【148】 八十神とオキノウサギ
(*写真は稲佐の浜)
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この大国主神には、八十神といって、何十人というほどの、おおぜいのごきょうだいがおありになりました。
その八十神たちは、因幡の国に、八上媛という美しい女の人がいると聞き、みんなてんでんに、自分のお嫁にもらおうと思って、一同でつれだって、はるばる因幡へ出かけて行きました。
みんなは、大国主神が、おとなしいかたなのをよいことにして、このかたをお供の代わりに使って、袋を背おわせてついて来させました。そして、因幡の気多という海岸まで来ますと、そこに毛のないあか裸のうさぎが、地べたにころがって、苦しそうにからだじゅうで息をしておりました。
八十神たちはそれを見ると、
「おいうさぎよ。おまえからだに毛がはやしたければ、この海の潮につかって、高い山の上で風に吹かれて寝ておれ。そうすれば、すぐに毛がいっぱいはえるよ」とからかいました。
うさぎはそれをほんとうにして、さっそく海につかって、ずぶぬれになって、よちよちと山へのぼって、そのまま寝ころんでおりました。
するとその潮水がかわくにつれて、からだじゅうの皮がひきつれて、びりびり裂け破れました。うさぎはそのひりひりする、ひどい痛みにたまりかねて、おんおん泣き伏しておりました。そうすると、いちばんあとからお通りかかりになった、お供の大国主神がそれをご覧になって、
「おいおいうさぎさん、どうしてそんなに泣いているの」
とやさしく聞いてくださいました。
うさぎは泣き泣き、
「私は、もと隠岐の島におりましたうさぎでございますが、この本土へ渡わたろうと思いましても、渡るてだてがございませんものですから、海の中のわにをだまして、いったい、おまえとわしとどっちがみうちが多いだろう、ひとつくらべてみようじゃないか、おまえはいるだけのけん族をすっかりつれて来て、ここから、あの向こうのはての、気多のみさきまでずっと並んでみよ、そうすればおれがその背中の上をつたわって、かぞえてやろうと申しました。
すると、わにはすっかりだまされまして、出てまいりますもまいりますも、それはそれは、うようよと、まっくろに集まってまいりました。そして、私の申しましたとおりに、この海ばたまでずらりと一列に並びました。
私は五十八十と数をよみながら、その背なかの上をどんどん渡って、もう一足でこの海ばたへ上がろうといたしますときに、やあいまぬけのわにめ、うまくおれにだまされたァいとはやしたてますと、いちばんしまいにおりましたわにが、むっと怒って、いきなり私をつかまえまして、このとおりにすっかりきものをひっぺがしてしまいました。
そこであすこのところへ伏しころんで泣いておりましたら、さきほどここをお通りになりました八十神たちが、いいことを教えてやろう、これこれこうしてみろとおっしゃいましたので、そのとおりに潮水を浴びて風に吹かれておりますと、からだじゅうの皮がこわばって、こんなにびりびり裂けてしまいました」
こう言って、うさぎはおんおん泣きだしました。
大国主神は、話を聞いてかわいそうだとおぼしめして、
「それでは早くあすこの川口へ行って、ま水でからだじゅうをよく洗って、そこいらにあるかばの花をむしって、それを下に敷いて寝ころんでいてごらん。そうすれば、ちゃんともとのとおりになおるから」
こう言って、教えておやりになりました。うさぎはそれを聞くとたいそう喜んでお礼を申しました。そしてそのあとで言いました。
「あんなお人の悪い八十神たちは、けっして八上媛をご自分のものになさることはできません。あなたは袋などをおしょいになって、お供についていらっしゃいますけれど、八上媛はきっと、あなたのお嫁さまになると申します。みていてごらんなさいまし」と申しました。
『古事記物語』(鈴木三重吉)
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日本固有種のニホンノウサギについては、「【144】 碧いうさぎ ずっと待ってる」で触れたが、これには四つの亜種がある、という考え方がある。
1、東北野兎
2、佐渡野兎
3、九州野兎
4、隠岐野兎
九州野兎と言っても、本州、四国、九州に広く棲息する、もっともよくいるノウサギ。この四つは生物学的な境界線が曖昧で、亜種にすべきかどうかは結論が出ていない。しかし大きな違いとしては、東北野兎と佐渡野兎は、冬に毛色が白に変わる。九州野兎と隠岐野兎は年中茶色。大きさは、東北>佐渡、隠岐>九州。佐渡野兎は佐渡島にしか、隠岐野兎は隠岐島にしかいない。
「稻羽之素菟」は、自ら「隠岐島から来た」と言っているのだから、明らかに隠岐野兎である。こいつは白い毛にはならない、年中茶色の大型の野ウサギなのだ。
