聖騎士編 ⑤観測者アルスは解き明かしたい
夜。隊舎の自室。
一人きりの暗い部屋の中、壁越しに、
私を称える市民たちの祝宴の喧騒が聞こえてくる。
『ユリウス様に栄光あれ!』『我らが英雄!』
やめてくれ。
耳を塞いでも、大合唱は頭蓋骨の内側に反響して脳髄を揺らす。
私は、部下を犠牲に生き延びただけの、浅ましい臆病者だ。
(キース……あぁ、キース……すまない……)
私の正義は偽物だった。
死の恐怖に負け、己の保身を優先した私は、
私が誰よりも憎み、この手で無数に裁いてきた『邪悪』そのものだ。
『…裁きを受けなさい。神は寛大だが、罪という淀みは周囲を腐らせる…』
虚ろな瞳で、かつて他人に言い放っていた冷酷な教義を呟く。
罪人は、等しく裁かれねばならない。それが私の絶対的正義だ。
震える両手を前に出し、私が彼を殺す原因となった『首筋』へ向ける。
【ユリウス:正義感 100、罪悪感 100、自責 100、理性 100】
「浄化の、火よ……」
手のひらに、アンデッドを灼き殺すための、聖なる炎が灯る。
これを自らの肌に押し当て、罪深き肉体を焼き焦がして贖罪せねばならない。
痛みに耐え、心を清めるのだ。
私は、燃え盛る炎を己の首筋へと近づけた。
ジリジリと、肌を焼く熱を感じる。
「っ……!ぐぅっ……!」
熱い。痛い。怖い。
炎が肌に触れる刹那。
致命傷を避けたあの時と同じように、私の『生存本能』が狂ったように暴れ出し、
炎を纏う両腕をどうしても押し当てられない。
「クソッ、クソッ…!なぜだ……!
何故私の心はこんなにも弱いのだ…!」
もう一度。
【ユリウス:自己嫌悪 70】
だが、どうしても、最後の一寸が押し当てられない。
私は罪人だ。罰を受けなければならない。
だが、ひどく痛くて、怖くて、自分を罰することすらできなかったのだ。
【ユリウス:自己嫌悪 100】
ああ……怖くて自分を罰することもできない……
神様…ごめんなさい……
母上…ごめんなさい……
父上……ごめんなさい……
わたしは、こんなにも、弱い……
自分の醜悪すぎる心に耐えきれず、私は床に丸くうずくまり、
子供のようにむせび泣いた。
外からは『高潔な聖騎士』を称賛する花火の音が、一晩中、
私の心を八つ裂きにしながら鳴り響き続けていた。
