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【230】 種田山頭火と豊川稲荷

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(写真は豊川稲荷)

四月廿二日 雨 曇。

八時の電車で豊川へ、そして鳳来寺へ。

水筒には護摩水がいつぱい、辨当行李には御飯がいつぱい、ありがたうありがたう。

豊川稲荷は名高いだけあつて、その堂塔は堂々たるものである、豊川閣へは朝から自動車が横付けになつてゐる、金持がもつと金持になりたくて祈願するのだろう、私などにはおよそ縁のないところだ。

街筋は飲食店と土産物店との連続である。

お寺では小僧さんが流行唄をうたひながら、何だかなまめかしく掃除してゐた。

狐の像が多い、読経の調子も煽動的である。

さらに電車で鳳来山へ。

駅からお山まで一キロ、そこからお寺(本堂)まで一キロ。
石段 その古風なのがよろしい 

何千段、老杉しんしんと並び立つてゐる、
水音が絶えない、霧、折からの鐘声もありがたかつた。

本堂前の広場でおべんたうをひらいて一杯いただいた。

ゆつくりして、二時半の電車で、四時すぎ帰来、よい湯に入れて貰い、おいしい御飯を戴いた。

夜は句会、主人、私、僊君、K君。
いつしよに出かけて一献酌んで別れた。

とかく飲みすぎ食べすぎ、そしてしやべりすぎる自分をあはれむ、あはれまないではゐられない!

しみじみ濡れて 若葉も麦も 旅人わたしも
雨ふりそゝぐ 窓がらすの おぼろおぼろに

豊川稲荷

春雨しとゞ 私もまゐります
どしやぶりの 電車満員 まつしぐら

鳳来寺

トンネル いくつおりたところが 木の芽の雨
ここから お山の さくらまんかい

たたずめは 山気しんしんせまる
春雨の石仏 みんな濡れたまふ

石段のぼりつくして ほつと水をいたゞく
人声もなく 散りしいて 白椿(薬師院)

霧雨の お山は 濡れてのぼる
お山しづくする 真実不虚

山の青さ 大いなる 御仏おはす
水があふれて 水が音たてゝ、しづか

山霧の ふかくも 苔の花
ずんぶりぬれて ならんで 石仏たちは

水が龍となる 頂ちかくも
水音の 千年万年 ながるる

石だん 一だん一だんの 水音
れるより お山のてふてふ

『旅日記 昭和十四年』(種田山頭火)

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