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旋律が彷徨う 第8話 #創作大賞2026

「当機は間もなく、羽田空港に着陸します、シートベルトをお締め下さい」

 機内アナウンスが流れた。4時間足らずのフライトだったが、異常に長く感じた。不安が全身に駆け回り、何もできなかった。映画を観る気にもなれなかった。本を読みたくもなかった。ひたすら、窓の外を見て、心を鎮めていた。眼下には海が広がっている。機体は徐々に降下して、海面に近付いて行く。遠くに滑走路が見えた。いよいよ、着陸だ。ゲートには、玲子が待っている。

 健二は目を閉じた。着陸の瞬間、全身が揺さ振られた。僅かに重力を感じるが、拳を握って、堪えた。機体がゆっくりと滑走路から離れて行く。客室乗務員のアナウンスを聞きながら、思いを巡らせる。ついに日本に戻って来た。ゲートを潜れば、玲子が待っている。恵文の企みなど、全て蹴散らしてくれるはずだ。

 機体が止まった。心拍が高まる。もう少しで恐怖から解放される。しばらく待っていると、シートベルト着用のサインが消えた。待ちきれない。健二は急いで、シートベルトを外した。逸る心を抑えきれずに、立ち上がる。
 突然、誰かに左腕を引っ張られた。隣の席の秀人が強く掴んで、離さない。何をするつもりなのか。睨み付けると、後方を指差している。

 振り向くと、目を疑った。玲子が近付いて来る。

「昨日の会話は、全て録音させてもらったわ。もう逃れられないわよ……」

 玲子はスマホを掲げながら、冷たく言い放った。一瞬、思考が停止する。無理矢理に意識を奮い起こすが、何も考えられない。

「何故、乗ってるんですか? 昨日は東京のスタジオでしたよね……」

 健二は思わず声を漏らした。

「日本にいたと思ったの? ずっと、あなたたちと同じホテルの中にいたわよ……」

 健二は固まった。背筋に氷が突き刺さる感覚に陥る。完全に嵌められた。

「わざと綾子がスタジオにいる時に、ズーム用の背景を撮影したのか……」

 思わず言葉が口を突いた。

「浅薄だったわね。半年前のズーム打合せで引っ掛かったの。綾子ちゃんの髪が長かった。私の記憶とは違っていたわ。調べたら、時系列が合っていなかった。だから、あなたと同じ手を使ったのよ。最近の技術は大したものね……」

 徐々に全貌が読めて来た。全ては玲子が仕組んだ罠だった。周到に計画を立てていたに違いない。

「電話を切っていたのも、そのためか……。日本と台湾では呼出音が違う。LINE通話なら、どこにいても変わらない……。だけど、何のために台湾に来たんだ……」

 健二は呟いた。頭の中で不審点を洗い出す。玲子はどこまで仕込んでいたのか。

「教える義務はないわ。いずれ分かるでしょうけどね。既に警察には連絡してある。ゲートで待ってるはずよ。この録音も提出するわ。だから、逃げようったって無駄。私を舐めた報いよ。絶対にあなたを許さない!」

 健二はその場に崩れ落ちた。もはや、平常な精神ではいられない。気が付くと、玲子の後ろに人の姿が見えた。

 輝樹と丹丹だった。ようやく分かった。全員がグルだった。

第9話につづく

#創作大賞2026 #ホラー小説部門

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