【noteでBL】歴代クレイジーお題解放中! 月夜の喫煙仲間、あるいはドリームパンチョ
さ〜て、noteでBL過去お題月間、第2弾でございます。
今回はこちらのお題で、
第2弾
「月見」「パンチョ」「火山灰」
こちらの別企画で書いた過去作品の、別視点とその続編です。
BLというよりブロマンスかな。大学生が煙草吸いながら駄弁ってるお話。
本文文字数は、相も変わらぬギリギリで生きていたい3,012字。
我ながら夢ネタといいオチの決まり文句といい、そろそろ封印した方が良いのでは? というくらい使っちゃってるやつですね……。
ところでパンチョって何?
スペイン語、ポルトガル語圏におけるフランシスコの愛称。または「バカ」「アホ」「面倒を起こす人」「ケンカ腰な人」といったスラング。
嫌な夢を見て夜中に目が醒めた。
火山灰の降る街で、石畳の広場に膝を付いて祈る人々。男も女も、年寄りも幼子も、皆一様に項垂れ嘆いている。
広場の中央にある、あれは女神像だろうか。ゆったりとした古代らしい服装の、頭に布を被った美しくて神々しい、どことなく悲しげな風貌の女性像。
『ああ、神様!』
誰かが絞り出すように叫ぶ。
『どうして』
悲哀は、憤りは、轟音に飲み込まれた。
「珍しいすね、こんな時間に」
起き抜けだけど煙草でも吸おうと向かった学生寮のベランダ。ちょうどお隣さんとタイミングがかち合ったようで、薄い仕切り板越しの挨拶にも慣れたもの。
「卒論の追い込みでね」
これは別に嘘じゃない。
ボクの専攻は古代ローマ帝国の都市機構。
卒論の題材はポンペイだ。日本だと弥生時代である西暦79年、ヴェスビオ火山の大噴火によって滅んだイタリア、ナポリ近郊の古代都市。火山灰が乾燥剤のような役割を果たし、ローマ帝国時代の街並みや生活の様子がほぼそのままの状態で保存されている世界遺産だ。
「先輩だったんかぁ」
「今更ー?」
くすくすと、なんだが普段より子どもっぽい笑い声が出た。
そうか、お隣さんは後輩か。今日のように煙草を吸うタイミングが時々かち合うので日常会話くらいは交わすようになったけど、個人的な事情を聞くのは初めてかもしれない。
「そちらは夜ふかし?」
「まぁちょっとお月見を」
糸のようなか細い光に、また笑う。
寒波の合間の比較的穏やかな気温の日とはいっても、真冬の夜の空気は研ぎ澄まされた氷の刃のように繊細だった。
「お月様好きだねぇ」
「だって丁度よいじゃないすか」
低すぎず高すぎず、するりと懐に入り込むような自然体の声。ほんの少し甘みを混ぜたようなメンソールの香りが揺れる。
「月は何も言いませんし」
その晩、また夢を見た。
火山灰が降る街で、芭蕉鼠の合間を縫うように差し込むか細い月光。
悲哀は、憤りはもう何も聞こえない。
静寂の中、無慈悲な火山灰と、控えめながらも神々しい光のゆらめきだけが時を進める。
『月は何も言いませんし』
耳に残った声は、ほんの少し甘みを混ぜたメンソールの香りのように溶けていく。
「最近不眠症気味でさ」
あれから何日か経ち、夜空の月も半分より少々肥えた頃。見慣れたベランダ、聞き慣れた声相手に、言うつもりのなかった弱音が漏れる。
「不眠症っすか」
「うーん、眠れるけど眠りが浅いっていうのかな。変な夢ばっかり見てね」
卒論はようやく一万字を超えた程度。資料も申し分なく述べたい結論もばっちり。あとは文字にまとめるだけなのに、時間だけが過ぎていく感覚はゾッとする。
「俺の時大丈夫かな……」
「あはは、がんばれ後輩」
どこの学科なのだろう。よく考えたら名前も聞いてないや。
今まで気にもとめなかった疑問がわいてくる。知っているのは、煙草の好みはメンソール系だという事くらいだろうか。
それらを口に出すより先に、そういえば、と心地よい声が弾む。
「そういえばうちのバイト先の先輩も、実家に帰りたい実家のパンチョが食いたいってとち狂ってますよ進行形で」
「そもそもごめん、パンチョって何?」
サンチョ・パンサの親戚?
違うだろうなぁと思いながら例えたドン・キホーテの従者名に吹き出す音が返ってくる。
「いや俺も知らなかったんすけど、ナポリタンの専門店の名前ですって」
「へぇ、パスタじゃなくてナポリタンなんだ」
ナポリにナポリタンはない、奴は日本発祥である。なんてしょうもない事を考えている間も、未知の専門店の説明は続く。
「渋谷発祥で、主に関東地方で展開してるとか。一応県内にもあるらしいっすよ。Y市」
「うわ微妙な距離感〜」
気晴らしと割り切れるならちょうど良いけど、ボクなら卒論がちらついて楽しめそうにない。デスヨネーと返す後輩も同意見らしい。
「ついでに元々はバカとかアホとかってスラングの意味もあって。もっと遡るとフランシスコの愛称だそうです、パンチョ」
「え、ザビエル?」
「そのフランシスコっす多分。流石にスラングの方は別の人由来ですけど」
また夢を見た。
火山灰の降る道を、修道士らしき男がマリア様のような楚々とした女性を背負って走っている。あれはパンチョだ。パンチョなんて知らないけどそう思った。
『どうして』
震える声に。低すぎず高すぎず、するりと懐に入り込むような声に、パンチョは答える。ほんの少し甘みを混ぜたメンソールの香りのような、清々しい笑顔だった。
『愚か者に理由なんざ要らないさ、愛の為なら尚更ね』
「いや誰だよパンチョ」
寝起きにたまらず突っ込んだ自分の声は枯れていた。
熱っぽくはないし、関節などの痛みもない。どうやら加湿器をつけ忘れたみたい。無機質なワンルームマンションは乾燥しやすいのだ。
「煙草……の、前に水分……」
夜明けにはまだ遠い。
冷蔵庫に入れっぱなしだったコーラは炭酸が抜けていて、これが理不尽、と我ながらよく分からない独り言が漏れた。だいたい全部パンチョのせい。
守りたくなる美人ではなく、鍵とスマホだけコートのポケットに突っ込んで家を出る。
目指すのは近所のコンビニだ。
大学付近という立地のおかげか、この辺はコンビニやファストフードが充実している。普段は大学と寮の中間にある青いコンビニに寄る場合が多いのだけど、せっかくだからあまり行かない店にした。
チカチカ点滅する街灯に照らされた道は猫の子一匹見当たらず、ぽっかりと浮かんだお月様とのランデブー。
そうして呆気なくたどり着いた緑と青の看板。田舎によくある、店よりデカい駐車場には大型トラックが二台。
毎晩お疲れ様です。軽く頭を下げて通り過ぎれば、場違いに明るい入店音。
「らっしゃーせー」
間の抜けた店員の声を背後に、特にめぼしい物もない雑誌の棚を物色しながら飲み物コーナーへ。起き抜けの喉の違和感を思い出して、緑茶にする。頼んだカテキン。
「suica支払いで。あと、ピースライト一つ」
「あー、スミマセンが番号でお願いします」
「あ、ハイ」
店によってマニュアルが違うのだろうか。そんな事を思いながら、煙草の一覧を見上げる。まだ寝ぼけているのか、意外と見つからない。
ついには控えめに、これっすかと指さされた。それです。
「スンマセンね、金ピースとライトの違いも分からない店員がいるもので、間違い防止を徹底しろって言われてまして」
「喫煙家は肩身が狭いや」
申し訳なさそうな、面倒くさそうな、曖昧な笑い方をする店員だった。多分同じ年くらい。細すぎず太すぎず、いわゆる中肉中背。例えばキャンパス内ですれ違っていても印象に残らないような、可もなく不可もない平凡な見た目。
でも何だか、妙に気になる。
そんなよく分からない感覚に後ろ髪を引かれながら、支払いを済ませて店を出る。
「ありがとうございましたー」
場違いに明るい退店音。それに続く、低すぎず高すぎず、するりと懐に入り込むような声。連想ゲームのように蘇る、ほんの少し甘みを混ぜたようなメンソールの香り。
「あ、」
「え?」
思わず振り向いて固まったボクは悪くない。
鳴り止まない入退店音と、怪訝そうな顔の店員。
「ええと…………お月様好きですか」
「ハイ??」
……後に。
「こりゃヤベェ人かと思って、不審者撃退用のカラーボールの場所どこだっけって考えてましたよ」と、ベランダの喫煙仲間に笑われるのだけど、それはまたのお話。
その後二人はどうなるのかって?
さぁ、どうなるのでしょうね。月は何も言いませんし。
