創作『あさってイエロー、まっさかピンク』第15話・「まっさかの」⑧

(前回までのあらすじ)
若者NPO「ユースオブさっての集い」の猪原さんによって「ユースさって市長」の説明がされた後、3人の候補者たちへの質問会が始まった。
開始早々、一色士陽に向かって幸の手高校新聞部の橘真弓がブチ込む。
「どうして幸高の制服を着ているのか、あなたは馳多本庄の生徒なのに」。

〜今回実験的に短めです!本文1,996文字〜
「ああぁ……、なあーんだ」、
一色士陽は一瞬こわばった表情を浮かべたが、自然にそれを解いた。
そして、右手で左腕の袖をはたきつつ、にこやかに言った。
「制服?あれっす、役作り的な。
馳多本庄、制服、ないんで」。
「幸手アピールで、幸高の制服を着たってことですね、借りたとかで。
たしかにあなたはプロフィールにも『県内高校在学』としていて、さっき、演説会の時にもそういう紹介だった」、真弓が言った。
「はい、普通に友達から借りて。ただぁ!」、
言いつつ、士陽は前髪を掻き上げた、
「さすがに、演出とはいえ、着くずし過ぎちゃったみたいで。
ネクタイの巻き方とかシャツの裾出しとかっすね、演説会終わってこの部屋に移動の時に、廊下で学校の先生5、6人にめっちゃ囲まれて
『それはない、直せ!』
って。なんで今、ちゃんとしてるでしょ?」、
会場に笑いが起こった。確かにそう言われると、演説会時よりかはネクタイも締まっているし、裾もズボンにインしている。
「見てました、幸高の先生方に混ざって、ひとりは鈴木泉先生でしたね。一色候補の神扇中の頃の、3年の時の担任で、所属していたソフトテニス部顧問でもあった」、
真弓が選挙特番司会時の池上彰、あるいは女子マラソン中継ゲスト解説時の松田明美ばりの細かい情報を披露した。
「それで、逆に、馳多本庄アピールする戦略を取らない、そこのところって、どうしてなんですか?
そもそも、馳多の先生方に『今回、地元でこういうのがあって、その選挙に出るんです』って、ちゃんと許可取りましたか?
で!ですよ、一色候補。
仮に当選したとして、学校、幸手から遠いですよね。授業もあるでしょうし、ほんとにまともに活動とか、できるんですか?」
「ンッウン、あーっと……」、咳払いしつつ、士陽が数秒間を開け、それから喋り出した、
「馳多アピらないのは、アピったら俺、有利になりすぎちゃうからっすね……あれ、あんまウケないな」、
そこで真弓の右に立つ「とびーP」が、「へーきへーき平常心ー!」、
左に立つ岡朱里衣が「士陽ちんドンマーイ、スベったけどね!」と合いの手、フォローを入れた。
「あとォ!」、ダン、と士陽は脚を真弓の方に一歩踏み込んだ⸻なんとなくその口調に、真弓は霜降り明星の粗品を連想していた⸻、
「学校すね、もうバレちゃったんで言いますけど馳多、許可は正直、取ってないです!
でもこれも作戦で、この場のことが多分明日のネットニュースとかに出るはずって思ってて、『それ待ち』でした。
出ちゃってから、既成事実ベースで、交渉開始しよって。
で、こう言ってきます、『自分、当選すると思うので、自信だけはあるんで』って。
あーで、それでも渋い顔されて、ちょっとやってみて両立無理ってなれば、もう、しょうがないんで、その場合スッパリ退学して、逆にYMバッキバキに全力でやって、そうだな、その後、海外の大学とか、目指しますね!」
会場内から、歓声と、拍手が飛んだ。
「とびーP」が、「うおおまじか、かっけぇー!」と吠えた。
岡さんが「は、うっそ、海外?
ちょっとォ……聞いてないんだけど……!」、
狼狽し、悲鳴を上げた。
「そうですか。じゃあ、次の質問ですけど……」、真弓が言いかけると、「ユースオブさっての集い」の猪原さんが割って入って、
「うーん、あのね、真弓さんの質問ずーっとだと、他の人が質問できないかも。ちなみにあといくつ質問あるんですか?」。
「一色候補にあと3つ、羽中候補に4つ、野ノ守候補に6つですね」、悪びれもせず真弓が言った。
「や、これでも、絞りに絞って……!」
「ああー、ね」、猪原さんの目が泳いで、それから、真弓の目線に合った。
「……そうしたら、真弓ちゃんにはごめんけど!
私が独断で、急きょ、ルール調整します」、
手刀をひょいひょいと振って、真弓に示す猪原さんだ。
「質問は基本、一人1個!
3人に共通質問で、3人が同時に答えるスタイルに。
で、若い子優先!小学生の子たちから。
それで全員いったん終わった様子とか、手が上がらなくなったとかなったら、そこで質問した人も、1個質問権回復。
よっし、これでいきましょう!」
真弓は下唇を突き出して、今にも
「うううーう、うーうう。」
と、唸り出しそうな表情だ。

(第16話に続く)
※1 「馳多本庄」:正式名称は、「馳多大学附属本庄高等学院」。
埼玉県本庄市にある。新幹線駅「本庄馳多」が最寄駅であるのも有名。
この小説はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係がありません。
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