【シロクマ文芸部】雪だるま #創作歴史ブロマンス #主従関係 #喧嘩ップル
「雪だるまにしてはでっかいにゃあ」
かつて、自分がまだ青二才だった頃から十六年間お仕えした主人にそう言われた事がある。
確か、新年の挨拶回りに赴かれた時の事。
主人の兄君である殿下の屋敷。自分は屋敷の外で警備の不備がないかの確認がてら、殿下の側仕えの者達を労い回っていた。
昨夜から振り続けた雪は止みやまず、昼間だと言うのに身体の芯から凍えるような正月だった。
「与右衛門」
「は、ここに」
主人が自分の名を呼ぶ声は軽やかで、その一言で凍えた芯の底から熱が灯るような温もりがあった。
「おみゃあさんもよく働くのぉ」
「貴方程では」
主人の、気の抜けた時だけ口を付くお国言葉が好きだった。
立場上、どうしたって気を張らざるをえない方だった。
「雪だるまにしてはでっかいにゃあ」
そう言って、頭に積もっていた雪を払われた。
本来ならそうやって、餓鬼の頃から人並みよりでかい図体だった自分を童のように撫で回して笑っているような人。
深々と降り積もる雪を見ていると思い出す。感傷など柄でもないが、自分も年を取ったという事か。
あの時の貴方の年を超えてしまって、もう何年経つか。
「与右衛門どのー!!!!」
唐突に響き渡る大音量。懐かしくも胸を刺す回想は、儚く吹き飛び霧散する。
「…………」
ここは太閤殿下の御殿とは似ても似つかぬ、我が大名屋敷。中庭まで届く大声で、庭木に積もった雪がドサドサと落ちてきた。妖怪雪下ろし要らずか。
「与右衛門ど……」
「喧しい!!」
全力で走るなど何年ぶりだろう。
玄関口で対応していた小姓や女中の困惑ぶりもさもありなん。
なんだその、雪の野原で転げ回った仔犬のような有様は。
「駕籠はお使いにならなかったので?」
「かような天候の日に私用で駕籠を出すのも悪かろう」
「そういう心遣いが出来るのであれば、使いも出さずに急襲するのは控えて頂きたいのだが?」
気性の激しい男だが、根は善性の小姓上がり。ズレてはいるが、人を気遣う優しさはあるのだ。ズレてはいるが。
「全く、貴方が雪だるまになってどうする気か」
このまま室内に入られては水浸しだ。頭に積もった雪を払ってやれば、元々大きな目が更に大きく見開かれ。
「……? 兵部殿?」
「あ、ああ、すまない。いや中々に降り止まなくてだな!」
「五月蝿い」
傘くらいさせ、と眉間に皺を寄せる大男の何が面白いのか。満面の笑顔が赤いのは、寒さのせいだけでは無いだろう。気付かないふりを続けるのもそろそろ馬鹿らしい。
「俺も焼きが回ったか……」
「うん?餅でも焼くのか?与右衛門殿はほんに餅好きだな!」
張り倒すぞこのくそ餓鬼。
こちら参加させて頂きました。本文1055字。
別の企画さまですが、こちらに参加させて頂いた作品の続きでもあります。
前半の昔の主とのエピソードだけでも良かったのですが、“今”の代表、兵部殿(万千代さん)出したくて。放っておくと与右衛門殿、すぐ未亡人みたいなムーブしだすから。
ちなみに与右衛門殿と兵部殿は5歳差。
