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第3回「やめる覚悟」──残す・縮める・やめる、3択の決断

承継者だけが下せる「未来を選ぶ判断軸」


はじめに

前回は、承継者が直面する「3つの壁」──先代、古参幹部、取引先──を取り上げました。
今回は、その壁を越えたあとに訪れる、もうひとつの大きな難関。
それが、「どの事業を残し、どの事業をやめるか」という構造的な決断です。

多くの承継者が口をそろえて言います。
「どれも先代が育てた大切な事業だから、やめるなんて言えない」
「従業員や取引先の生活を思うと、簡単に判断できない」

そう、これは“冷たい合理化”ではありません。
会社の過去・現在・未来を同時に背負う承継者だからこそ、
感情と勘定(合理性)の両立という最も難しい舵取りが求められるのです。


ケース:黒字なのに未来がない事業

ある承継者は、父親から会社を引き継いだ直後、こう嘆きました。
「毎年黒字なのに、なぜかキャッシュが増えないんです」

調べてみると、古くから続くBtoBの取引で限界利益率が数%台の案件が中心。
しかも主要顧客の購買量は年々減少。

「利益は出ているから問題ない」と思いきや、
設備更新・人件費・原材料高騰で、営業利益ベースでは実質マイナスに転じている商材もありました。

それでも従業員はこう言います。
「この取引先には先代の頃からずっとお世話になってきたんです」

承継者も心の中で葛藤していました。
「恩もあるし、やめたら従業員も困る。でも、このままでは会社ごと沈む……」

この状況こそ、残す・縮める・やめるの判断が迫られる瞬間です。


「3択」で整理すると霧が晴れる

事業を整理する際に使えるシンプルなフレームがあります。
それが、
① 残す ② 縮める ③ やめる
の3択です。


① 残す:未来に繋がる“核”を守る

会社の強み・ブランド・信用を支える基幹事業。
収益性だけでなく、「市場での存在理由」を基準に判断します。

チェックポイント

  • 売上・利益が安定している

  • 他社が真似できない強みがある

  • 顧客や従業員が誇りを持てる事業


② 縮める:立て直しの“余地”がある

完全にやめるのは難しいが、リソースを絞ることで再生できる事業。
「規模を守る」ではなく、「筋肉質にする」発想が重要です。

チェックポイント

  • 過剰在庫・赤字案件が特定できる

  • 原価構造の見直しで黒字転換の余地がある(=限界利益率を上げる

  • 特定顧客・特定地域に集中できる


③ やめる:情ではなく、数字で決める

やめる判断ほど、承継者の覚悟が問われます。
ただし──

撤退は敗北ではなく、未来への投資です。

手放すことは、守ること。
その痛みを引き受けられるのは、承継者だけです。

チェックポイント

  • 3期連続でキャッシュアウト

  • 主要顧客が縮小・撤退を決定

  • 従業員の成長機会が乏しく、後継人材がいない


「数字」ではなく「順番」で決める

多くの承継者が陥るのが、
「まずは全部の事業を黒字にしてから判断しよう」という発想。

しかし、それではいつまで経っても決められません。
ポイントは優先順位の整理です。


実戦ポイント:3つの軸で序列づけ

🔹 将来性:市場が伸びるか?
🔹 収益性:利益が出るか?(特に限界利益を伸ばせるか?)
🔹 熱 量:経営者自身が続けたいか?

この3つをスコア化するだけで方向性が見えます。
現場では、Excelに各事業を並べて「◎/○/△/×」で評価するだけでも効果的です。


感情を「尊重したうえで」決める

撤退を決断した瞬間、必ず聞こえてくるのがこの言葉です。
「先代が泣きますよ」
「あの事業をやめたら会社の伝統が……」

でも、忘れてはいけません。
伝統とは“形”ではなく、“想い”をつなぐこと。

承継者の役割は、過去を否定することではなく、
“次の世代にも会社を残す”ことです。

未来の従業員を守るために、いま一部を手放す。
それは痛みを伴うけれど、まぎれもない「経営者の仕事」です。


今日からできる小さな一歩

  • 各事業を「残す/縮める/やめる」に仕分けてみる

  • 直感で「未来がある」と思えるものに◯をつける

  • 1つだけ“やめたら楽になる事業”を挙げてみる

最初は感情で構いません。
一度“俯瞰して見る”だけで、頭の中の霧が晴れます。


まとめ:やめることは、未来を守ること

  • 残す・縮める・やめるの3択で事業を見直す

  • 数字だけでなく、「未来の可能性」と「自分の意志」で判断する

  • やめることは敗北ではなく、再生の第一歩

会社を生まれ変わらせるのは、「始める勇気」よりも──
「やめる覚悟」です。

※事例は一部加工しています。実在の企業・人物とは関係ありません。


あなたの会社で、“未来に残したい事業”はどれですか?
そして、“もう十分やりきった事業”はどれでしょうか?


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熊谷 篤(くまがい あつし)
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士

年間400件以上の経営相談を行い、承継後3年以内の承継者を中心に伴走支援を実施。
VCでのIPO支援や年商100億円規模企業の改善支援など、多様な現場で成果を創出。


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