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死ななくても行ける極楽、スーパー銭湯について

人は死んだらどこへ行くのか。天国か、地獄か。
空飛ぶスパゲティモンスター教の天国には、ビールが噴き出す火山があるらしい。

漫画家の山田玲司は『しんだらおんせん』という絵本を描いた。そこでは、人は死んだら温泉に行く。

僕は死んだらスーパー銭湯に行きたいと常日頃から思っている。
別の記事で「スーパー銭湯=極楽説」を唱えたことがあるくらい、スパ銭が好きだ。

僕がこうなったのには理由がある。
僕は一度、健康ランドに命を救われたことがある。

若いころ、僕は自転車で日本一周をした。
旅の途中で、ふと、どこまで走れるのか試してみたくなった。季節は夏だった。そして、夜通し寝ずに走り続けた。

気づけば一つの県を素通りし、200キロ近く走っていた。
夜が明け、太陽が昇り、強い日差しを背中に受けながらもまだ走っていた。

そこは見知らぬ地方の、地平線まで続くような田んぼの真ん中だった。自動販売機もない、まっすぐな一本道でひたすらペダルをこいでいた。

突然、全身が重くなった。
高熱のときのように、体の内側が痛くなる感覚だった。何が起きたのかわからなかった。足は動くが、うまく力が入らない。
今にして思えば、熱中症だったのだと思う。

止まって助けを呼ぶべきか、動けるうちにどこかへ辿り着くべきか。頭の中でいくつも選択肢が浮かんだ。
周囲には田んぼと、その先の山しか見えなかった。

そのとき、遠くに原色の派手な看板が見えた。
何の施設かはわからない。ただ、そこへ行けば何かある。

近づくにつれ、文字が読めた。
それは健康ランドの看板だった。

到着してみると、古びた、派手な建物だった。
けれど僕には、竜宮城に見えた。

僕は水風呂に入り、シアタールームで横になった。

シアタールームでは、ちょうど『硫黄島からの手紙』が始まったところだった。ちょっと見たいと思っていた映画だったので、暇つぶしにはちょうどいいと思った。
そこで記憶が途切れた。
目が覚めると、『父親たちの星条旗』のエンディングが流れていた。
その健康ランドは24時間営業で宿泊もできたので、そのまま翌日まで休んだ。

吉本隆明は『ひきこもれ』の中で、銭湯とは「大勢の中にいながら孤独でいられる場所」だと書いている。

銭湯というのは大勢人がいるけれども、誰とも口を利かなくても別におかしいことはない場所です。
(中略)
つまり、大勢の中の孤独ということです。

『ひきこもれ』吉本隆明

『ワンピース』のアラバスタ王も似たようなことを言っている。

「権威とは服の上から着るものだ…だがここは風呂場」

『ワンピース』ネフェルタリ・コブラ 

スーパー銭湯にはこの世のすべてがある。
空調の整った休憩所。
好きなときに入れる風呂。
スポーツドリンクの自販機。
ビールも注文できるお食事処。

そして、だいたい、みんな機嫌がいい。
みんな権威も服もない。
誰も何者かになろうとしていない。
スーパー銭湯は、死ななくても行ける極楽だ。

そして、スーパー銭湯は比喩でもなんでもなく、
命を救ってくれる場所であることを、僕は知っている。

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