【#2】病棟で見つけた、小さなぬくもり ~孤独な日々の中のあたたかな交流
あなたは、最近「小さなぬくもり」を感じた瞬間がありますか?
何気ない日常の中で、ふと胸が温かくなるような時間──
そんな瞬間が、誰にでもきっとあるはずです。
⸻
何日かして、わたしは共有スペースでの食事に呼ばれた。
病棟の食堂には、いくつかの大きなテーブルとテレビがあり、
みんな気だるそうに過ごしていた。
けれど、その空間にはどこか、やわらかな平和が漂っていた。
人との関わりに問題がなかったことから、わたしは大部屋に移された。
そのころ、母が差し入れてくれた大人の塗り絵と新しい色鉛筆があって、
わたしはその共有スペースの一角で、赤いりんごを丁寧に塗っていた。
薬の影響で感覚はいつもぼんやりしていて、
自分が何を感じているのかもよくわからなかった。
それでも、塗り絵をしている時間だけは、少しだけ落ち着いていられた。
⸻
精神科の病棟って、閉鎖的で怖いイメージを持たれがちだけれど、
わたしが過ごした場所は、明るくて清潔で、スタッフの方々もやさしかった。
共有スペースの窓からは、外の空が見えていた。
そんな環境のなかで、ほんの少しずつ、心がほぐれていくのを感じていた。
⸻
そんなある日、わたしより若い女性が声をかけてきた。
「今、わたし監護室なんです。隣からは人のうめき声がして、部屋は殺風景で怖くて…」
小さな声で、そう話してくれた。
わたしは何も言えなかったけれど、
りんごの塗り絵をそっと差し出した。
彼女はその絵を受け取ると、少しだけ笑って、
「…裏に、あなたの名前を書いてもらえませんか?」と、静かに言った。
その瞬間、胸の中にじんわりと、あたたかいものが広がった。
誰かに名前を書いてほしいと頼まれることが、
こんなにも嬉しいなんて、思ってもいなかった。
薬のせいで、それが「嬉しい」なのか「安心」なのか、はっきりとはわからなかったけれど──
あれはたしかに、心が動いた瞬間だった。
病棟の白く冷たい壁の中で、
その小さなやりとりは、間違いなくぬくもりだった。
⸻
大部屋での生活が始まってから、わたしは他の患者さんとも少しずつ話すようになった。
ある女性とは、テレビの前で一緒に過ごすこともあった。
彼女の呂律は少しおかしかったけれど、きっと薬の副作用なのだろうと思った。
わたしはそのころから、人を観察するようになっていた。
──あなたなら、知らない人とどうやって距離を縮めていくだろう?
見知らぬ人と過ごす時間は、どこかぎこちなくて、
でも、少しずつ信頼が芽生えていくのを感じた。
⸻
薬が増えることはなかったけれど、1日はとても長く感じられた。
副作用のせいか、食欲だけがどんどん増していった。
時間はゆっくりと過ぎていくようでいて、
心は現実から取り残されているような感覚だった。
切り離されたような悲しさを感じることもあったけれど、
何も考えなくていいこの空間は、
心と考えを休めるには、悪くなかったのかもしれない。
⸻
塗り絵をしていると、いろんな人から「きれいですね」と声をかけてもらえた。
幼い頃は塗り絵が下手だったのに、いつの間にかこんなセンスがあったことに自分でも驚いた。
それはわたしにとって、ささやかな自信であり、
生きる力の小さな芽生えだった。
──あなたは、最近、小さな「できた!」を感じたことはありますか?
⸻
病棟での生活は決して楽ではなかったけれど、
少しずつ、自分を取り戻していく時間でもあった。
やがて、早く退院したいという気持ちが強くなり、
主治医に一時退院を希望した。
願いはすぐには叶わなかったけれど、
数日後、ようやく一時退院の許可が下りた。
家に戻るその日、胸の奥に、新しい希望の灯がともっていた。
⸻
どんなに小さなぬくもりでも、私たちの心を支えてくれる。
あなたにも、そんな温かな瞬間がありますように。
⸻
ほんの数日だけ、病棟を離れて帰った家。
静かすぎる朝に、わたしが感じたものとは──?
次回【#3】は「一時退院の日に見えた、心の風景」をお届けします。
合わせて読みたい記事🌿
#小さなぬくもり
#わたしの物語
#心が動いた瞬間
#感情を取り戻す旅
#こころの記録
#精神科入院体験
#心の回復
#癒しの時間
#生きづらさと向き合う
#やさしい世界が
