④【臨床での振る舞い】障害福祉サービスの「空白」:生活再建に繋ぐ多職種連携と行政調整
【今回のテーマ】 介護保険とは勝手が違う「障害福祉サービス」の壁と制度の空白に対し、理学療法士が職域を侵さずにどう動き、多職種連携へと繋いだのか。その行政調整と具体的な振る舞いについて解説します。
【免責事項】
本記事は、筆者が経験した実例に基づき、特定の個人が特定されないよう情報の抽象化・一般化(情報の入れ替えや統合)を行って構成しています。また、文中で触れる「同意」は、あくまで支援実務において行政機関等へ個人情報を提供することに対するものであり、情報発信に関するものではありません。
1. 「サービスはない」と言われてしまった患者様の状況
訪問リハビリテーションに従事していると、介護保険のケアマネジャーとの連携は日常的ですが、「障害福祉サービス」の世界に足を踏み入れると、その仕組みの複雑さに戸惑うことがあります。
ある患者様は、ご自身で役所に相談をされていました。しかし、戻ってきた答えは「その障害等級では利用できるサービスはありません」というものでした。
患者様は「聞き方が正しかったのかわからない。要点を絞った質問もできないし、中々気力も湧かない……」と、諦めに近い表情で相談を受けました。リハビリの視点から見れば、手すりの設置や外出機会の確保など、生活再建のために介入すべき点は明らかでした。
2. 実務としての同意とリスク管理
患者様の状況を改善するためには、行政への詳細な確認が不可欠です。そこで私は、実務支援としてご本人から**「代わりに詳しく確認してもよいか」という相談をし、同意を丁寧にいただきました。この際、「必要に応じてお名前や住所を役所に伝えてもよいか」**という点まで含めて明確な同意をいただいています。
この件を事業所に持ち帰り、上司に報告したところ、「サービスがあるかの問い合わせに同意を得ているのであれば動いてよい。ただし、やり取りはすべて正確に記録に残して行うように」との指示を受けました。専門職として、また組織の一員として、リスク管理と記録を徹底した上で動き出すことにしました。
3. 行政への問い合わせと「制度の深さ」
役所への問い合わせは一度では済みませんでした。自分なりに制度を調べるうちに、「これは使えないか」「この要件はどうなのか」と確認したい点が増え、結果として何度か要件を分けた形で問い合わせを重ねることになりました。
その過程で、電話に出る担当者が変わるタイミングがありました。最初の方は「その等級では対象外」という案内でしたが、別の担当者の方は「その等級の中にも詳細な『区分』があり、その申請を行えば色々サービスを検討できる」と、より踏み込んだ案内をいただけたのです。さらに、区分申請の詳しい手続きについても丁寧に教示していただくことができました。
これは特定の担当者を批判したいわけではありません。役所の仕事もルールに基づいたものであり、その等級では対象外という回答自体は間違いではありません。ただ、障害福祉の制度設計は非常に細かな申請区分が存在し、こちらから詳細に踏み込んで聞かないと全容がわからない仕組みになっているのだと実感しました。
4. 相談支援専門員という「プロ」との連携
この問い合わせの中で、役所から「実際に付き合いがある事業所」として、相談支援専門員のいる事業所を紹介していただくことができました。
障害福祉の世界でも、介護保険のケアマネジャーのようにサービスのプランを立てて動いてくれる「相談支援専門員」というプロの存在に繋がれたことは、大きな転換点となりました。さっそく紹介された事業所へ電話し、患者様の現状と、ネットなどで目星をつけておいた「リハ視点で必要と思われるサービス」が使えないか相談しました。
専門員の方からは、「そのサービスは実際にはもっと動ける人が行くイメージだから、こちらの事業所の方がおすすめですよ」といった、現場の実情に即した情報共有をいただくことができました。
その後、訪問リハの際に支援員の方に同席いただき、本人・リハ・支援員の三者で「こんな生活再建イメージ」というのを話し合いました。支援員の方々が動いてくださってからは、我々だけで悩んでいた時よりも、手すりの導入や外出機会の確保、持続可能な生活に向けた検討が非常にスピーディーかつ建設的に進みました。結果として、トイレ移動が「いざり生活」でギリギリだった患者様の生活を、しっかりと再建することができました。
5. 理学療法士が職域を超えずにできること
本来、こうしたコーディネートの流れはプロの支援員が担うべきものですが、当時はその存在すら分かっていない状況でした。案内を受けたおかげで適切な担当者に繋がることができましたが、制度の空白に陥っている方への調整は、多職種の連携が不可欠です。
ソーシャルワーカーの職域を侵さないよう配慮しつつ、同意を得た上で、必要なサービスに繋ぐ架け橋となる。これはPTであっても、看護職であっても、非常に大事な視点だと感じました。
6. まとめ:理想と現実のギャップを埋めるために
「必要な人に、適切なサービスが届く」のは理想ですが、現実はそうなっていない事例も多いものです。
実際、理学療法士という存在すら十分に知られていない現場もあります。例えば、明らかにリハビリの適応がある状態なのに、ヘルパーさんと患者様だけで問題を抱え込んでしまい、最終的には「近所の人が教えてくれた」といった経緯でようやく繋がる、というケースも珍しくありません。また、リハ処方が出ていないけれど適応がある方、看護の手が必要なのにそこに気づかず苦労している方もいます。
支援員の方々も周知に尽力されていますが、理学療法士ですらこの制度や専門員の存在を知らない人が多いのが現状です。各職種が職域の周知に力を注いでいても、「周知されていること」と「必要な時に思い出され、適切に活用されること」の間には、依然として大きな溝があるのが実情です。
これは誰が良い・悪いという議論ではありません。まずは私たちが「こういう仕組みがある」「繋がれるプロがいる」と正しく知っておくこと。そして、目の前の患者様のために、職種を問わず適切な窓口を探し、繋ぎ続ける姿勢を持つこと。その泥臭い積み重ねこそが、制度の空白を埋め、本当の意味での生活再建に欠かせないのだと改めて実感した事例でした。
次回予告
「とりあえず抑制」を仕組みで卒業する —— 現場の過酷さと「尊厳と安全」の境界線
リハビリ場面では動けるのに、病棟では抑制が続いている。そんな「急性期の壁」にぶつかったことはありませんか?
次回は、私が直面した大腿骨頸部骨折術後の症例を通じ、理学療法士としての「評価」と看護現場の「不安」のギャップをどう埋めるべきかを考察します。
次回記事はこちら:⑤【臨床での振る舞い】「とりあえず抑制」問題 —上申とPT評価
前回記事はこちら:③【臨床での振る舞い】認知症のある方にどんな距離感で接する?意外とラピュタが参考になる
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「教科書通りにいかない臨床で、どう動けばいいのか分からない」 「リスク管理に自信が持てず、攻めのリハビリができない」 「新人・若手指導を…

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