【170】 タヌキの誤謬
(写真は信楽焼の狸)
ここらでタヌキを総括しよう。
日本人は夜に屋外で活動しなかった。昔の日本人は、暗くなったら寝るか屋内で内職するかだったと、「【116】 スバルと六連星」で仮説を述べた。
タヌキは日本人にとって夜の妖怪であり、アナグマ(狢)とは一緒くたであり、いずれも恐れの対象であり、観察することなく出会ったら逃げた、昭和初期までは。
潮目が変わったのは「信楽焼」と天皇である。
信楽焼は、極端にデフォルメされたタヌキ。実際のタヌキは太ってないし、腹を叩いてポンポコなんてしないし、腹は白くないし、キンタマもでかくないし、けっこうイケメンである。
「【161】 かちかち山」の写真を見れば分かる。冬には防寒のため剛毛になるのが、太っているように見えただけだろう。他のイメージは信楽焼の影響だ。
さてタヌキの沿革を見てみよう。
1900年頃 「信楽焼の狸」(藤原銕造)誕生
1951年 昭和天皇、信楽に行幸。
御製
「おさなとき あつめしからに なつかしも しがらきやきの たぬきをみれば」
天皇は日本人のアイドル。天皇がタヌキの歌を詠んだことで、一気に潮目が変わった。続いて、
1960年代 童謡『こぶたぬきつねこ』(山本直純)
1969年 絵本『ばけくらべ』(松谷みよ子)
1978年 絵本『ぶたたぬききつねねこ』(馬場のぼる)
1980年 「緑のたぬき」発売
1994年 『平成狸合戦ぽんぽこ』
2001年 ゲーム『どうぶつの森』たぬきち登場
2010年 Ponta カード誕生
この『こぶたぬきつねこ』が、タヌキのイメチェンを決定づけた。ブタ、キツネ、ネコと同レベルに格上げされたのだ。ブタは食肉の、ネコはペットの代表だ。
キツネは稲荷神社の眷属であり神の遣いだ。眷属とは「【159】 なむ うさはちまん だいぼさつ。」で述べた。キツネと同格になったのは、マルちゃんの赤いきつねと緑のたぬきのせいだろう。
そしてジブリで、日本人に身近でユーモラスな小動物の地位を確固たるものにした。しかも現実とはかけ離れたイメージで。
生のタヌキを見たことがない人の方が多いはずなのに、こんなイメージを作って信じて疑わぬ現代人は、タヌキが人を化かす魔物だと信じていた昔の日本人と何ら変わらぬ、滑稽で無知な存在である。
タヌキの生態、何一つ知らぬのではないか? この呑気さが、いずれ日本人の命取りになるのだろうと、私は思っている。
