【BL企画】親友の好きな人
こちら以前から気になっていたBL小説のご企画、初参加させて頂きました。はじめまして!
【タイトル:親友の好きな人がスポブラ隠し持ってたんだけど】
【テーマ:卒入学・ヤンキー・スポブラ】
【本文3024字】
正式タイトルを表に乗っけるのはちょっと恥ずかしかったの。ごめんあそばせw
創作におけるヤンキーゆうたら野球部くずれやろ、という謎の刷り込みがある奴が書きました。
某漫画の純粋野球少年→ヤンデレ→ツンデレにメガ進化したピッチャー先輩とか好きです。
「兄貴の部屋にスポブラが落ちてたんだけど」「えぇ……」
話がある。と、深刻な顔をした友人、高良虎徹に引きずって来られたカラオケボックスにて。
いわゆるゲンドウポーズで告げられた言葉に、遠山光は困惑した。
普段は能面だの表情筋がストライキしてるだのと言われがちな光だが、珍しく戸惑いが隠せていなかった。自分より狼狽えている人間がいると落ち着く理論で虎徹がスン……と真顔になる程度の威力である。これまた普段感情表現がストレートなやんちゃ少年の真顔は怖い。
「一応聞くけど、お母さんの洗濯物間違えたとかではなく?」
「かーちゃんのはもっと派手だし」
「やめろ詳細語るな」
多感な男子中学生には居た堪れない。
「でも家族の物でないなら………………彼女連れ込んで的な……」
「だよなぁ」
「しかしスポブラ……」
「スポブラなんだよなぁ」
照れより困惑が勝る。大学生の彼氏の家にスポブラで来る彼女。僕たち童貞だからよく分からない。
「いやまて、百歩譲って“そういうつもりじゃなかったのに”展開だとして、ノーブラのままで帰るはずがないよな?」
「そこに気付いてしまったか……」
同棲しているとか換えの着替えを置いてあるとかならまだしも、そもそも虎徹の兄、龍治は実家住まいだ。そうなると、存在するかどうかすら分からない彼女が忘れていった可能性も低い。シュレリンガーの彼女。
「……コーチって……トランスジェンダーとか女装癖とかあったりする……?」
「知らねーし、ぶっちゃけ知りたくもない」
まして性自認や性愛対象なら家族として真面目に向き合わなくてはならない問題だとは思うが、個人的な性癖などは本気で勘弁して欲しい。
エロ本貸し借りしたりしないのって? 男兄弟がすべからくオープンだと思うな。
兄とは普通に仲が良い兄弟だが、だからこそ深入りしては気まずい領域だってあるのだ。
そんな切ない弟の心兄知らず、一人っ子の光に至っては最初の困惑も何処へやら。9回裏満塁逆転のピンチにマウンドへ立った時と同じくらい真剣な目をしてやがる。
「でもそうだよな……コーチが身に付けるなら素朴なスポーツ系よりセクシー系の方が似合いそうだし」
「お前は何を言ってんの?」
ちなみに高良兄弟の父は地元の少年野球の監督をしており、高校時代の龍治も指導の手伝いを行っていた時期がある。虎徹も光もその当時の教え子だ。
ーー思い出に縋りかけて、虎徹は目が死んだ。気分はスペースキャットならぬスペースヤンキー。
「だってコーチって鼻筋くっきりで目もばっちり二重だろ。絶対化粧映えする。盛りすぎたらドラァグクイーンになりそうだけど」
「うわぁ想像出来るぅ」
というか、気合い入れた時のうちのかーちゃんだよそれ。やる気を出せば出す程オカマに見えると嘆く母。そんな母に兄はそっくりなのだ。
「だからもし女装癖の類だったら、黒レースとか勧めたら良いんじゃないか」
「やめろ、マジでやめろ」
「なんだ、虎はシンプル派か? Tバック派か?」「女装癖と決定付けるなそもそも下着の好みの話じゃない!」
☆☆☆
「……って感じだったんだけど」
帰宅後訪れた兄の部屋。
ベッドに腰掛けうなだれる兄は、なる程確かに顔が良い。母似だが、女顔というよりは宝塚の男役にいそうな顔。身長も高いので舞台映えしそう。
「まじか……考えつく限りで結構エグい方の作戦だと思ったんだが」
「もうさぁ、ここまでやってあれだもん。光に諦めさせるのは無理でしょ。アバタもエクボどころじゃないよ」
中学に入学したての頃だったろうか。光がコーチに会いたい、としきりに言い出したのは。
環境が変わって心細いんだろ、と当の兄は笑って流していたが、親友のその声に親愛以上の熱が籠もるのに時間はかからなかった。
「あいつが兄貴を好きなのは気の迷いなんかじゃないって認めてやんなよ」
「お前はそれで良いのか、親友だろおい」
「だって、恋人になりたいとか兄貴にも好きになって欲しいって言うなら兎も角、あいつはそこまで望まねぇんだもん」
「ある意味たちが悪い!」
だって恋愛とは二人で育むものなのに、光は自分一人で自己完結してしまっている。たった一人で宝物のように抱え込んで、始まらないから終わらせようもない。
「それとも恋愛感情抱かれるのもキモい?」
「うっかり絆されたら社会的に死ぬのは兄ちゃんなんだが〜?」
結局の所、龍治だって満更でもないのである。
弟のツレは弟同然を素で行く長男気質故にか、怪我で自分自身の選手生命を絶たれた直後に出会った弟子ポジションだからか。
種類は違えど、龍治が光に向ける眼差しは温かい。
「兄貴だって、なんだかんだ光の事好きじゃん」
「それお前が言うー? お前ら、高校はうちの附属希望なんだろ」
「まぁね。アイツラみたいなのはいないっぽいし、やっぱり光も野球続けたいって言うし」
虎徹の表情に苦々しい色が混ざる。
ーー光が熱中症で倒れたのは中学一年の夏休み。そこから野球部の上級生に水筒などの私物を隠される嫌がらせを受けていた事が明るみに出る。
『今日は給水機遠い場所での練習だったからうっかりしてたな。まぁ変な物入れられた時よりはマシだよ。あれめっちゃ吐いたけど何だったんだか』
『ーーは?』
虎徹はその時、初めて人を殴った。
上級生諸共謹慎処分。その後もなんやかんやあってそのまま部活は辞めてしまい、今に至る。
「……まぁね、こちとらバッテリーで相棒で幼馴染なんで」
気付けなかった罪滅ぼし、というつもりはないし、軽はずみな行動だったとは反省している。光まで部活を辞めてしまったし、二人揃って不良扱いだ。かーちゃんにも泣かれた。親父はこっそり褒めてくれたけど。
「ただし後悔はしてない」
「胸を張って言うんじゃないよ」
ベッドに座り込んだまま困ったように見上げてくる兄。その横顔に憧れたから自分も野球を続けるのだ、と伝えたら何と言うだろう。調子に乗りそうだから言わないが。
「もうさぁ、嫌じゃないなら諦めて愛されちゃってよ。応えてやれとは言わないからさ」
☆☆☆
『ごめんなさい、虎を巻き込んでごめんなさい』
あの夏の日。
弟のように可愛がっていた子どもは、弟の名前を呼んで泣いていた。
小学生の頃から知っている子どもだが、自分の前で泣く姿を初めて見た。
どれだけきつい練習にも、弱音一つ漏らさない子どもだった。
可愛げがないくらい冷静で。
ポーカーフェイスが上手くて。
それこそ熱中症で倒れる寸前まで、誰も気付かなかった。
いじめを受けているなんて、誰も気付かなかった。
中性的な見た目に反して神経が図太い子どもだったから、どうせそのうち飽きるだろうと放置していた、というのも本心だろう。
それでも。
それでも、そんな扱いを受けて良い理由などなかったのに。
『なんで光が謝んの』
きっと虎徹だってそう答えただろう。
いじめの首謀者を殴り飛ばした弟は自宅謹慎中で、ここにはいない。
いつもは凛と真っ直ぐに伸ばした背筋を丸め、必死に嗚咽を殺そうとするように泣く子ども。
『光は悪くないよ』
只々泣かないで欲しくて、抱きしめた身体の熱さを覚えている。
『ーーごめんなさい……ごめん、なさい』
泣き声が止まるまで、ずっと。
きつく握りしめ過ぎて色を無くしたその手が抱き返してくる事は、ついぞなかった。
☆☆☆
「応えてくれないのはあっちなんだが」
ーーその来春、無事に志望校へ入学した二人と野球部の臨時コーチとして毎日顔を合わせる事となり、吹っ切れた光からの猛アタックを受ける事態となるのだが。それはまたのお話。
