【叙事詩】セトナ王子と亡霊の呪い ③『絶世の美女タブブ』
第三節:絶世の美女タブブ
プタハ神殿の中庭は半日陰の穏やかな光が差し、
砂の匂いを風が運び、足音が小さく反響していた。
中庭を、見慣れぬ一行が通り抜けようとしていた。
オベリスクの台座に腰かけていたセトナは、
その一行の先頭を歩く女性に目を奪われた。
彼女はこの世のものとは思えぬほど美しく、
黄金の装飾具をまとい、
多くの召使を従えていた。
セトナは一瞬で心を奪われた。
「今すぐ彼女の住まいを調べろ。
そして何をしに此処に来たのか聞け」
召使が行列の後ろへ回り、
女性の召使に尋ねると、こう答えた。
「あの方はバステト女神の預言者のご息女、タブブ様です。
大神プタハへの参拝のために来られました」
セトナはその言葉を聞くと、
ただちに召使に命じた。
「私はファラオの息子、セトナ・カエムアスだ。
大量の黄金を与えるから、一時間ともに過ごせと伝えよ。
さもなくば力づくでものにする、と」
タブブの召使は叫び声を上げた。
タブブは振り向き、セトナの召使に言った。
「そのうるさい女と話すのはやめて、こちらへ来なさい」
セトナの言葉を聞いたタブブは、静かに答えた。
「セトナ王子に伝えなさい。
私は高貴な家柄の者です。
ブバスティスの私の家を訪ねなさい。
そこでは、あなたが望むことができるでしょう」
セトナは「望むところだ」言い、
すぐに船を出させた。
ナイル河を北へ下る数日のあいだ、
セトナはタブブのことばかり考えていた。
やがて船はブバスティスに到着し、
セトナはタブブの屋敷へと向かった。
広い庭園、豪華な門、
高い塀の奥にはテラスが据え付けられていた。
タブブが建物から現れ、
セトナの手を引いて言った。
「バステトの預言者の家に、
あなたを招けるとは、なんと幸運でしょう。
さあ、私と参りましょう」
私は見た。
セトナがタブブの正体も知らず、
言われるがままに階段を上って行ったのを。
第四節につづく
※こちらからお読み頂くと、更に楽しめます。
本叙事詩は、大城道則氏『神々と人間のエジプト神話』に収められた
「セトナ・カエムアスとトト神の魔法の書」をもとに、
守護女神メルセゲルの視点から再構成した創作作品です。
