【221】 岐都禰と野干
(写真は食肉目イヌ科イヌ属キンイロジャッカル)
次は、日本最古の人間に化けるキツネの物語である。平安初期に書かれた『日本国現報善悪霊異記』(通称:日本霊異記)だ。
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昔欽明天皇 是 磯城嶋金刺宮食国天皇 天国押開広庭命也 御世 三乃国大乃郡人 応為妻覓好嬢 乗路而行時曠野中 遇於姝女 其女媚壮馴之 壮睇之言 何行雅嬢 々答 将覓能壮而行女也 壮亦語言 成我妻耶 女答言聴 即将於家 交通相住
比頃懐任 生一男子 時其家犬 十二月十五日生子 彼犬之子 毎向家室而期剋 睚眥嘷吠 家室脅惶 告家長言 此犬打殺 雖然患告 而猶不殺 於二月三月之頃 設年米舂 時其家室 於稲舂女等 将充間食 入於碓屋 即彼犬子 将咋家室而追吠 即驚譟恐 成野干
登籬上而居 家長見言 汝与我之中 子相生故 吾不忘汝 毎来相寐 故随夫語 而来寐 故名為支都禰也 時彼妻著紅襴染裳今之桃花裳也 而窈窕 裳襴引逝也 夫視去容 恋歌曰
古比波未那 和我宇弊邇於知奴 多万可支流
波呂可邇美江天 伊爾師 古由恵邇
故其令相生子 名号岐都禰 亦其子姓 負狐直也 是人強力多有 走疾如鳥飛矣 三乃国狐直等根本是也
『日本霊異記 上巻第二 狐為妻令生子縁』
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これを訓み下すのは至難の技なので、一般的な解釈によるあらすじを記す。
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昔、欽明天皇の御世に、美濃国大野郡の男が、妻とすべき良い女を求めて旅に出た。すると物寂しい野原で美女と出会った。女が媚びを売るように馴れ馴れしく色目を使い、男もまた色目を使い応じた。
「お嬢、何をしているか」男が尋ねると、「良縁を求めて歩いています」と答えた。「では、私の妻にならぬか」と男が言うと、女は「はい」と答え、旅を共にした。
男は女を家に連れ帰り、女は懐妊し一人の男児を生んだ。同じ頃、飼い犬も12月15日に子犬を生んだ。しかしその子犬は、女にいつも敵意を見せ、牙を剥いて睨み、吠えかかった。女は怯え、夫に子犬を殺すよう頼んだ。しかし夫は子犬を殺さずにいた。
二月三月の頃、年貢米の精米に際して、女は稲舂女たちに間食を出そうと、碓のある小屋に入った。すると子犬が、女に噛み付こうとして追って吠えた。女は怯え驚き、野干の姿になって、垣根に上った。
夫はこれを見て、「お前との間には子が生まれたのだから、私は忘れない。いつでも来て、一緒に寝ていきなさい」と言った。女は夫の言葉を忘れず、やってきては共寝をした。
それゆえ野干を岐都禰(来つ寝)と言う。
ある時、女は裾を紅色に染めた裳を纏い、窈窕な様子で裾を長く引きながら去った。夫は、去った妻の容姿を思い描きながら、恋い慕って歌った。
恋は皆 我が上に落ちぬ たまかぎる
はろかに見えて 去にし 子ゆえに
そこで、二人の間にできた子に、岐都禰と名付けた。また、その子の姓も狐直とした。この子は力が強く、走るのが速いこと、まるで鳥が飛ぶようであった。これが美濃国の狐直姓の根本である。
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野干とは、インドに生息するキンイロジャッカルのこと。チャイナにはおらず、ライオンやサイと同じく、幻獣扱いであった。このジャッカルがキツネに混ざってきたことにより、キツネのイメージに変化が訪れた。
なお私は、この狐と美濃の男の異類婚姻譚は、男女が逆、ジャッカルがオオカミになってはいるものの、『おおかみこどもの雨と雪』の元ネタでないかと考えている。
