りに入っていたわけではないと思うが、私は携帯から流れるメロディーによって目を覚ました。
まだ夢うつつな頭で横になったままぼんやりと考える。 
 
 
 着うただ。着うたが流れている。
……いや、待てよ。今はスマホの時代であり、着うたなどという機能は使っていない…。

そう気付いた瞬間、体が硬直した。金縛りである。

メロディーと共に誰かの声が聞こえる。女性の声で何か言っている…。
耳を澄ませるけれど、その途端に声が小さくなって何を言っているかは聞こえない…。
もどかしい。

 
そうしているうちに、メロディーは止み、静寂が訪れた。
金縛りに遭っていた体を無理やり動かして、直ぐに携帯を確認した。
そこには、行き付けの美容室からのクーポンの配布を知らせるメールが入っているのみで、なんの変哲もなかった。
やはり着うたなど設定していないし、部屋に誰かいたわけでもない。
たまたま隣の住人の声が聞こえてきた?いやいや、古いアパートだったが流石に話し声が聞こえてくることはまずなかったし、隣の住人も一人暮らしだ。

あの声は何と言っていたのだろう?
 
 
 

ノックの怪異

これは一話に登場した友達のKちゃんが体験した話である。Kちゃんは大の怖がりで、私が怖い話をすると本気で怖がり、嫌がる。
そんな彼女の身に怪異が起こるのだから気の毒だ。

二年生になって直ぐのことだった。朝、学校で渋い顔をしたKちゃんと顔を合わせた。するとやっと話せるとばかりに、勢い良く話し始めたのである。

「昨日は最悪だった!そっちにも行かなかった?」
行かなかった?私には何のことだかさっぱり分からなかった。
詳しく話を聞くと、どうやら昨夜何者かがKちゃんの部屋の扉をノックして、更にドアノブをガチャガチャと弄っていたらしいのだ。

「寝ようと布団に入ったところでやられて、本当に怖かった!ドアスコープなんて覗く勇気ないよ!玄関を見に行くのも無理。怖すぎて一晩中電気を点けたまま寝たんだから!」

一人暮らしの女性の部屋に、それも夜中にそんなことがあったら確かに怖い。
でもそれはきっと…酔っ払いが自分の部屋と間違えて、Kちゃんの部屋の扉を開けようとしていたのだろう。そう言うと、
「やっぱりそうだよね。なんでよりによって私の所に来るんだろう?本当に最悪。絶対に施錠は忘れないようにしよう。」
と身を引き締めていた。
 

 
これで終わりのはずだったのだが…このノックの現象はまだ終わらなかった。
 
 
 
一週間程経った頃である。私は教室で友達と談笑していたのだが、そこに青い顔をしたKちゃんがやって来た。ただならぬ雰囲気のKちゃんにどうしたのか聞くと、私はその内容に驚いた。

「また、来た。また扉をノックして、ドアノブをガチャガチャされた。」
「え…また同じことされたの?Kちゃんの扉をまたノックしてきたの?」
「違うの。今回は夜の8時頃だったから私も起きていて、玄関とリビングを隔てる扉も開けていたから玄関の様子が見えたの。
だけど、ドアノブは動かなくて音だけが聞こえてきた。」
「他の人の扉でやっていたってこと?また酔っぱらいかな…。」
「なんだか酔っぱらいじゃない気がしてきた…。」
 

前回は酔っぱらいだと思えたけれど、二回目となると不穏な空気が漂う。
そこで、Kちゃんと同じく二階住むもう一人の友達Mちゃんにも音が聞こえたか聞いてみることにした。
 

「あぁそれ、私も聞こえたよ。」
Mちゃんの言葉に私たちは少し安堵する。聞こえた時間帯もKちゃんと一致していた。Mちゃんは酔っぱらいだと思っているらしく、全然気にしていない様子だった。
前回の件についても聞いてみたが、その時は分からなかったと言う。夜中の1時頃の出来事だから寝てしまっていたとのこと。

しかしこれで私とKちゃんが気にしていたその正体…
幽霊なのではないか?という疑念は晴れた。
だってMちゃんにも音は聞こえていたのだから。やはり酔っ払いの仕業に違いない。

 
そう考え直したのだが…
なんとこの後もこの現象は続いた。

 
 
毎日来るわけでもなければ、時間帯もばらばら。
更に不思議なのが、KちゃんとMちゃんが聞こえる時間にずれが出たのだ。
一方が夜の7時だと言うと、一方はもっと遅い9時だと言う。
また、一方が聞いたのに、一方は聞こえていないこともあった。
これには流石にKちゃんが泣き出しそうだったので、二階に住む後輩にも確認してみようと提案した。

 
 
実習の時間は一年生と合同で行うので話しかけやすい。住人である後輩を見つけて聞いてみた。しかし…
「音なんて聞こえませんよ!なんでそういうこと言うんですかー!」
と言われてしまった。どうやらこの後輩も怖がりのようだ。勿論、これまでの経緯は話していない。昨日の夜ノックする音が聞こえなかったか?と尋ねたわけである。流石に引っ越して早々に不気味な話をするのは可哀想に思ったので、配慮したつもりだ。
とはいえ、この質問だけでも怖がっている様子だったため
「大丈夫だよ、Kちゃんが変なことを言ってるだけで皆は何とも無いから」
とフォローをしておいた。Kちゃんは不満そうだったが後輩の手前、否定はできなかった。
 
 
他の友達にもこの話をすると、
「それ幽霊じゃない?!」
「Kちゃん可哀想ー!」
などと、とても盛り上がってしまい…
「見に行ってあげなよ!」
と私は言われた。音が鳴ったら私に連絡をして、それから私に二階の様子を見に行けというのだ。
そんなの…御免だ。
 
「見に行って、もしも髪の長い女が扉をノックしているのを見てしまったらどうするんだ。」
そんなことを言ったら一層友達は盛り上がり、Kちゃんは本当にやめてと項垂れていた。

だが実際、髪の長い女もそうだが…生きている男が必死に扉をノックしていたら、そっちの方が怖い。それに、もしも見ているのに気付かれてしまったとしたら…身の危険を感じる。

取り敢えず、お祓いに行った方が良いのではないかとKちゃんに言うと、探してみるとのことだった。
  
  
その後も度々訪れるノックだったが、ある日正体が分かったかもしれない。とKちゃんが言い出した。
聞くと、向かいの部屋のOちゃんが飼っている犬がドアを引っ掻いている音なのではないかと言う。
なるほど。ノックは兎も角、ドアノブをガチャガチャする音はそれと関連付くかもしれない。
ただ、Oちゃんは学校よりもバイトが優先になってしまっており、あまり登校もしていない様子でアパートにも帰らず、実家からバイトに通っている事が多い人だった。そのため喋ったことはほぼなく…学科も違ったため接点もなく、存在は知っているという程度であった。
 
しかし、丁度その日は学校に来ていたので直接聞いてみることにした。きっと音の正体は飼い犬のはず。Kちゃんは確信しているようだった。私も案外そうかもしれないと思っていた。
しかし…
  

「それはないよ。うちの玄関は犬が脱走しないように柵を設置しているから、そもそも犬は扉に近付くこともできないようになってるんだよ。それに、私はよく実家に帰っているから、実家に犬を預けている日も多くて。実は犬がいる日の方が少ないんだよね。」
というOちゃんの言葉で僅かな希望が崩された。

もうお手上げである。
音の正体はなんなのか?分からない。

Kちゃんも落胆し、
「もういいよ。とにかく気にしないようにする。両親に相談して、お祓いにも行ってみる。」
と疲れた様子で言っていた。
「精神的に良くないから、考え込まず気にしない方がいいよ。今日は一緒に夜ご飯を食べて帰ろう。」

 
 
こうして諦めたのだった。その途端…

現象がピタリと止まった。




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