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チャレがや企画/ノスタルジア


《地球に飽きた方へ

 月に別荘を持ちませんか?
 今なら先着30名に限り10㎡300000000$

                  アポロ不動産》

一部のセレブのみが持てるカード会社の最高級ランク会員に送られたメッセージ。一般的なサラリーマンなら到底手の届かない話と諦めるが、珍しい体験と贅沢をし尽くした彼等は、興味本位から潤沢な財産を惜しむことなく注ぎ込んで次々に土地を購入した。ある者は800㎡。ある若は1000㎡。購入者全員に開発費としてプラスの出資も条件としたが、断る者はいなかった。

各国から集められた科学者の英知を結集し、研究と実験を繰り返した結果、水源と酸素と光線の確保まであと一歩のとこまで来た。

太陽や月の軍事利用は禁じられているが、生命維持に必要な環境条件が揃えば、生活圏として居住が許されるのは世界共通公約だが、少なくとも五十年は先の夢物語とされていた。

だが見えない場所での開発は着実に進んでいた。月の裏側だ。購入者の元には窪んだクレーターの地形を利用して開拓された月の写真が定期的に送られてきた。

そしてある日、購入者たちを乗せた宇宙船が飛び立った。アストロノーツの訓練をしてないため、月面着陸はせず、遠目から眺めるだけだが、三十人以上が参加した。

彼等はみな高性能の双眼鏡を持参していた。夫婦で搭乗したIT企業の大富豪は、窓から見える景色に歓喜した。宇宙旅行は十日間。高級ホテルなみの待遇。世界中の料理が食べられるレストランも広いベッドも用意されていた。

快適な宇宙旅行を満喫し、とうとう明日、地球に帰還する。裏側にある自分達の土地をこの目で確認した彼等は、どんな家を建てようかと想像に花を咲かせていた。

その時だった。管制官との通信がぶつりと途切れた。船長がどんなに呼び掛けても応答はない。その状態がしばらく続き、船内にも緊張が走った十五分後のことだった。黒いシルクハットを被り、顔にビニール状のお面を付けた人物が画面に現れた。

「やあ。2026年、宇宙の旅はどうだい?」

男が問い掛けた。船員と乗客らはモニター前に集まって見入った。

「端的に言おう。君達の乗った船は我々が乗っ取った。コントロールセンターは既に我々の手にある。つまり君達を帰還させるのも、宇宙のゴミにするのもこちらの思うままなのだ」

シルクハットの男が画面を横にずらすと、地球にいる運用管制官たちが手足を縛られ、部屋の隅に建てられた檻の中に閉じ込められていた。その周囲には、同じくシルクハットを被った武装集団が機関銃を構えていた。 

「テロリストだ」

参加者のひとりが叫んだ。彼の言葉で船内はパニックになった。楽しかったはずの宇宙旅行が突然悪夢と化し、一様に不安が広がった。宇宙という流浪の空間。歩けばどこかに辿り着くこともなく、全員のスマホの通信も遮断されていて、SOSの狼煙もあげられない。

「こちらの要求をまず告げよう。君達にはもうしばらく宇宙旅行を楽しんでもらう。それに際し、水分、食料、酸素、燃料の供給に、それぞれ一日分500000000$支払ってもらう。ひとりでも拒否すれば通信は絶たれる。そこを墓場にしたければ交渉は終了だ」

もちろん誰も拒否しなかった。一度だけ地球とのやりとりが許され、彼等は部下や家族に指定された口座への振り込みを頼んだ。

即日宇宙船の生活に必要なものが届いた。切実な不便はないものの、旅行者たちは口々に早く家に帰りたがった。窓から見える青くて美しい地球が懐かしくてたまらなくなった。

二十日が過ぎた頃、再び男が画面に現れた。

「生まれた家に帰れないのは死ぬより辛いと言ったのは、タルコフスキーだったかな・・・」

謳うように男は呟いた。乗客は画面に詰めより、一同に帰還を懇願した。 

「君達の資産もだいぶ減ったようだから許可しよう。どうだ?家に戻れないことがどれほど辛いか、傲慢な君達にも実感することが出来たろう。その気になれば調達した資金で核爆弾を製造し、君達の街を壊すことも可能だが、今回は見送ろう。我々の目的は殺戮ではない。君達の愚かな計画を中止したいだけだからな」

そうして画面の男は被っていたシルクハットをゆっくり取り、ビニールのお面を外した。乗客らは目を丸くし、口をあんぐりさせた。そこに映っていたのは、二本の前歯をカチカチさせ、長い耳を立てた白いウサギだった。

「君達のしてることは移住ではなく侵略だと肝に銘じてもらいたい。月は我々の生家なのだ。そこを勝手に荒らしに来たことへの罰と警告だ。三日後に帰還出来るよう船はプログラムしてある。金は我々に無用だから返すぞ」

画面の向こう、銃を捨てた数羽のウサギが跳ねながら部屋を出て行った。 宇宙船の窓の外を、無数の一万ドル札が散らばっていった。


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こちらの企画に参加させていただきました。
見上げた月に人間が住んでるなんてやだなあと思ったお話です。
東海地方在住ではないですが「月」というお題に惹かれました。
コッシーさん、はじめましてのみくまゆたんさん
宜しくお願いいたします。

コッシーさん、ご期待に添えず恋愛小説じゃなくてすいません。
おじさまをドキドキさせてあげられませんでした。えへ。
そういえば創作大賞に応募している「99:1」の⑭から始まる第4章は
まさに「月」にまつわる恋愛小説なので、よければ是非!🐧

#チャレがや
#みくまゆ会
#月