おきび
この詩「おきび」は、炎の移ろいを通して人の一生を描いたものです。
激しく燃え上がる紅蓮の炎は、悔い、願い、怒りといった人の情念を象徴します。やがてその炎は静まり、深く沈んだ赤――臙脂となり、最後には灰の下で静かに温もりを残す熾火へと変わります。
若き日の激しさも、流した涙も、すべてを抱きしめて生きた先に、人は静かな終章へと向かいます。
本作は、燃える人生を経て、やがて熾火のように穏やかに残る命の姿を描いた詩です。
あめつち暗く ものもなき
はじめの息の ひとかけに
炎はうまれ そらを焼く
紅蓮のいろと なづけらる
心のうれひ ねがひごと
みをも薪(たきぎ)と なしはてて
なほ尽きじとて 燃えのぼる
いのちのたけの あかき火よ
されどもひとは 燃えつきて
ひかりはやがて しづまりぬ
灰のしたにも 消えやらで
ふかきぬくもり やどりけり
紅よりよりも 赤(あけ)よりも
しづかにふかき そのいろは
としのかさなり みをへつつ
ゑんじのいろと なりにけり
さけびは骨に しづみゆき
なみだは血へと かへりゆく
燃えしすべてを 身におさめ
火は熾火とぞ なりにける
ひとは終には ゆくものを
しづかにゆかむ ねがひあり
燃えし月日を 抱きしめて
ひとつのあかと なりてゆけ
そらを焼かずて なお残る
地にしづみたる あかき火よ
いのちのはてに ともるもの
これぞおきびの すがたなる
