#1.2 推認と自白。不倫がめくれた日。
前回#1.1はここから
「……見せられないね。」
同じ言葉を繰り返すことしかしない妻。
話が進まないことに疲れを感じ始めた。
違う、本当に友達だ。体の関係なんてない。これからも家族を続けたい。
もし本当にそう伝えたいなら、客観的にそれを示す方法はここでは一つしかない。
「家族でいたいというなら証明しないと。」
私はもう一度そう伝えた。
家族の外の異性に心が向いていたことは認めた。
それでも体の関係はないと言うなら、ここで証明しないと。
そのくらい、この旅行中のあなたの行動は罪深いと、私にはそう思えた。
あなたはスマホに夢中だっただけかもしれない。
だが、私たちは見ていた。
きっと娘にも伝わっている。
娘はまだ複雑な大人の情事のことなんてわからないだろう。
プールでニコニコして遊び、私の肩の上でお気に入りのミニーちゃんの人形に話しかけ、夏休みを楽しんでいた。
それでも時折、娘はあなたの方を見ていた。
スマホを見つめ続ける母親の姿を。
子どもは大人が思う以上によく見ている。
おれとはなは三人で旅行していたのにな。あなたは最初から別の場所にいたんだね。おれたちと旅行していたのではない。一人で旅行していた。
あるいは、スマホの向こうにいる誰かと旅行していたんだね。
妻の顔が歪む。張り詰めていた表情が崩れていく。
顔の筋肉は機能を失い、頬の肉が重力に負けて垂れ下がる。
それでも言葉は出てこない。
沈黙だけが続く。
そういえば、旅行にも行きたくなさそうだったな。今思えば。
旅行の話をしても、どこか上の空だった。
なかなかパスポートの申請に行こうとしなかった。
しびれを切らした私が隣で手伝いながらオンライン申請をした時も、わずらわしそうな顔で「こんなめんどくさいの?」と言っていた。
私と娘がガイドブックを開いて盛り上がっていても、あなただけは興味がなさそうだった。
出発前日の深夜になっても、あなたの荷物だけスーツケースに入っていなかった。
やたらと免税店に行く時間を確保しようとしていた。
搭乗するターミナルをなぜか気にしていた。
当時はとくに気にしていなかった。私はあなたがめんどくさがりなひとだと知っているあなたの夫だから。
しかし今では、一つひとつの出来事が別の意味を持つ。
午前3時。
窓の外の滑走路はいつのまにか暗くなっていた。飛行機はもう飛んでいない。それでも空港は眠らない。
遠くで建物の中の照明は煌々としている。
飛行機が来なくても働いている人たちがいることを静かに証明していた。
長い沈黙のあと、私は聞いた。
「……体の関係もあったってことだね?」
妻は小さくうなずいた。
それだけだった。
そのうなづきの前から、私はもう答えに辿り着いていた。
驚きもなく怒りもなく、涙がでることもない。
ただ、ベッドの上で小さくなった女がうなづく姿が私の網膜にうつり、一つの仮説が証明されたということだけ。
しばらくして妻がつぶやいた。
「……悪いママでごめんね。」
目線は娘に向けられる。
隣では娘が静かな寝息を立てていた。何も知らずに眠っている。
私は言った。
「……抱っこしてあげて」
「……いいの?」
妻はそう聞き返した。
そこで初めて彼女は涙を流し娘をそっと抱き上げ、小さな体を抱きしめていた。
私はその姿を眺めていた。
後悔なのか。
罪悪感があるのか。
恐怖なのか。
なんか……自分を悲劇のヒロインだと思ってる?
笑かせる。
…続く。

