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目をつぶるだけ、のはずだった。|シロクマ文芸部「目をつぶる」

〜送り火ロック〜


3,714みないーよ文字  サバチー創作の非公認(※サバチー曰く)2次創作です。未読の方、ぜひ先に。)


(本文)

「目をつぶる若者の前に立ち、10秒稼ぐだけの簡単なお仕事です!
未経験者大歓迎!
勤務地:快適な水族館です(現地直行直帰) 
実労働時間:1時間程度(特殊作戦発動時は、発動後、適宜解散)」

地元のシルバー人材センターからあっせんのあった仕事が合わず、辞めて自宅にいたぼくが、スキマバイトアプリで見つけたのがこのバイト。


ぼくは山本蛇内。
no+e記事などで1974年生まれを吹聴しているが、実際は1944年生まれで腰痛持ちの82歳。


冒頭の募集。
こんな条件、80年以上生きてきたが見たことがなかった。
まず「……怪しい」だ。
が、好奇心がまさった。
スマホから応募する。
即、返信が届く。
ぼくは指定された面接場所「中野ニューワールド会館」へ向かった。


ぼくは昔、職場がJR中野駅近くだった。
九龍城かのような怪しすぎる外観の「中野ワールド会館」自体も、そこが2022年頃閉鎖されたことも知っていた。
が、中野ワールド会館に別館があるなど、初耳だ。
地図アプリにも情報が出ない。

だがそれは確かに存在した。
バイトの面接場所はその地下1階、スナック「ウソホントヤダカワイイ」。

店名の昭和臭にくらくらしそうになりながらも地下階段を降りる。
と、そこには長蛇の列。
高齢者ばかり。
なるほど中年より手前は、この怪しさ大爆発の募集に応募してこないか。
高齢者だけが、引っかかる。
ここにも日本の現実を見る思いだ。

最後尾に並んでいると、ワルそうな風体の老人が⸻ぼくも老人だが⸻歩いてきて、
「ニイちゃん、ワリいな、ちょっとワリこむぜ……、
俺さ、ちょっとワリいんだわ」、

言うと、人差し指をピッと下から上へ素早く、滑らせた。
(めんどくせえな)と思いつつ、「あ、どうぞ……」と言う。

ワリいね、と言いつつぼくの前に立つと、その「ワリ男」はくるっと後ろを向いて、やたら話しかけてくる。

ぼくは80歳を過ぎた今でも、現役で「村上春樹の描く『ぼく』」めいた部分を大事にしている男だ。ゆえに、

(やれやれ)

と内心、ひとりごちずにはいられなかった。
ワリ男はとにかく、俺語りが終わらない男、俺語りができればいい男のようだ。
おかげで、特に知りたくないワリ男の個人情報(名前が「地井サバオ」であるとか、普段は北海道在住だがこのバイトに応募のため朝、東京に着いたとか)ベラベラ、エンドレスで聞かされつづける。

うんうん、うん、うん……、

ただただ、頷き続ける展開に……、

だんだん……、瞼が、おもたく……、


はうあ!

目を開けると、地井サバオの顔が超ドアップでそこにある。

「ぴひゃい!」

思わずびっくらこいてのけぞり、ペタンと尻餅をつく。

「ヒャッハー!ワリいワリい、死ぬかと思った?」

カラカラ笑う地井サバオ。

と、いつのまにか隣にいた若い女性が

「キャハハ、『ぴひゃい』とかやっばっ!
もう、採用決定だ〜!」

よくわからないうちに、本採用が決まった。
(前に並んでいた高齢者たちは、ぞろぞろ帰っていった。)
雇用主はこの女性で、今のが面接代わりだったみたいだ。


地井とぼくが、スナック「ウソホントヤダカワイイ」の店内に誘われて、話を聞くに、こういうことらしかった。


  • 女性は、母親から店を受け継ぎ、このスナックのママをしている。

  • 1ヶ月前、迷い込むように店にやってきた若者が常連化。だけならいいのだが、執拗に水族館デートに誘われ、しつこ過ぎてすっかり引いてしまっている。太客候補ではあるが、店以外のプライベートで関係を発展させることは望まない。

  • あまりにしつこく、とうとうあさって、デートの約束を結ばされてしまった。が、本当これきりにしたい。

  • 今回の募集は、基本的には「当日、水族館で私たちの跡を追い、周囲に待機すること」。


「で。
もしその男性がデート中、私に告白する雰囲気を醸し出してこようものなら……、
って、私も持てるテクをフル動員してそっちに持ってくんだけどさ!
その時には、特殊作戦オペレーション決行の合図、出します。
決行時は、成功報酬で追加の2千円、お支払いしますね!」


そして、いよいよ8月16日、決行当日。

指定の時間に水族館に向かい、シルバー割料金でチケットを買い、入場。

他の来客にまぎれ、館内をよぼよぼ、ぶらつく。
まだ、あの女性(と連れの男性)も、地井サバオも、来ていないようだ。


館内をしばし、水槽から水槽へ、ぶらぶらして……、

あれ、また、だんだん……、

瞼が、おもたく……、


立ち止まり、目をつぶる。
目を開ける。

ハッッ!

向こうから、女性が男性と、歩いてくる。

彼女のバッグから、テレグラムが⸻秘匿性の高いサインとしての

T.REX「テレグラム・サム」の日本版レコードジャケットが、

彼女の代でミュージックバー展開しているスナック「ウソホントヤダカワイイ」でも店内で特別な位置にディスプレイされているジャケットが、

見えている。

つまり、特殊作戦オペレーション決行のサイン。
ぼくも、懐からジャケットを取り出し……、
歩いてこちらへ向かってくる彼女に示す。
目だけでうなずく彼女。


一瞬。
地井サバオの姿が、目に映る。


(あれ……、
そういえば、彼って、今日、どんな役割だったっけ……)


と思うが、今はそれを考えている場合じゃない。

ふたりの後ろから、ついていって、注意深く会話に耳を傾ける。
愛用のオムメンス社製補聴器の集音機能をMAXに上げる。

しばし、歩いて……、

ふたりの他誰もいないクラゲの水槽の前で、ふたりが立ち止まり、向き合う。

ぼくもギリギリ離れた場所に立つ。

「じゃあ10秒、目をつぶって。開けた時に見えるものが答えだから」

サバチー「水族館で告白したら、見知らぬ
ジジイとキスすることになった」より引用

来た、このセリフだ。

次の瞬間、女性が足早に⸻ただしヒールのコツコツ音を響かせないように注意深く⸻、立ち去っていく。

ぼくは、彼女の立ち位置に、入れ替わりで、立つ。


それにしても、胸の高鳴りが、止まらない。

いや、この男性のキス顔に、ドキドキしているとかじゃなくで……、

あれ、なんだ、この嫌な動悸は……、

……ぐぬ、なんだ、なんか胸が痛い……、こんなときに……、

ぐぬぬぬぬ……、だめだっ……、

目をつぶる。


目を開ける。


「おい!じいさん!」

右を向くと、地井サバオがいる。

「おむかえですか?」

ぼくが思わず言うと、彼は爆笑して、

「ちげェ〜って、逆だよ逆!
あんた、まだ、来んなし。
任務をさ、ちゃんと果たしておくれよな!」

言いながら、動悸・息切れ・めまいに効くらしい市販薬を差し出してくる。

「おっと、お前さん、普段、『人端じんたん』飲んでたりするか?」

「あ、はい」、ぼくは答える。確かに、人に化けるために飲んでいる。

「さっきAIに聞いたらよ、同時服用は避けた方がいいってさ。

だから、今日は人端は飲むの、やめときな!

とつぜん蛇化したら困るってんなら、夜は孫娘のとこへ行きな。
そういうの大丈夫だし、なんとなく以心伝心しておくからよッ!」

言いたいことだけまくし立てると、地井サバオ氏は水族館の廊下を去っていき、やがて闇に消えた。

それでぼくは受け取った「Q神きゅうしん」を飲んだ。


動悸はすっかりおさまり、逆にみるみる元気が出た。

心に、T.REXの「テレグラム・サム」が爆音でかかる。


そして、10秒が経過。

目を開けて、あからさまに狼狽しだす男性と会話。

完全に人を呑む蛇のごとく進め、とうとう……男性と唇まで重ねた。

しばらく唇を重ねたあと、ジジイがすっと離れた。
​「ありがとね……」
ジジイは満足そうに笑うと、よれよれのカーディガンを羽織って去っていった。

同上

夜。

ぼくは、中野ニューワールド会館の地下、スナック「ウソホントヤダカワイイ」の店内にいた。

女性はとっくに水族館から戻っていたのだろう。
もう普通に開店していて、報酬を現金で受け取った。

袋の表書きに

「この度はありがとうございました 地井サバミ」

と書かれていた。


今夜の店の特集は「送り火ロックナイト」だという。

集まりはじめたお客たちの相手をしながらも、サバミさんが話しかけてきてくれた。

「リクエスト、あったりしますか?」

「じゃあ、T.REXの曲で行こうかな。
「テレグラム・サム」、「ゲット・イット・オン」、「20世紀少年」を、DJっぽくつなぎで、掛けられる?」

「……えっ、すご!
おじいちゃんが、そのつなぎ、大好きだったし〜」

「あはは」

ぼくも愛聴してきた曲たちだ。

ちょっと前まで、また横に来て、好き放題喋って好きに消えた、地井サバオ本人からリクエストがあったのだ。

いつも孫娘が心配で、見守っている、ワリいがイイ爺さんだ。
年中来てる彼に、送るも何もない。
が、まあ今日はお盆の最終日だしな。


(おしまい)


シロクマ文芸部 お題「目をつぶる」参加作品です


●サービスショット「キス待ち」

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山本蛇内 yamamotojanai スキとフォローくだされば(気に入ってくださるなら、でね)十分なのであります! いつか有料記事に挑戦しますので、その時までチップ取っといてください笑