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【214】 キツネノオコワ

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(写真はナデシコ目タデ科イヌタデ属ミズヒキ)

タデの属にハナタデすなわち花蓼というものが前々からあり、それがいわさきかんえんの『ほんぞう』巻之十七に出ていて「ハナタデ、道傍に多し形青蓼に似て花淡紅色なり小児アカノマンマと呼ぶ」と書いてある。またみずたにとよぶみの『ぶつひんしきめいしゅ』にも「ハナタデイヌタデノ類ニシテ花紅色馬蓼一種」と出ている。すなわちこれはこれらの書物に書いてあるように、東京の女の児などが、アカノマンマ(赤の飯)、あるいは地方の子供などがキツネノオコワ(狐の御強飯)と呼んで遊ぶものである。

ハナタデとはなぜこれにそんな名を負わせたかというと、その花穂が紅色ですこぶる美観を呈するからである。秋になってそのよく繁茂した株ではその茎枝を分って四方に拡がり、それに多数の花穂が競い出て赤い花が咲いている秋の風情はなかなか捨て難いものである。これにたまたま白花品があって、これがシロバナハナタデと呼ばれる。

ナデシコ目タデ科イヌタデ属
シロバナハナタデ

今日我が植物学界ではこのハナタデをイヌタデと呼んでいる。これはいいぬまよくさいの『そうもくせつ』に従ったものだ。しかしこのイヌタデの名は元来間違っているから、今これを矯正する必要を認める。そこで私は今後この種から間違っているイヌタデの名をだつして、これを本来の正しい名のハナタデに還元させることに躊躇しない。

今日いう、ハナタデの名も上の『草木図説』に従ったものだが、これも誤りであるから私は新たにこれをヤブタデと名づけた。その花穂は痩せ花は小さくて貧弱、色は淡紅紫で浅く、けっして花タデの名にふさわしくない。私は以前からこんな花のものがどうして花タデの名であるのかと常にこれを怪しんでいたが、果たせるかな本当のハナタデはこれではなかった。

『植物一日一題 ハナタデ』
(牧野富太郎)

刺身のツマに使われるのはヤナギタデ(柳蓼)。虫を忌避させるタデオナール(ポリゴジアール)を含み、解毒効果があると信じられたが、好んで食べるホタルハムシ(蓼虫)などもいるので万能ではない。

ナデシコ目タデ科
イヌタデ属ヤナギタデ

私は大学生の時に東南アジアでバックパッカーをしたことがあるのだが、タイで知り合った同じく貧乏旅行中の日本人青年から、「読み終わったのであげる」と言われて、『蓼喰ふ虫』(谷崎潤一郎)をもらったことがある。

なぜにこの一冊が旅行の友に? 普通は『深夜特急』とかではないのか? と訝ったが、私は本を持参していなかったので何回も読んでしまった。

今でもタイに行くと、『蓼喰ふ虫』を思い出す。

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