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未知は、どこから来るのか。

突然、降ってくるのか。

天才だけが持っているのか。

何もない場所から、まったく新しいものが生まれるのか。

たぶん、そうではない。

多くの未知は、既知から生まれる。

すでに知っているもの。

すでに見たもの。

すでに経験したこと。

すでに使っている概念。

すでにある技術。

すでにある顧客の不満。

すでにある業務の違和感。

これらが、別の組み合わせ、別の文脈、別の問い、別の制約の中に置かれた時、未知が立ち上がる。

未知とは、完全な無から来るものではない。

既知の配置が変わった時に生まれる。

私は、これをこう呼びたい。

未知とは、既知の再配置によって生まれる余白である。

人は、新しいものを探そうとして、遠くへ行きすぎることがある。

まったく新しいアイデア。

誰も見たことのない事業。

まだ存在しない概念。

画期的な企画。

しかし、本当に必要なのは、遠くへ行くことだけではない。

すでに知っているものを、まだ見たことのない関係に置くことだ。



先に結論

既知から未知を生み出すには、いくつかの型がある。

一つ目: 既知を分解する

そのままの形で見ている限り、既知は既知のままである。

商品。
顧客。
制度。
業務。
経験。
悩み。
失敗。

これらを分解する。

何でできているのか。

どの前提に支えられているのか。

どの機能を持っているのか。

誰にとって価値があるのか。

どの制約の中で成立しているのか。

分解すると、組み替えられる。

二つ目: 遠いものと接続する

未知は、近いもの同士の足し算からだけでは生まれにくい。

人事と建築。

営業と臨床心理。

評価制度とゲーム設計。

復職支援と航空管制。

キャリア自律と編集技術。

遠い領域をつなぐと、既知の意味がずれる。

そのずれが、未知の入口になる。

三つ目: 違和感を観察する

未知は、違和感から生まれる。

なぜ、うまくいっているはずなのに苦しいのか。

なぜ、制度はあるのに機能しないのか。

なぜ、説明は正しいのに人は動かないのか。

なぜ、学ぶほど虚しくなるのか。

違和感は、既知の説明では回収できないものが残っているサインである。

四つ目: 仮説を仮置きする

未知は、確信からではなく仮置きから生まれる。

もしかすると、これは能力の問題ではなく関係の問題ではないか。

もしかすると、営業不振は行動量ではなく顧客選定の問題ではないか。

もしかすると、働く報酬は賃金だけではなく、社会の中に自分が立ち上がることではないか。

仮説は、未知を呼び出す仮の足場である。

五つ目: 作って、試して、戻す

未知は、頭の中だけでは完成しない。

小さく作る。

人に話す。

現場に当てる。

文章にする。

顧客に聞く。

違和感が出たら戻す。

この往復で、未知は少しずつ形になる。


今回扱う研究

今回は、既知から未知を生み出す方法を、類推、吸収能力、探索と深化、創造的認知、組み合わせ型創造性、アブダクションから考える。

1. 類推と思考の構造写像
内容: 類推は、表面的に似ているものを比べるだけではなく、ある領域の関係構造を別の領域へ写し取る認知プロセスとして扱われる。今回の記事では、未知を生む方法を、既知の構造を別の文脈へ移すこととして読む。
著者: Dedre Gentner
論文: Structure-Mapping: A Theoretical Framework for Analogy
掲載誌: Cognitive Science、1983年

2. 吸収能力の研究
内容: 組織が外部知識の価値を認識し、取り込み、応用する能力を吸収能力として整理した研究である。今回の記事では、未知を生むには外部の知識をただ集めるだけではなく、自分たちの既存知識と接続して使える形にする必要があると読む。
著者: Wesley M. Cohen、Daniel A. Levinthal
論文: Absorptive Capacity: A New Perspective on Learning and Innovation
掲載誌: Administrative Science Quarterly、1990年

3. 探索と深化の研究
内容: 組織学習において、既存能力を磨く深化と、新しい可能性を探る探索のバランスを扱った研究である。今回の記事では、未知を生むには既知を深めるだけでなく、既知の外へ出る探索が必要であると読む。
著者: James G. March
論文: Exploration and Exploitation in Organizational Learning
掲載誌: Organization Science、1991年

4. 創造的認知の Geneplore モデル
内容: 創造性を、事前発明的な構造を生成する段階と、それを探索・解釈する段階の往復として捉えるモデルである。今回の記事では、未知は一撃のひらめきではなく、生成と探索の反復から生まれると読む。
著者: Ronald A. Finke、Thomas B. Ward、Steven M. Smith
著作: Creative Cognition: Theory, Research, and Applications
出版年: 1992年

5. 組み合わせ型・探索型・変換型の創造性
内容: 創造性を、既知のアイデアの新しい組み合わせ、概念空間の探索、概念空間そのものの変換として整理する考え方である。今回の記事では、既知から未知を生む方法を、組み合わせ、探索、前提変換の三段階で読む。
著者: Margaret A. Boden
研究領域: Computational Creativity、Combinational / Exploratory / Transformational Creativity

6. アブダクション
内容: アブダクションは、驚くべき事実や違和感に対して、それを説明しうる仮説を置く推論として扱われる。今回の記事では、未知を生むには、確実な答えを待つのではなく、説明可能性のある仮説を一度置くことが必要だと読む。
関連思想: Charles S. Peirce、Abductive Reasoning


既知を分解する

未知を生み出す最初の作業は、既知を疑うことではない。

既知を分解することである。

人は、よく知っているものほど、まとまりとして見てしまう。

営業。

評価制度。

復職支援。

キャリア自律。

会議。

管理職。

働くこと。

こうした言葉は便利である。

しかし、便利な言葉ほど、内部が見えなくなる。

分解すると、組み替えられる

たとえば営業を分解する。

顧客選定。
接点づくり。
課題仮説。
信頼形成。
提案。
合意形成。
決裁支援。
導入後価値。
継続接点。

こう分けると、営業は単なる「売る行為」ではなくなる。

どこに未知を作れるかが見える。

顧客選定をAIで支援するのか。

課題仮説を業界レポートから作るのか。

導入後価値を可視化するのか。

決裁支援を営業の新しい機能として捉えるのか。

分解しなければ、未知は「新しい営業手法」くらいにしか見えない。

分解すれば、未知の入口が増える。

既知の名前をいったん外す

既知から未知を生むには、名前を外すことも有効である。

これは評価制度である。

これは1on1である。

これは復職支援である。

これは営業会議である。

この名前をいったん外す。

すると、別の見方ができる。

評価制度は、貢献を言語化して報酬と未来機会へ接続する仕組みである。

1on1は、部下の経験を次の行動へ変換する編集時間である。

復職支援は、本人の回復と会社の就業判断を接続する情報のリレーである。

営業会議は、案件確認ではなく市場学習の場である。

名前を変えると、機能が見える。

機能が見えると、未知が作れる。


遠いものと接続する

未知は、近いもの同士だけでは生まれにくい。

近いもの同士をつなぐと、改善にはなる。

しかし、飛躍にはなりにくい。

飛躍を作るには、遠いものを持ち込む。

類推は、表面ではなく構造を移す

類推とは、似たもの探しではない。

重要なのは、表面の似ているところではなく、関係の構造である。

たとえば、復職支援を航空管制として見る。

航空管制は、飛行機を安全に離着陸させるために、情報、タイミング、関係者、ルート、リスクを管理する。

復職支援も、本人、主治医、産業医、会社、上司の情報を接続し、復帰のタイミングと負荷を調整する。

表面は違う。

しかし、構造は似ている。

この類推から、「復職支援は戻す手続ではなく、安全に着陸させる管制である」という新しい見方が出る。

遠い領域は、既知を揺らす

人事制度を建築として見る。

営業を臨床面接として見る。

管理職育成をリハビリとして見る。

キャリア形成を編集として見る。

組織文化を土壌として見る。

これらは、正確な同一視ではない。

しかし、既知の見方を揺らす。

揺れたところに、新しい問いが生まれる。

人事制度は、評価のルールではなく、人が動く導線設計なのではないか。

営業は、商品説明ではなく、顧客の変化準備を支援する対話なのではないか。

管理職育成は、知識付与ではなく、使えなくなった行動様式を組み替えるリハビリなのではないか。

未知は、遠い領域から来た言葉によって、既知の意味が少しずれた時に生まれる。


違和感を観察する

未知を生む人は、違和感を捨てない。

違和感は、まだ言葉になっていない知識である。

違和感は、既知の説明から漏れたもの

制度はあるのに、現場が動かない。

研修をしたのに、行動が変わらない。

1on1をしているのに、相談が出ない。

営業活動は増えているのに、顧客理解が深まらない。

学ぶほど、虚しくなる。

働きたくないのに、働かずにはいられない。

これらは、既存の説明では少し足りない。

足りないから、違和感が残る。

この違和感をすぐに片づけると、未知は生まれない。

「そういうものだ」

「現場の意識が低い」

「本人のやる気がない」

「運用が足りない」

こう片づけると、問いは閉じる。

違和感を問いに変える

違和感は、そのままだと不満で終わる。

問いに変える必要がある。

なぜ制度があるのに、現場は動かないのか。

なぜ研修は理解されても、行動へ転移しないのか。

なぜ1on1は、対話ではなく報告になるのか。

なぜ営業活動が増えても、顧客理解が深まらないのか。

なぜ学ぶほど、虚しさが募るのか。

この問いが、未知の入口になる。

未知とは、答えではなく、まず問いとして現れる。


仮説を仮置きする

未知を生み出すには、確信が必要だと思われがちである。

しかし、多くの場合、最初に必要なのは確信ではない。

仮説である。

しかも、弱い仮説でよい。

アブダクションは、驚きに説明を与える

アブダクションは、驚くべき事実や違和感に対して、それを説明しうる仮説を置く推論である。

たとえば、営業活動は増えているのに売上が伸びない。

これはなぜか。

仮説を置く。

活動量ではなく、顧客選定がずれているのではないか。

提案力ではなく、顧客の変化タイミングを読めていないのではないか。

商品価値ではなく、導入後の不安が解けていないのではないか。

この段階では、正解でなくてよい。

仮説は、探索を始めるための足場である。

仮説は、世界を見るレンズになる

仮説を置くと、見るものが変わる。

顧客選定がずれているのではないか。

そう思うと、業界、規模、課題、決裁構造を見るようになる。

導入後不安が解けていないのではないか。

そう思うと、商談後半の質問、失注理由、導入支援体制を見るようになる。

仮説は、証明される前に、観察の方向を変える。

ここに価値がある。


生成と探索を往復する

未知は、頭の中で完成してから外へ出すものではない。

外へ出しながら形になる。

Geneploreモデルの考え方を借りれば、創造には生成と探索がある。

まず、未完成な構造を作る。

次に、それを見て、解釈し、変形し、使える形にしていく。

まず、雑に作る

未知を生むには、最初から完成度を求めすぎない。

概念名を仮につける。

短い文章にする。

図にする。

人に話す。

小さなプロトタイプにする。

仮説メモにする。

雑でよい。

雑なものは、考えるための外部記憶になる。

頭の中にある時は曖昧だったものが、外に出すと見える。

出したものを、問い直す

外に出したら、問い直す。

これは何を説明しているのか。

何を説明できていないのか。

どこが面白いのか。

どこが弱いのか。

誰にとって価値があるのか。

どの既知とつながるのか。

どの現実に当てると崩れるのか。

未知は、最初から強いわけではない。

問い直されることで強くなる。


既知から未知を生み出す実務手順

ここからは、実際に使う手順として整理する。

1. 既知を一つ選ぶ

まず、扱う既知を一つ選ぶ。

評価制度。
営業会議。
復職支援。
管理職育成。
キャリア自律。
顧客提案。
採用面接。

広すぎると扱いにくい。

一つに絞る。

2. それを三つに分解する

選んだものを、三つに分ける。

たとえば営業会議なら、

案件確認。
学習共有。
意思決定。

復職支援なら、

医学的回復。
就業判断。
職場接続。

評価制度なら、

貢献把握。
処遇決定。
未来機会。

三つに分けると、見え方が変わる。

3. 遠い領域を一つ持ち込む

次に、遠い領域を一つ持ち込む。

建築。
医療。
編集。
ゲーム。
物流。
演劇。
料理。
航海。
生態系。

そして問う。

この領域では、似た構造をどう扱っているか。

営業会議を編集会議として見ると何が変わるか。

復職支援を航空管制として見ると何が見えるか。

評価制度を翻訳装置として見ると何が見えるか。

4. 違和感を一文にする

違和感を一文にする。

営業会議をしているのに、顧客理解が深まらない。

評価制度はあるのに、評価された人の未来が開かれない。

復職日は決まるのに、復職後の働き方が決まっていない。

この一文が、未知の種になる。

5. 仮説を一つ置く

違和感に対して、仮説を置く。

営業会議は、案件確認に偏りすぎて市場学習になっていないのではないか。

評価制度は、過去の貢献を測るだけで、未来の期待を作れていないのではないか。

復職支援は、復帰日を決める手続になり、職場接続を作れていないのではないか。

この仮説は、まだ正解でなくてよい。

6. 概念名を仮につける

仮説に名前をつける。

市場学習不在。

期待の未接続。

復職接続不全。

名前は仮でよい。

名前をつけると、見えないものが扱えるようになる。

7. 小さく当てる

最後に、現実へ当てる。

会議で一度使ってみる。

上司との対話で使う。

文章にする。

図にする。

顧客の事例に当てる。

現場の反応を見る。

うまくいかなければ、戻して直す。

未知は、現実に当てて初めて鍛えられる。


既知から未知を生む時の注意点

未知を生もうとすると、いくつかの罠がある。

一つ目: ただの言い換えで満足しない

名前を変えるだけでは未知ではない。

1on1を対話と言い換える。

営業を伴走と言い換える。

評価を成長支援と言い換える。

言い換え自体は悪くない。

しかし、機能や行動が変わらなければ、ただの化粧である。

未知は、言葉の新しさではなく、見方と行動を変える力で判断する。

二つ目: 遠い類推を無理に当てはめない

遠い領域との接続は有効である。

しかし、無理に当てはめると危ない。

人事は建築である。

営業は医療である。

組織は生態系である。

こう言うだけでは、雰囲気で終わる。

どの構造が似ているのか。

どこは似ていないのか。

どこまで使えるのか。

ここを確認する必要がある。

三つ目: 未知をすぐ正解にしない

新しい仮説が出ると、すぐ正解にしたくなる。

これだ。

この概念で説明できる。

このフレームでいける。

しかし、未知は最初から正解ではない。

仮説である。

現実に当てて、崩して、直す必要がある。

四つ目: 既知を粗末にしない

未知を求める人は、既知を軽く見がちである。

そんなのは古い。

それはもう知っている。

もっと新しいものが欲しい。

しかし、未知は既知から生まれる。

既知を深く知らない人は、組み替える材料を持っていない。

新しさは、既知を雑に捨てることからではなく、既知を深く扱うことから生まれる。


違和感として締める

人は、新しいものを探す時、未知を遠くに置きすぎる。

まだ誰も知らないもの。

まだ世の中にないもの。

天才だけが見ているもの。

突然ひらめくもの。

しかし、未知はもっと近くにある。

すでに知っていることの中にある。

見慣れた業務の中にある。

何度も聞いた顧客の不満の中にある。

現場の小さな違和感の中にある。

使い古された言葉の裏側にある。

ただ、既知のまま見ている限り、それは未知にならない。

分解する。

遠いものとつなぐ。

違和感を問いにする。

仮説を置く。

名前をつける。

小さく試す。

この作業を通じて、既知は少しずつ未知へ変わる。

未知とは、無から生まれるものではない。

既知の並びが変わった時に、見え始める余白である。

だから、創造性とは、まったく新しい材料を手に入れる力だけではない。

すでに持っている材料を、まだ見たことのない関係に置く力である。

ここに、希望がある。

未知を生むために、天才である必要はない。

ただ、既知を見飽きないこと。

違和感を捨てないこと。

遠いものとつなぐ勇気を持つこと。

仮説を未完成のまま置けること。

そして、外に出して直すこと。

未知は、完成品として降ってこない。

既知を動かす手つきの中で、少しずつ立ち上がる。


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根拠・確認メモ

  • Gentnerの構造写像理論を確認した。類推は、表面的な類似ではなく、ある領域の関係構造を別の領域へ写す認知プロセスとして扱われる。

  • CohenとLevinthalの吸収能力研究を確認した。外部知識を認識し、取り込み、応用する能力は、既存知識の蓄積と接続に依存する。

  • Marchの探索と深化の研究を確認した。既存能力の深化と新しい可能性の探索のバランスは、組織学習とイノベーションを考えるうえで重要である。

  • Finke、Ward、Smithの創造的認知研究を確認した。創造性は、生成と探索の往復として捉えられる。

  • Bodenの創造性類型を確認した。創造性には、組み合わせ型、探索型、変換型があり、既知の再結合や概念空間の変換が新しさを生む。

  • Peirceに由来するアブダクションの考え方を確認した。驚きや違和感に対して、それを説明しうる仮説を置く推論は、未知を生む補助線になる。


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