【155】 貝の火とホモイ
(写真は泳ぐノウサギ)
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今は兎たちは、みんなみじかい茶色の着物です。
野原の草はきらきら光り、あちこちの樺の木は白い花をつけました。実に野原はいいにおいでいっぱいです。子兎のホモイは、悦んでぴんぴん踊りながら申しました。

「ふん、いいにおいだなあ。うまいぞ、うまいぞ、鈴蘭なんかまるでパリパリだ」
風が来たので鈴蘭は、葉や花を互いにぶっつけて、しゃりんしゃりんと鳴りました。ホモイはもううれしくて、息もつかずにぴょんぴょん草の上をかけ出しました。

それからホモイはちょっと立ちどまって、腕を組んでほくほくしながら、
「まるで僕は川の波の上で芸当をしているようだぞ」
と言いました。
本当にホモイは、いつか小さな流れの岸まで来ておりました。そこには冷たい水がこぼんこぼんと音をたて、底の砂がピカピカ光っています。

ホモイはちょっと頭を曲げて、
「この川を向こうへ跳び越えてやろうかな。なあに訳ないさ。けれども川の向こう側は、どうも草が悪いからね」
とひとりごとを言いました。
すると不意に流の上の方から、
「ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ、ブルルル、ピイ、ピイ、ピイ、ピイ」
とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れて参りました。ホモイは急いで岸にかけよって、じっと待ちかまえました。流されるのは、たしかにやせたひばりの子供です。ホモイはいきなり水の中に飛び込こんで、前あしでしっかりそれをつかまえました。
するとそのひばりの子供は、いよいよびっくりして、黄色なくちばしを大きくあけて、まるでホモイのお耳もつんぼになるくらい鳴くのです。ホモイはあわてて一生けん命、あとあしで水をけりました。そして、
「大丈夫さ、大丈夫さ」
と言いながら、その子の顔を見ますと、ホモイはぎょっとしてあぶなく手をはなしそうになりました。それは顔じゅうしわだらけで、くちばしが大きくて、おまけにどこかとかげに似ているのです。
けれどもこの強い兎の子は、決してその手をはなしませんでした。怖ろしさに口をへの字にしながらも、それをしっかりおさえて、高く水の上にさしあげたのです。そして二人は、どんどん流されました。ホモイは二度ほど波をかぶったので、水をよほどのみました。それでもその鳥の子ははなしませんでした。
『貝の火』(宮澤賢治)
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賢治は東北野兎の白換毛と、野兎が泳げること、ヒバリのヒナがグロいことを知っていた。さすがの観察眼である。
「貝の火」とは、『楢ノ木大学士の野宿』(宮澤賢治)にて、蛋白石(オパール)であることが示唆されている。
もし『貝の火』の絵本を買うなら、おくはらゆめ版をお勧めする。この人の絵は魅力的だ。
次章では、ホモイの語源を妄想してみよう。
