傲慢な善意と無知の悪意が突き刺さる佳作:舞台『Take Me Out』<レジェンドチーム>
再再演だそうですが私は初見。
黒人の母と白人の父を持つメジャーリーグのスター選手、ダレン・レミング(章平)は、敵チームにいる親友デイビー・バトル(辛源)の言葉に感化され、ある日突然「ゲイ」であることを告白。それは、150年に及ぶメジャーリーグの歴史を塗り替えるスキャンダルであった。
ダレンのカミングアウトに対し、チームメイトのキッピー(三浦涼介)をはじめ、キャッチャーのジェイソン(小柳 心)やダレンの理解者である会計士のメイソン(玉置玲央)、監督のスキッパー(田中茂弘)らは好意的であった。しかし、セカンドのトッディ(渡辺 大)や、ドミニカ人選手のマルティネスとロドリゲスらは怪訝な態度を示す。そして、日本人選手のタケシ・カワバタ(原 嘉孝)は相変わらず何も語らなかった。ダレンが所属する「エンパイアーズ」内には軋轢が生じ、次第にチームは負けが込んでいく。
そんなときに現れたのが、天才的だがどこか影のある投手、シェーン・マンギット(玲央バルトナー)。圧倒的な強さを誇る彼の魔球は、暗雲立ち込めるエンパイアーズに希望の光をもたらしたのだが――。
シニカルとコミカルが絶妙に混ざり合い、圧巻の展開が待ち受ける……!!!


三浦涼介さん演じるKIPPYの13番にしました

2003年第57回トニー賞演劇作品賞を受賞し、2022年の第75回トニー賞では演劇リバイバル作品賞を受賞。衝撃的な日本初演となった2016年には第51回紀伊國屋演劇賞団体賞の対象作品となり、2018年に再演した本作が、7年の時を経て、装いも新たに再始動!
3回目の再演ということはやはり良い作品だから。
人種差別、ゲイへの偏見、文化と個人の価値観のぶつかり合い、試合中に起こる殺人?事故?どっち?・・・・・そして何事も無かったようにエンパイアーズはリーグ優勝して優勝祝賀会にみんなが向かう。
クビになって地元のCVSで銃をぶっぱなして牛乳瓶を割り続けて逮捕収監されたシェーンを除いて。
150年におよぶMLBの歴史の中でゲイであることを公表した選手は2人だけ
ちょっと調べてみました。トランプ政権になる前のアメリカは多様性に対してはとてもオープンで進化的だったので知らなかった。
MLBはずっと保守的だったのですね。
『Take Me Out』のBWでの初演は2003年だったので、このことを知る前は
「2003年くらいにゲイをカミングアウトした話は米国では衝撃だったのだろうか?」と思いながら昨日観劇していたのですが、そういう問題では無かった。MLB150年余の歴史上カミングアウトしたプレイヤーはたった2人だけだったんだ・・・・・
150年におよぶMLBの歴史の中でゲイであることを公表した選手は2人しかいない。一人目はグレン・バーク(1976―79年、LAドジャース、オークランド・アスレチックス)。彼は差別を受け、チームメートの中には同じシャワー室を使うのを拒否する者もいた。(中略)
1980年に就任したビリー・マーチン監督の言葉を思い起こしている。監督は新しく入った選手たちにバークをこう紹介した。
「ところで、こいつはグレン・バーク。ホモ野郎だ」
1980年のスプリングトレーニング中、バークが膝を負傷すると、マーチン監督はこれ幸いと怪我を理由に彼をユタ州のマイナーリーグチーム送りにし、シーズン終了を待たずに契約を解除した。
バークは言った。「偏見が私を野球界から追いやった。まだその時ではなかったのに」
章平さん演じるダレン・レミングの物語と似てますね。
『Take Me Out』ではダレンのカミングアウトにより起こる登場人物の価値観との葛藤、偏見の露呈、そこから始まる悲劇と収束が描かれています。
本人は気づいていなかった傲慢な善意。三浦涼介さん演じるキッピー
誰からも好かれている(ように見える)キッピー。頭が良くて穏やかで優しくて常に他者をポジティブに理解しようとする人。他者との距離感の取り方がとても上手。人には誰でも善良な部分があると信じているような人。
ところが・・・・・
愛する妻と3人の子供たち。それでいて大リーガー。非の打ちどころが無いじゃないですか。しかもルーツは北欧。
そんなキッピーがシェーンの告白を聴いて、自分の善意は本当に無垢で無償の善意だったのか?を疑い驚愕する。
このあたりのお芝居に心が震えた。
私が三浦涼介さんを初めて拝見したのは、東宝初演の『1789』の時。
”ん???まるでタカラヅカの元男役みたいな人が居るんだがそうなのか?”と思ったけれどあの深くて低い声は男性。
驚愕してそれまでの私の価値観はひっくり返った。
『宝塚の男役より美しい舞台俳優はこの世に存在しない』
ええと、存在しました・・・・www
ビジュアルも、そのスタイルも劇画から抜け出て来たよう。
そんな奇跡のビジュアルなのに歌も上手で声が深くて美しくて身体能力も高くて・・・・三浦さんを知って、”ああもう男役って必要無くなってしまう時代が遂に来てしまうのか?”と思ったくらいでした。
その後はるろ剣の蒼紫、そしてミュージカル『エリザベート』のルドルフ役で舞台で拝見してきましたが、ストプレの三浦さんを観るのは初めて。
私はなぜ『オイディプス王』を観に行かなかったのか・・・・激しく後悔。
『Take Me Out』のキッピーはストーリー・テラーの役割もあるのでとにかくセリフが多い。あの印象的な深くて美しい声が物語の進行にとても合っている。
シェーンの告白の時にキッピーが気づく”傲慢な善意”→自分はシェーンを理解出来ると思っていた、理解していると思っていた、でも出来てないし、出来ない・・・・・の芝居に鳥肌が立ちました。
恐らくそれまでのキッピーは頭がいいから、自身はしっかりセルフコントロール出来るし受容性もその知性と教養で高いし、極端なことを言うと自身の親や子を殺した犯人のことも時間が経てば理解できるはずだと思っていたのではないか?
しかしながら目の前のシェーンの告白を聴いた時・・・・・初めて自分の感情や価値観に疑問を持ち自身にも受け入れられない人が居ることに気づく。
キッピーがデイビーへの死球の真相を問いただすシーン。
キッピーは「知っていることなら耐えられる(だからシェーンに話せと迫る、自分は耐えて受け入れるから、と)」と言います。
しかしシェーンは「俺からすると知らなくていいほうのことが、いっぱいある」と言い、シェーンが知っている事実を話し始めます。
試合前に偶然デイビー(辛源)とダレン(章平)の会話を聞いてしまうこと。デイビーはダレンがゲイだということに嫌悪感を持っていてダレンを拒絶する。ダレンはデイビーに「死ね!」と言う。
その後試合前のシャワールームでシェーンはダレンに襲われかけて怒りと混乱のままマウンドに立ち、デイビーに文字通り死球を躊躇なく投げる。
シェーン「だってダレンはあいつ(デイビー)に死ね!って言ったんだぜ?」この言葉を聞いたキッピーは恐らく人生で初めて”知らなくていいほうのこと”を知ったのだと思いました。
でも、シェーンは今までの人生で”知らなくていいほうのことがいっぱいあった”のです。
この時のキッピーとシェーンの芝居が本当に息が止まりそうになりました。
私も”知らなくていいほうのこと”を知ってしまった瞬間でした。
いや~三浦涼介さん。ぜひぜひぜひシェイクスピアの世界にまた来ていただきたい。吉田鋼太郎さんの演出で何かやって欲しい。ハムレットとか。まず。
【演劇人が酔いしれる夜】というFODの配信番組の中で、
出演していた俳優さんが”この人は今まで会った人の中でも凄い!と思った俳優は誰か?”の話題の時に”三浦涼介さん”と言ったんですね。
その理由は芝居への入り込み方が本当に命を賭けているようにハンパ無い、ああいうのはとても出来ない、凄い・・・・という事でした。
ぜひ、シェイクスピア劇の世界に戻っていただければ・・・・・
無知の悪意を罰することは可能なのか?それを突き付けたシェーン役の玲央バルトナーさん
この方。すんごいです。
私は舞台で拝見するのは初めて。
シェーンは”善悪が分からない”人です。壮絶な生い立ちのせいでもあるのですが、ずっと自分の居場所が無かった幼少期~青年期を過ごし、唯一野球だけが自身の居場所。
”善悪が分からない人”を演じることの難しさ。それをゾッとするくらい見事に演じられている。
その昔に観た『BLUE ORANGE』の時の章平さんを思い出しました。
ドイツ人と日本人のハーフ。2015年、新国立劇場演劇研修所に入所。主な舞台出演作に、2017年朗読劇「ひめゆり」、第11期生 試演会「ある階段の物語」などがある。特技は、英語、殺陣、アクション、サッカー。
この作品にはミックスの俳優さんたちが出演されています
日本の場合特に舞台ではミックスの俳優さんたちの活躍の場は限られていることが多い。(あの城田優さんでさえ身体の大きさとビジュアルでオーディションを何度も落とされたと言ってました)
この『Take Me Out』の登場人物はMLBの大リーガーですから、やっぱり身体が大きいこと、そして多様な国籍や人種をビジュアルでも訴求するにはミックスの俳優さんたちが活躍できる数少ない作品です。
日本の演劇界ももっともっとこういう方たちに舞台に立つチャンスをフェアに提供して頂きたい。
最後に玉置玲央さんの安定感。でもメイソンがどんな人なのか?がよく分からなかった
「ジョン王」の時の強烈な個性のコンスタンスが私の初ナマ玉置さんだったため、今回のメイソンという役柄からはメイソンてどんな人なんだろう?
何にこだわっているのか?何に葛藤するのか?がよく分からなかったです。
何にこだわっているのか?はそうだ、会計士だから考える時に数字を基に考えていたっけ。
だけど、何に葛藤するのか?は見えてこなかった唯一の役。
もしかしたらメイソンの中に”葛藤”自体が無いのかもしれない。
メイソンの玉置さんを観ていたらなぜか成河さんと松下洸平さんを思い出しました。というか成河さんと松下洸平さんがメイソン役をやっている想像をしてしまった。なぜだろう?
スタッフ
作:リチャード・グリーンバーグ
翻訳: #小川絵梨子
演出: #藤田俊太郎
キャスト
レジェンドチーム
#玉置玲央 / #三浦涼介 / #章平 / #原嘉孝 / #小柳心 / #渡辺大 / #陳内将 / #加藤良輔 / #辛源 / #玲央バルトナー / #田中茂弘
ルーキーチーム
富岡晃一郎 / 八木将康 / 野村祐希 / 坂井友秋 / 安楽信顕 / 近藤頌利 / 島田隆誠 / 岩崎MARK雄大 / 宮下涼太 / 小山うぃる / KENTARO
ベンチ入り(スウィング)
本間健太 (レジェンドチーム) / 大平祐輝 (ルーキーチーム)
2025年5月17日(土)〜6月8日(日)
東京都 #よみうりホール

