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【天国と地獄/Highest 2 Lowest】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

登場人物
デヴィッド(デンゼルワシントン):NYの超大物音楽プロデューサー。
ポール(ジェフリーライト):デヴィッドの専属運転手。前科持ち。
トレイ(オーブリィジョセフ):デヴィッドの息子。17歳。バスケ部。
カイル(イライジャライト):トレイの親友で同級生。ポールの息子。

監督:スパイク・リー
2025年製作/133分/アメリカ
原題または英題:Highest 2 Lowest
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年9月5日

まずは、物語を三幕8場構成に分解します。

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

一幕

1-1:状況:創設者であるデヴィッドは黒人音楽の本質を追求しなくなりつつある会社の経営方針に疑念を持って、自宅億ションまで抵当に入れて資金を工面して自社株を買い戻し、経営権を取り戻すまであと一歩に迫っていた。

1-2:目的:バスケ合宿に送り出していた息子トレイが誘拐される。デヴィッドはすぐさま警察に連絡して、会社買収のために捻出した資金を犯人から要求された身代金1750万ドルに充てると即決する。

二幕

2-3:障害:トレイが警察に発見されるも、犯人が人違いでカイルを誘拐していたことが発覚する。デヴィッドは身代金支払いを一度は拒否するが、トレイと妻とポールから懇願・説得されて長時間悩んだ末に再び支払いを決意する。

2-4:障害:デヴィッドは犯人の指示に従って大金を詰めたリュックを背負いNY地下鉄に乗る。走行中に犯人から電話で指示されて車両の連結部分に出たところを、共犯者が非常ブレーキで電車を止めて、その弾みでデヴィッドは鞄を落としてしまう。鞄は高架下で待機していた共犯者集団の連携プレーで持ち去られる。犯人は約束通りカイルを解放する。

2-5:状況:デヴィッドの行動は大手メディアやSNSで好意的に大バズりして会社の売上も爆増したが、そもそも会社買収目的で資金を提供していた人達はデヴィッドの目的外利用は詐欺にあたるとして2週間以内の返還を要求して、デヴィッドは経済的に窮地に立たされる。一方でカイルの証言は犯人特定に繋がらなかったが、室内に繰り返し聴こえてきたので覚えていた特徴的な曲が会社のデモ音源の中にあったことでデヴィッドは犯人を確信するも、警察は操作手順に従って優先順位が低いとしてまともに取り合わない。

2-6:障害:ポールの提案で、デヴィッドは二人だけで直接犯人らしきラッパーの自宅に武装して訪問する。犯人はデヴィッドに心酔していて長年ずっとデモ音源を送り続けたが、採用されなかった逆恨みで誘拐を実行したことが発覚する。音楽スタジオで録音中だった犯人とデヴィッドはラップバトルをして勝利する。負けた犯人は銃撃戦を始めるが、逃げる犯人をデヴィッドは地下鉄で確保する。後日、警察が犯人の自宅から身代金を押収する。

三幕

3-7:佳境:犯人は一躍「世界で最も再生されているフリーミュージシャン」になる。犯人は司法取引で25年の刑期を受け入れて、その条件としてデヴィッドとの面会を希望する。面会室で犯人は意気揚々とデヴィッドに専属契約を持ち掛けるが、デヴィッドは「興味ない」と一蹴して辞退し、犯人が取り乱して面会は強制終了される。

3-8:結末:会社を辞めたデヴィッドは、妻とトレイとの三人で始めた新しい音楽レーベルで、オーディションに来た若く才能のあるミュージシャンと出会い、幸福と希望を感じる。

FIN

▼解説・感想:

#天国と地獄 #Highest2Lowest
Apple新作映画。1963年の黒澤明版に比較的忠実な序盤こそスローだったりリメイクに際して欠落した部分がノイズに感じたりしたが、中盤からのアメリカ的な味変と、ラスト30分のスパイク・リー的解釈が全開になってからは最高に楽しい。やっぱりすごい監督だわ。

2025年に今更似たような犯人像にしても面白みに欠けるよなーどうするんだろーと思ってたので、結末のツイストはかなり面白く感じた。前提知識の有無で面白さが結構大きく変わると思うので、1963年版と合わせて視聴することを強くオススメする。

https://x.com/james_miles_jp/status/1978475839764471946

●構成

1-1:状況:黒人文化を守るための賭け
1-2:目的:息子が誘拐される
2-3:障害:人違いで迷う
2-4:障害:電車
2-5:状況:金を返さないと人生終了
2-6:障害:ラップバトル、そして銃撃戦
3-7:佳境:面会、そして拒絶
3-8:結末:新しい才能との出会い

1963年の黒澤明監督オリジナル版が大胆な2部構成(三幕を2回繰り返す)だったのに対して、2025年のスパイクリー監督リメイク版ではよりコンパクトな三幕構成になっていました。黒澤版では後半は主人公が大富豪から担当警部に鮮やかに切り替わりますが、リー版では最初から最後まで大富豪が主人公となっています。

■1963年版あらすじ(ネタバレ注意)
1-1-1:状況:権藤の危うい財政状況の説明。
1-1-2:目的:奇特な誘拐事件と身代金要求の提示。
1-2-3:障害:身代金への対応に葛藤する権藤。
1-2-4:障害:部下にも家族にも対立して追い込まれる権藤。
1-2-5:状況:警察と青木が一歩退いたことで逆に漢気を見せる権藤。
1-2-6:障害:トリッキーな身代金の受け渡し場所の提示と対策会議。
1-3-7:佳境:特急こだまを使用した常軌を逸した身代金受け渡し。
1-3-8:結末:進一を取り戻す権藤;警察は決意を新たにする。

2-1-1:状況:新聞で英雄視される権藤と、まだ検挙されてない犯人。
2-1-2:目的:権藤の社会的に救うべく警察チームは捜査に邁進する。
2-2-3:障害:盗難車の発見と、江ノ電の特定。
2-2-4:障害:青木の独自捜査と、共犯者の不審死。
2-2-5:状況:警察は粘り強い捜査の末に、犯人を竹内だと特定する。
2-2-6:障害:警察の尾行中に竹内は新たに殺人を犯す。
2-3-7:佳境:警察は竹内を逮捕する;権藤は動産執行される。
2-3-8:結末:竹内の死刑が確定し、権藤は竹内と面会する。

【天国と地獄】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)

●ツッコミポイント

単純に貧富の差から生じる金銭的な不公平感を描いた1963年版から、それをラップバトルの形に昇華して見せたのはかなり良かったと思います。

ただし、細かいところでは気になる点が多く残る映画であったのもまた事実です。ちょっと書き出してみましょう。

1)共犯者の話が未解決でしょ?

売れないラッパーが、どうやってあんな統制された現金強奪チームを結成できたのか、謎すぎます。(笑)

①電車が特定の場所に来た瞬間に非常ブレーキを掛ける、②それまでフェスのダンスに参加していた男がデヴィッドのバッグをナイスキャッチする、③それを複数人のバイク便で曲芸のように連続キャッチボールして警察を撹乱する、④一時的にGPS発信機の電波が届かない建物の中に入る、⑤そこでGPS付きバッグの中身を現金からタンポンにすり替える、⑥別行動で共犯者二人組は連絡を受けて人質を公園のブランコに放置する。まるでオーシャンズ11のようなスーパーアクションの連続です。こんなに複雑で高度なミッションを実行可能な犯罪者集団を組織できるほど優秀な犯人ならば、とっくに別の分野で成功してるっつーの!(笑)

おそらくプロデューサー側から無理に脚本に押し込められた、映画を派手で格好良くするためだけの、ご都合主義エレメントにしか思えないですね。

しかも、バッグ強奪の後は共犯者たちのことは全く言及されないとか、無茶苦茶にも程がありますよ。支離滅裂で、まさに破綻です。(笑)

2)誘拐して監禁した場所で自分の曲をかけるか?

たぶんカイルはずっと犯人が使ってるスタジオと同じアパートに監禁されていたのですが、誘拐した人質に自分のデモ音源をずっと聴かせるなんて、犯人の自己顕示欲が強すぎます。(笑)

3)突入する自動車の助手席でシャドーボクシング?

これもめちゃ不可解な行動です。これから犯人に凸るぜ!ってなってる「マトモな大人」が、自動車の中であんなシャドーボクシングするか?過激な配信で人気を集めるような、迷惑ユーチューバーじゃねえんだぞ?(笑)

4)訓練された動きは、まるでイコライザー(笑)

デヴィッドがラップバトルするまでは良かったですが、犯人に撃たれても全く怯まず、冷静にピストルを持って追跡して、最後は地下鉄車両内で追い詰めて、パンチでノックアウトさせる…って25年ずっとやってきた音楽プロデューサーにできることじゃないのよ!(笑)

もっとビビりながら、でも事故的に撃ってしまった銃弾が当たる、くらいで適切でしょう、本来は。

あれ、この映画って『イコライザー4』だったっけ?

5)アップルの商品のプロモーション?

デヴィッドがこれ見よがしに使ってる金のbeatsヘッドホンには、ちょっと笑ってしまいました。

まあアップルTVの映画だからこのくらいやっても良いと思いますけど。

6)謎のイスラム教プロモーション

デヴィッドが身代金を払うとポールに言った後、イスラム教の流儀で地面に平伏して神に感謝するポールの映像が1分50秒流れます。正確には間に監禁されているカイルの画が挟まるのですが、感動的で荘厳なBGMで、セリフ無しで、ただ神に感謝するイスラム教徒を2分近く見せつけてきます。

別に監督やプロデューサーの意向で、特定の宗教を持ち上げる演出があること自体は、私は全然構わないのですが、セリフも無しで2分も「とても崇高で美しいもの」としてイスラム教の祈りを見せられるのは、流石にやりすぎというか、政治色を感じてしまう演出でした。

アップルはリベラル派と親和性が高い企業なので、多少はそういう政治的・宗教的主張があっても良いと私は思いますが、最近のアメリカ映画にしばしば見られる、このトランプ政権に脅威を感じる人達のなりふり構わずな感じは、ちょっと嫌悪感持っちゃいますね〜。


ここに挙げたような不自然に気づきやすい人は、色々とノイズを感じて、評価を下げてしまう映画かもしれない、とは思いました。

もっと純粋にブラックミュージックへのリスペクトだけを詰め込んだ映画にだって出来たかもしれないのに、ちょっと勿体無さを感じる作品でした。

●こぼれ話

Jeffrey Wright on nerves acting with son Elijah Wright in 'Highest 2 Lowest' https://youtu.be/nnQX4QdZX4A

ジェフリー・ライトの息子役をジェフリー・ライトの息子イライジャ・ライトが演じています。

特に違和感なく観ていたのですが、エンドクレジットでElijah Wrightって書いてあってまさかと思って調べたらそのまさかでビックリでした。

(了)


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