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日本人の物語00110【人代前期】箸墓古墳*

 箸墓古墳は、奈良県桜井市にある全長280メートルの前方後円墳です。3世紀中頃に作られたと考えられています。ここに眠っているのはモモソヒメとのこと。古事記は、モモソヒメの死について不思議な伝説を語っています。
 モモソヒメの寝屋に、夜な夜な忍んでくる貴人がありました。彼は夜遅く来て、朝日が昇る前に帰っていきます。モモソヒメは男が夜しか姿を見せないので、
「朝に姿を見せてほしい」
と懇願します。男は、
「では明朝、櫛箱を開けてみなさい。そこに忍び入っておくから。しかし私の姿を見ても決して驚いてはいけないよ」
と言います。よくあるパターンです。もうどうなるか展開が読めてしまいますね。
 翌朝、目を覚ましたモモソヒメが櫛箱を開けてみると、なんと中では蛇がくねくねと身をよじっていたのです。モモソヒメは悲鳴をあげてしまいます。
 蛇の神といえばオオモノヌシですね(00083回参照)。そう、男はオオモノヌシだったというわけです。
 オオモノヌシは
「私に恥をかかせたな。お前にも恥を与えてやる」
と言って去っていきました。
 モモソヒメはへなへなと倒れこんでしまいますが、ちょうど床に立ててあった箸がホト(女性器)に突き刺さり、その傷でモモソヒメは死んでしまったというのです。
 ホトの傷によって死ぬという話は神話にたびたび出てきます。イザナミは火の神を産んだ際にホトに火傷を負って死んでしまいますし、スサノオが高天原で暴れまわったときは、機織女が梭(ひ)でホトを突いて死んでしまったとの記述もありましたね。一説には強姦され殺されたことの隠喩ではないかとも言われています。
 さて、オオモノヌシはひどく恐ろしい祟り神のようですね。疫病で国民を次々殺し、巫女パワーを持つ強力な預言者モモソヒメをも殺してしまいます。
 しかし、タケハニヤスヒコの反乱事件などでは神がかり的な凄さで全知全能のように見えたモモソヒメが、箸墓伝説においては男の正体が分からず困っていて、まるで別人のようです。実際には複数のモデルがいるのを一人の人物に仕立て上げたのかもしれません。
 箸墓古墳は、200メートル超えの前方後円墳としては最古のもので、伝説上はモモソヒメの墓とされていますが、考古学的には誰が被葬者なのかが未だ分かっていません。
 これほどの規模の墓を、天皇にもなっていない一皇女に過ぎないモモソヒメのために作るのは不自然ともいえます。実際にはヤマト政権円熟期の天皇の墓ではないかとも考えられます。

奈良県桜井市の箸墓古墳。2026年5月5日撮影。

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