「我が社の愉快な仲間たち」ツバメ様の春の格付けチェックが始まった
今年も営巣の偵察にやってきたツバメの姿を見かけた。
いよいよ、この季節がやってきた。
わが社は、事務所を占拠したインコ軍団には厳しいが対応をしたが、ツバメには信じられないほど寛大で手厚い。
工場の軒先には、長年営巣されている「公認キャンプ地」が3箇所ある。
この時期、人間にはどうにもならない、大いなる自然の審判が下る。
それは、ツバメ様による「職場格付けチェック」だ。
ツバメ様がせっせと泥を運び、古巣のリフォームを始める職場は、格付けが上がり、「あそこは徳が高い」と崇められる。
一方、去年の巣に帰ってこなかったり、建築途中で放棄されたりしたエリアは、無情にも格付けが下がる。
「……うち、そんなに徳が足りんかね?」
担当エリアのおじさんたちは、空の巣を見上げて肩を落とす。
どれほど生産性が高く、品質が安定していても、ツバメ様の「入居拒否」という格付けは重い。
周りもあからさまには言わないが、空の巣を見上げる度、「やっぱりあいつは徳が足りないな」と思われているのは、現場の周知の事実なのだ。
誘致に失敗し、静かな軒下を見上げるおじさんたちは、来年のために「勝ち組エリア」への敵地偵察を欠かさない。
素材にこだわった「ヘビ返し」を設置し、専用の「フン受け台」もバージョンアップしていく。
勝ち組みも来年に向け驕りはしない。
巣立ち後は、古巣に残されたフンを丁寧に掃除し、ハウスクリーニングを済ませておかないと、次の「内覧」で断りされてしまうから必死だ。
私はといえば、彼らがリフォームに困らないよう、巣の近くに藁(わら)をそっと置き、地面を軽く濡らして「良質な泥」を供給し続けている。
まさに、若いツバメに貢ぐおばさんだ。
それでも、選ばれないときは選ばれない。
古巣のすぐ横に新築することもあるし、思いもよらない場所を選ぶこともある。
すべてはツバメ様のお心次第なのだ。
偵察が来れば「入居」を祈り、
営巣中ともなれば付近には貼り紙がされ、ガサツな男たちもドアを静かに閉めるようになる。
雛が孵ればカラスが来ないか心配する日々。
雛が大きくなれば巣から落ちないかハラハラし、
無事に飛び立てば、まるで孫の成長を見守る祖父母のように歓喜するのだ。
あのインコ軍団とは、雲泥の差。
ツバメが低空飛行で工場内を横切れば、「明日は雨か」と目を細める社員はいても、不法侵入を咎める者など一人もいない。
今年もまた、静かな「営巣レース」が始まった。
特に今年は新しい建屋が出来たので、長年のツバメウォッチャー曰く、
「風の通りが変わったからなぁ、どこが勝つかは最後までわからんぞ」
と、難しい顔で解説している。
社員達は密かに「徳ポイント」を積み立てる。
泥の水加減、藁の配置、端材のセンス……
地道な改善と観察が、職場の命運を分けるのだ。
こうして私たちは、春のゲストを万全の備えでお迎えする。
「働きたくない、会社に行きたくない」という持病を抱える私ですら、「ツバメの巣立ちまでは見守らなければ」と、重い腰を上げて出勤する。
こんな私を毎朝会社に向かわせる。
これもまた、ツバメの「徳」なのだろう。
