聖騎士編④ 観測者アルスは解き明かしたい
「ユリウス様っ!!」
鼓膜を破るような爆音と、視界を白く染め上げる熱波。
私は固く閉じていた目をパチリと開けた。
生きている。痛みもない。
私の右へと身を捩った無意識の行動は、
三番街の時計塔から放たれた『左首筋』への凶悪な魔法狙撃を、
間一髪で回避していた。
土煙がもうもうと立ち込める中、
私は荒い息を吐きながら己の生存に安堵してしまう。
「――が、はっ……」
背後で、くぐもった血の音がした。
振り返った私の視界に飛び込んできたのは…
胸に焦げた穴を開け、石畳に斃れるキースの姿だった。
「キース!!」
私が右に『身じろいだ』ことによって生まれた、空間。
そこに立っていた若き斥候は、私をすり抜けた魔法の直撃をその身に受けていたのだ。
「お、おい……しっかりしろ! キース!」
「ユリウス、様……」
「おい、ユリウス様たちをお守りしろ!」
「周りを囲むんだ!」
「時計塔の上だ!第3部隊は犯人を追え!」
優秀な部下たちは次の狙撃に備え、我々を取り囲む。
私は彼を抱きかかえ、血まみれの胸元に『浄化』と『治癒』の魔法を狂ったように叩き込む。
だが、無駄だった。心臓を深く焼かれた命は、もはや神でも引き戻せない。
「すまない、私が……私がもっと広く腕を広げていれば……!」
「な、何を……仰るのです……」
キースは口から大量の血の泡を吹きながら、
それでも、私の顔を見てふわりと笑った。
それは、殉教者のように澄み切った、美しい笑顔だった。
「あのような……恐怖の前に……。
一歩も引かず、立ちはだかるなんて……。
さすがは、我らの、誇り……」
「違う! 私は――」
「微塵の、恐怖も、ない……素晴らしい、お姿、でし、た……」
言葉が、出なかった。
キースの陶酔しきった瞳は、私の『保身』を、無かったことにしている。
彼は最後まで、私を『絶対の正義』だと信じ抜いたまま、
満足げにその首をがくりと落とした。
【ユリウス:正義感 100、安堵 80→100、自責 0→60】
「大司教様はご無事だ!!」 「ユリウス様が魔法を相殺してくださったんだ!!」
土煙が晴れると共に、生き残った『白き刃』の部下たちと、
パレードの群衆から割れんばかりの歓声が沸き起こった。
誰も、私が恐怖に負けて『身じろいだ』ことなど気付いていない。
誰もが私を、命を懸けて大司教を守り抜いた「高潔なる英雄」だと讃え、
キースの死を「崇高な自己犠牲」だと涙ながらに拝んでいる。
【ユリウス:正義感 100、自責 60→80、罪悪感 70】
「あ……ああ……」
歓声が、吐き気を催すほどに耳障りだった。
私は英雄などではない。神の加護など信じきれず、
死と痛みを恐れるあまり、愛する部下を見殺しにした『醜く卑劣な臆病者』だ。
【ユリウス:正義感 100、自責 80→95、罪悪感 70→90】
その吐き気を催すほどの真実を知っているのは、世界でただ一人、私自身だけだった。
(私は罪人だ……私が彼を殺したんだ……)
純白の鎧の内側に張り付いた、真っ黒な何かが、私を内部から貪り食い始めていた。
