【叙事詩】セトナ王子と亡霊の呪い ④『誘惑と堕落』
第四節:誘惑と堕落
二階の部屋は広く、隅々まで清らかに保たれ、
ラピスラズリとトルコ石が敷き詰められた床には
薄い亜麻布が広がっていた。
テーブルにはあらゆる御馳走が並び、
黄金の盃には香り高いワインが満たされていた。
タブブは静かに盃を差し出した。
「どうぞ、お好きなものを」
セトナは盃を受け取り、
香炉と煙と御馳走の香に心が高揚していった。
「あなたの望みを叶えたい」
セトナはそう言った。
タブブは静かに答えた。
「それならば、あなたの家財をすべて譲りなさい」
セトナは書記を呼び、契約書を作らせた。
そのとき、セトナの子らが屋敷に到着したと知らせが入った。
セトナは子らを呼び入れた。
タブブは薄い亜麻布をまとい、
その姿はまるで神殿の幻のようであった。
セトナの心はさらに乱れた。
「あなたの望みを叶えたい」
セトナは再び言った。
タブブは静かに告げた。
「それならば、あなたの子と私の子が、
あなたの財産を争わなぬようにしなさい」
セトナは契約書を作らせ、
子らに署名させた。
タブブはさらに言った。
「争いが起きぬように、
あなたの子たち――消しなさい」
セトナは震える子らの前で言った。
「あなたが不快に思うものは、消えねばならぬ」
彼は子らを自らの手で無き者とした。
そして、その亡骸を窓から放り投げた。
外では、動物が何かを食む音がしていた。
だが、セトナとタブブは気にも留めず、
静かに盃を交わしていた。
「さあ、すべて片付きました。
あなたの望みを叶えましょう」
セトナがそう言った。
タブブは静かに答えた。
「寝室はこちらです」
セトナはタブブの導きに従い、
寝室のベッドに横たわる彼女へ腕を伸ばした。
そのとき――
タブブは地面が揺れるほどの大きな叫び声を上げた。
第五節につづく
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本叙事詩は、大城道則氏『神々と人間のエジプト神話』に収められた
「セトナ・カエムアスとトト神の魔法の書」をもとに、
守護女神メルセゲルの視点から再構成した創作作品です。
