「シュライバー・アトキンス無機化学(上・下)」にひととおり目を通したのちに本の訳者のひとりのノーベル賞受賞を知る

はじめに
大学・大学院で化学を専攻し幾年月。そのあいだにこの学問領域もさまざまあらたな分野が築かれているらしい。そこで「まなびの森」にて、そんな化学の各分野を同行のかたとともに各種とりあげて学んできた。かれこれ8年半つづいている。ほんの1年あまり前だろうか。ようやくとりあげていた大部の書物をひととおり学び終えたところ。するとその書物の訳者が⋯。
きょうはそんな話。
まなびの森で
しごとがおわり夕食後のリラックスした時間帯に「まなびの森」を開催。8年半のあいだとりあげた書物はあくまでも専攻の範囲の化学と生命科学の範疇。もちろん中学・高校で履修する内容をひととおり終えたのちに取り組んできた。現在は「キャンベル生物学」をたんねんに学んでいる。
わたしが転職してからのちにも、上記の分野はめざましい進展をみせている。その欠落した期間の情報を埋めようとしているがやはり時間がかかる。化学と生物学の範囲だけでも概観するのはなかなかむずかしい。
そこで
さらに複合領域・境界領域ともいうべき、たとえば化学と医学、生物学と工学などの分野もさまざま進展をみせる。それらは将来にわたり人類が持続するうえで欠かせないものになりつつある。
21世紀初頭でもまだなかった概念や考え方、あらたなる発見に基づいた生体内での分子の機能など大学生~大学院生レベルのテキストであってもページを開くたびにあらたな概念に遭遇し、そのたびにため息が出る。高校生に教える生物の教科書の内容がさまがわりしていくはずだと納得。
選んだ書物
3年あまりまえのこと。ちょうどまなびの対象は無機化学。もはやこの分野の知識ははずかしながら20年前の段階で止まっていた。おくればせながら基礎化学を大きく分けると、この無機化学、物理化学、有機化学、生化学などがあがる。このうち無機化学はわたしの知識は大学生時代で止まっている。その間の欠落を埋めるべくどうしたものかと適切な書物を探した。書店でえらんだのは表題の「シュライバー・アトキンス無機化学(上・下)」。
これらの2冊(合計1000ページほど)を2年近くかけていっしょに学んだ。
生化学や有機化学が炭素を中心に生体を構成する主要な元素や分子をとりあつかう一方で、無機化学は地球上にあるすべての元素についての化学的挙動をあつかう学問。やはり視野がひろがるし、ことなる視点から化学を捉えられる。生命との関係もこのところ頻繁にとりあげられている。
読みすすむ
これらの書物に着手してとくに印象に残ったのは無機化学のテキストでありながら、上巻のはじめのほうに原子軌道の概念について、イラストをふんだんに示しつつとり入れていること。高校化学を理解した状態ならばたいへんわかりやすい。さらになかほどで分子の対称性を群論で説明していく。このあたりがこのテキストを先へ進んでいく際の難所かもしれない。
大学院生のころ、旧帝大の大学院の受験を考えた時期があった。知り合いからノートの写しを入手し、結晶学の行列の式がならぶあたりを垣間見て、独学では残り時間では難しいと断念した記憶があった。やはり講義を受けないと概念の理解が難しい。
とはいえ、なんとかこのテキストではのりこえて先へ。必要に応じてここを見返すようにしてすすむ。
下巻へ
そして下巻。上巻の第Ⅰ部の基礎論につづいて第Ⅱ部の元素ごとの各論。これが周期表の族の順序でつづいたあと、d金属の有機金属化学やf-ブロック元素の記述が登場。耳新しく興味深いものだった。
そして第Ⅲ部の最先端研究へ。ここは生命科学や材料科学など最先端分野で無機化学とからむところ。いかに無機化学の素養が必要かが理解できる。光触媒や半導体、ナノ材料などこのテキストで触れて概念をもとに説明が進んでいく。1ページめくるたびに中途半端で欠落していたそれらの最先端分野の化学的な側面を補充してくれる。
圧巻は終盤の生物無機化学。もはやこのページから先は生命系のテキストと見まごう内容。タンパク質などの生体分子コンピュータ・グラフィックのイラストがふんだんに説明に使われている。鉄-硫黄クラスターなどはいくたびもページを行き来しつつ理解を深めた。
おわりに
先日、ニュースが舞い込んだ。北川進氏が、リチャード・ロブソン氏、オマー・ヤギー氏とともに本年のノーベル化学賞を受賞された。この2冊の訳者5名のうちのおひとり。彼らの業績はこのテキストの772,811ページあたりに金属有機構造体(MOF)としてとりあげられている。
彼らの業績はNatureなどの学術論文に報文として2000年代はじめの頃から報告されているのでそちらを。
それらの理解に一歩でも近づくには上記テキストの改訂版にあたる原著の”Inorganic Chemistry" by Shriver and Atkins 7th ed”を参照するか、そこから先をさらに何冊かで埋めねばならないだろう。
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