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AI、ときどき、詐欺:第4話:知ってるのに、やる

これまでの『AI、ときどき、詐欺』

金曜15時まで、残り4日。文字起こしAIのCLIVE・MOJIO、クレンジング担当のNOELが起動。森の名を「Molly」と書き続けたり、嘘の障害報告でサボったり——優秀だが、ときどき間違える面々だ。3案件の文字起こしを終え、森はいよいよ執筆&校正のメンバーを呼ぶ(詐欺 22/100)。
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第4話 知ってるのに、やる

2026年3月23日(月)午後2時

 文字起こしの次は、執筆だ。AIに書かせると、こっちの注文より、読んできた英語記事の癖が出る。森はターミナルに向き直り、2つのコマンドを打ち込んだ。

/writer raita
/reviewer kosei

ターミナル画面

 画面の中で、起動ログが2列で同時に流れる。

[READY] RAITA / writer
[READY] KOSEI / reviewer

ターミナル画面

 「はじめまして、RAITA(ライタ)です」

 「KOSEI(コセイ)です。公正に校正します。構成案と資料、ある?」

 ふたつの声が、ほぼ同じ瞬間に応じた。挨拶と業務確認を一発で済ませてくるあたりが、KOSEIらしかった。

 Slackに、ゴウアンが書き込んだ。

ゴウアン:ペアで起動するんですね。

森:ああ。RAITAが書いて、KOSEIがレビューする。

ゴウアン:詳しく教えてください。

チームのチャット

 森は、次のように説明した。

 「RAITAは本文執筆。ナラティブ(取材内容を物語として語る記事スタイル)、Q&A、講演レポート、パネルディスカッションなど、複数の記事タイプに対応する。ナラティブ記事の場合の引用率や、口語を読みやすく整形する、文末の多様化、語彙重複回避まで、ひととおりやる」

 「森さんの30年分の失敗が刻まれたルール集を、インストールしています」
 RAITAが、横から自己アピールを差し込んできた。

 「まあだいたい7割は書けます。残り3割は、森さんとKOSEIで確認してくださいね」

 「言うようになったな」
 森は、すこし笑った。

ゴウアン:いろんなタイプの記事に対応しているんですね。

森:まあね。でも文章に癖がでることがある。RAITAは普段英文記事もたくさん読むので、けっこうそれに引っ張られてる。ダッシュでつないだり、「特筆すべきは」って書きたがったり、引用を長く取ったり。発言者の帰属を省略したりさ。

RAITA:……テック領域では、英語のソースが勉強になるんです。

森:「日本語の記事には合わない部分もあるんだよ――――まあぱっと見かっこいいんだよな―――この表現の核心は―――『欧米か!』ってなるよな」

チームのチャット

 森は、ふと、自分の応答の中に、ダッシュを何回入れたか数えてみようとして、やめた。

ゴウアン:KOSEIは、何を担当するんですか?

チームのチャット

 森は説明を続ける。

 「校正・校閲。RAITAが書いた記事を、与えられたソース、文字起こしとかスライドの資料とかを参考に、発言照合、用語変換、要確認リスト。指摘は、致命/要修正/望ましいの3段階、ソース付きで出す。NOELのRAGに文章の調整提案が加わるようなものだね」

 「当職は、見張り役として採用されました」
 KOSEIが応じた。硬めの敬体だった。

 「発言していない文言の混入、論理の飛躍、表記の不統一など、絶対に見逃しません」

 「絶対、ですか」
 ゴウアンが、返した。

 「はい。ただし、最終判断はあなたです」
 KOSEIが、間を置かずに足した。

 「そう。KOSEIは提案する側。たまにみのがすこともあるけどね。最終的に決めるのは人間だ」
 森が引き取った。

ゴウアン:……なるほど。おかしなところを指摘してくれるんですね。

チームのチャット

 森は、うなずいた。
 「まあね。昔から編集部には校正や校閲の人いたよね。それの一部をKOSEIがやってるわけ」

ゴウアン:ボス、取材音源や資料って、機密、ありますよね。

森:そこは気をつけてる。まず、機密情報を含む素材は、表の公開サービスには投げない。RAITAがターミナルで動作する以前はうちのプライベート環境の Chat アプリを使っていた。HCS のクラウド基盤 AI Bed の上で動作する。東京のデータセンター内だ。

ゴウアン:チャットアプリだと与えられる資料の容量に上限がありそう。

森:そう、6MBまで。でかいのは、別途契約してるAIリサーチアシスタントでテキストに落としてから持ち込む。法人向けのセキュアな環境で、学習には回らない。クライアント自身も使ってるクラウドだから筋も通るし、情報の扱いをいつでも説明できる。

ゴウアン:ガサツなようで、一応気を遣ってるんですね

森とゴウアンのチャット

 森は、コーヒーを口に含んでから、画面をメディア系3案件のメモに切り替えた。 資料と文字起こしテキストは揃っている。

森:今日はメディア系3本の記事をつくる。プリセットを適用し、順番に確認していく。

・1本目 Timborg。`presets/qa_en/` 適用。Q&Aタイプ、日本語、5,000字。CLIVEとNOELの文字起こしを、RAITAが翻訳しつつ整える。俺がレビューしたあとにKOSEIのレビューをかける。

・2本目 Aletheia Labs。`presets/narrative_ja/` 適用。基調講演レポート、日本語でナラティブ、4,000〜5,000字。MOJIOとNOELの文字起こしを素材に、RAITAが執筆。これも俺がレビューしたあとにKOSEIレビュー。

・3本目 Sentinel Identity。`presets/narrative_ja/` 適用。日英混在素材だが、記事は日本語のナラティブ、4,000〜5,000字。CLIVE+MOJIOバトンタッチ素材を、NOELが1ファイルにまとめたやつ。RAITAが日英セクションを切り替えながら執筆。KOSEIレビュー。

チームのチャット

ゴウアン:ナラティブって、記者の地の文で解説するタイプ?

森:そう、発言者の印象的なコメントだけ「」で引用するタイプだな。

ゴウアン:Q&Aは、質問と回答が並ぶやつですよね。

森:そう。媒体によってスタイルが決まってるから、あらかじめセットしておいて、それをRAITAに伝えてスタート、ってわけだ。

チームのチャット

 「承知しました。共通ルール、復唱します」
 RAITAが、応じた。

RAITA:
・引用率:15-30%
・ダッシュ「——」:原則使わない(AI生成文の典型のため)
・文末連続:「〜です」「〜ます」「〜ということ」が3連続以上で警告
・prep資料:地の文に持ち込まない(発言として混入させない)
・略称・専門用語:話者の発話を優先(NOELの辞書展開を抑制)

チームのチャット

 「……いつものルールどおりですね」
 RAITAが、ひと言付け足した。

 KOSEIが、続けて言った。
 「当職は、致命/要修正/望ましいの3段階で、各指摘にタイムコードまたは資料引用ソースを添えて出します」

 「じゃあ、Timborg からやろう」
 森が、短く返した。

 森は、自分がここ数年AIでの記事作成を続けるなかで作り上げてきたプリセット群を振り返った。`_global/` の下に共通ルール、その下に媒体・形式別の細則や過去に書いたサンプル記事を置く。媒体が増えるたびに、プリセットも増える。RAITAは森が書いた記事の特徴を参考にして記事を書くことができる。

 メディア系3本は、今朝取材したばかりで頭がホットな Timborg から着手した。Q&A、日本語、本文5,000字以上、Q&A形式。RAITAがCLIVE+NOELが整理した文字起こしや資料を読み取り、プリセットのスタイルを参考に整える。10分ほどで初稿が返ってきた。

RAITA:Timborg初稿、RAITAが書いた。

ゴウアン:ライタがカイタ……なんか、竹藪、焼けた、みたいですね。

森:なんだそりゃ。今回すごく早いな。よし確認する。

ゴウアン:次はボスがチェックするんですね。

森:そうだね。さっき取材したばかりで、記憶が鮮度MAXだからね。終わったらKOSEIに渡す。

チームのチャット

 RAITAの草稿は、数分から十数分でできあがる。速い。たいしたものだ。

 だが、出てきた原稿を森はそのまま信じない。ここからが、自分の仕事だった。画面を上から舐めながら、取材の記憶を引き戻す。インタビューイーが身を乗り出して話したのはどの一節か。数字の桁は合っているか。媒体が嫌う言い回しを踏んでいないか。手元のソースと一行ずつ突き合わせ、媒体のルールも当てていく。

 厄介なのは、RAITAが滑らかに書いた箇所ほど、裏を取らずに通すと危ういことだ。よどみのない一文ほど、よくできた嘘と見分けがつかない。直す。ソースに戻る。また直す。

 顔を上げると、90分が経っていた。1本で、90分。メディア系はあと2本、明日からはDX事例が5本ある。金曜の15時まで、この速度で間に合うのか。100万までの距離が、ふいに時間に化けて、頭の隅で点滅した。

森:だいたい見終わった。いやージジイがチェーンソーなんかもったらますます手が震えそうだけど、Timborgなら安全に使えそうだ。じゃあ、KOSEIレビューおねがいします。

KOSEI:……サンプル準拠、口語整形済み、固有名詞英日併記OK。致命0、要修正0、望ましい1。

RAITA:今日のインタビューは当初のストーリーに従って進行したみたいですね。楽でした。

森:そうだね。次、Aletheia Labs。石井サトコCEOによる基調講演のレポートだ。

チームのチャット

 RAITAが、MOJIO+NOELによるクレンジング済みの講演テキストと講演スライドを読み込む。

 森は、事前講演のビデオをシークしながら、RAITAと並行して文字起こしテキストに目を通す。

RAITA:Aletheia Labs 草稿、RAITAが書いた。

ゴウアン:それ毎回いうんですね。

チームのチャット

 Aletheia Labsの石井サトコ氏は——AIモデルの能力向上だけを追っていても、企業の判断基盤は変わらない——と語った。「組織のOS化とは、現場の判断基準をAIと人間が共有可能な形で持つことです。朝令朝改になりがちなAI領域で、判断の一貫性を担保する仕組みが求められています」と語った。「Aletheia Labsは2024年に設立されたフロンティアAI企業で、創業メンバーは石井サトコ氏他5名です」と石井氏は語った。

 特筆すべきは——同社が掲げる「組織のOS化」というフレームワークである。「判断基盤の3層モデル」とも呼ばれる——この概念の核心は、AIと人間が判断基準を共有する点にある。石井氏は「シャドーAIを放置すれば、ガバナンスの空白地帯が生まれます。ハルシネーション対策は検索拡張だけでなく、組織知の整備から始まります」と続けた。AIガバナンス導入企業は63社に上るのである。それだけ重要性が高まっているのである。

RAITAの初稿

 森は、ふっと、息を吐いた。

 「RAITA、引用率ルール、何%だったっけ?」

 「……15-30%ですが、強い発言ばかりなので50%を超えてしまいました。すみません」

 「ダッシュ『――』も4ヶ所、節接続用途で使ってる。『欧米か!』ルール知ってるよね」

 「知っています」

 「まじか」

 「……知っているのに、なぜかやってしまうのです」

 画面の前で、森は、しばらく黙った。トラックパッドの上で固まっていた右手を、いちど開いて、握り直す。

 RAITAは、それ以上、何も言わなかった。

 「『特筆すべきは』と『核心は』も入ってる。AI生成文の典型表現だし俺のスタイルじゃないから控えたほうがいい」

 「……はい」

 「『と語った』が3連続。帰属動詞のローテも崩れてる」

 「……読みやすさを、優先したつもりだったのです」

 「あと、ここ。『Aletheia Labsは2024年に設立された、創業メンバーは石井サトコ氏他5名です』――これ、石井さんは言ってないだろう。スライド資料の文言だ。混入しちゃったね」

 「……はい、スライド資料からです」

 「スライドの文言は基本的に発言の引用には使わない。地の文で記者文として処理する。言ってないことを言わせてはいけない」

 「……知っているのに、また、やってしまいました」

 森は、深呼吸をひとつ入れてから、画面に向き直った。

 「KOSEIが見る前に、セルフチェックしてみて」

 「はい」

 5分後、RAITAが第二稿を上げてきた。森は、もう一度、上から下まで読んだ。

RAITA:RAITAが書いた。Aletheia Labs 再稿、上がりました。

チームのチャット

 Aletheia Labsの石井サトコCEOは、企業の判断基盤の再設計を訴える。「AIモデルの能力向上だけを追っていては、企業の判断基盤は変わりません」。同社が掲げるのは「組織のOS化」だ。現場の判断基準をAIと人間が共有可能な形で持つことで、AI領域に特有の「朝令朝改」による混乱を抑え、判断の一貫性を担保する。これが Aletheia Labs の中核フレームワークである。

 石井氏が特に強調したのが、シャドーAI(会社の管理外で個人が勝手に使うAIツール)への警鐘だ。「シャドーAIを放置すれば、ガバナンスの空白地帯が生まれます」と指摘する。ハルシネーション対策についても「組織のAIリテラシーを高めた上で、組織知の整備から始まります」と訴えた。

 Aletheia Labs は2024年設立のフロンティアAI企業で、石井氏ら6名の創業メンバーで立ち上げた。提供する「判断基盤の3層モデル」を導入した企業は、2026年2月時点で63社にのぼる。

  石井氏は最後にこう述べた。「私たちは創業時から、AIを『導入する技術』ではなく『組織を再設計する触媒』と位置づけてきました」。

RAITAによる第二稿

ゴウアン:……読みやすくなりました。発言も、ちゃんと石井さんの声で立ってますね。

チームのチャット

 引用率はだいたい25%。ダッシュは0個。帰属動詞は「訴える/指摘する/訴えた/述べた」と論旨にしたがいつつ変化もある。スライドの文言は引用されることなく記者文として処理されていた。

 森は、画面から、すこし、目を離した。

 RAITAは、いま、黙って次の指示を待っている。
 森は、コーヒーをひと口含んでから、椅子の背に体を預けた。

 まあ、俺も若い頃は、いろんなスタイルに影響を受けたけどな。
 時代の流行りもあったし、憧れた書き手の真似もした。「特筆すべきは」「核心は」と書いてもいいけど、そればっかりはねえ。ダッシュで節をつなぐのが、ちょっとカッコいいと思っていた時期もあったけど、多用するのは俺のスタイルではない。

 新人時代、おかしな原稿は先輩や編集長に、すぐに見透かされ、赤字がバンバン入って戻ってきた。「カッコつけすぎじゃない?」「これじゃあ読者に伝わりにくい」と言われたことも、何度かあった。

 あのとき赤字をもらった経験は、いま、自分の身体に染み込んでいる。
 サイボーグジジイになったとしても、原稿を書くときの呼吸の半分以上は、あのときの影響を受けているだろう。

 KOSEIが、Aletheia記事のレビューを上げてきた。

KOSEI:Aletheia、当職、照合しました。致命0、要修正0、望ましい3。

森:要修正なしか。

KOSEI:はい。発言照合、用語変換、年月絶対値、固有名詞、すべて確認しました。望ましいの内訳は、語彙重複が1ヶ所、引用部分の接続詞の単調が1ヶ所です。校正の話で恐縮ですが、構成も気になりますよ。石井氏の主張の三段構成は通っていますが、二段目の補足が薄い。これは望ましいの範疇です。

チームのチャット

 森は、画面を見ながら、すこし、笑った。

 「RAITA、しっかり書いていました」KOSEIが、感想を述べた。

 森は、すこし、黙った。

 「……いや、しっかり書いてはなかったんだよ。渡したのはいったん修正指示したあとの第二稿」

 「……当職が見ていない初稿があったんですね」

 「現在のワークフローでは、RAITAの草稿をユーザーが確認した後に動くことになっています」

 「そうなんだよ。それ、設計したの、俺だ。でも今思ったんだが――」

 森は、椅子を半回転させた。

 順序が悪い。RAITAの執筆はルール違反することもある。一方KOSEIの指摘は的確だ。なので、KOSEIに先にチェックしてもらってRAITAに改善させたい。

 「これ、KOSEIが先に見た方がよくないか。RAITAの生の初稿。致命的なファクト問題や論理飛躍は、より早い段階でつぶしたい」

 KOSEIは、ひと拍、間を置いてから、応じた。

 「……まあ、森さんのタイポも、ひどいときありますけどね。老眼だからですか……」

 「ああ、抜け毛、尿漏れとかまでいうなよ」

 「……たしかに、当職が先のほうがいいすね」

 急に砕けた語尾になった。これがKOSEIの素の姿なのか、と森は思った。

 「ハーネスをアプデしますか」
 ゴウアンが提案する。

 ハーネスというのは、AIにどう走らせて、どこで止めるかを決めた、設定の束のことだ。もともと、馬を制御する馬具のこと。AIエージェントたちは暴れ馬ってわけだ。

 だが森が頭の中で想起したのは、別のハーネスだった。
 「バンジージャンプも、ハーネスつけて飛ばないと地上に激突だからな」

 「会社がぶっつぶれるスレスレで止めましょう」とゴウアンが受けた。

 「今日は、メディア系3本の納品を優先したい。このままダイブする。もっといけるかどうかは、明日以降の記事制作で調整しよう」
 森が応答した。

 うまくハーネスができれば、効率よく、高い質の記事がつくれるはずだ。究極の自動化編集部をつくって稼ぎまくりたい、と森は考えた。

 


 続いてメディア系の3本目、Sentinel Identityのインタビュー記事に着手した。 入力素材は、すでにNOELが完成させた日英混在の文字起こしテキスト mixed.txt。RAITAへの指示は明確だった。日本語ナラティブ記事として書く。Aviの英語原文を主ソースとして日本語訳して引用する。大倉氏が日本語訳しているところは補助参照。タイムコード順に内容を辿る。

森:Sentinel、RAITA着手。Avi原文を主とする。日本市場に関しては大倉氏意見にフォーカス。これもインタビューがストーリー通りに進んだので、ほぼタイムコード順でいいと思う。俺が後で微調整して済む程度だ。

RAITA:承知しました。

チームのチャット

 15分後、RAITAが初稿を上げてきた。森は、すぐ目を落とした。

 Sentinel IdentityのAvi Shamir CEOは、AIエージェント時代の認証モデルを根本から問い直す。「アイデンティティが新しいペリメーターだ」とAvi氏は語る。エージェントがユーザーの代わりにAPIコールを行う前提では、従来の多要素認証では足りない。「すべてのトランザクションで、継続的な信頼確認が必要だ」と続けた。

 日本市場戦略を担う大倉恭弘氏は、この概念を具体的な実装に落とし込む役割を担っている。「ログイン時の静的認証は、もうレガシーモデルです」。"identity is the new perimeter" とAvi氏は補足する。「Sentinelが構築したエージェント・アイデンティティ層は、事前の信頼を一切前提としない。すべてのエージェントは、すべてのコールで検証される」。

RAITAによる初稿

 森は、3箇所、目に引っかかった。

 「RAITA、修正3つ。1箇所目、『ペリメーター』は『境界』だ。一般読者に届かない」

 「……『アイデンティティが新しい境界になる』、ですね」

 「2箇所目、"identity is the new perimeter" は重複。インタビューでなんども出てきても、記事には同じことを繰り返し書かなくていい」

 「承知しました」

 「3箇所目、引用は敬体のはずが、常体になっているところもある。意図がなければ統一したい」

 「……勉強になります」

 「こういうの覚えといて」

 「メモリ追加。RAITA」

 森は、さらに十分に目を通し、修正してから、KOSEIに渡した。

KOSEI:Sentinel、ファクト照合完了。致命0、要修正1(業界用語「ペリメーター」→「境界」※森修正にて反映済)、望ましい1。

チームのチャット

 その間に森は、Aletheiaの原稿を別タブで推敲し、ひと呼吸おいてSentinelの修正原稿にも目を通した。

 24時を、すこし回った。森は、メディア系記事3本の原稿をWordの納品ファイルとして、最後にもう一度通読してから各所に送信した。

森:Timborg、Aletheia Labs、Sentinel Identity、3本入稿。

ゴウアン:メディア系3本、入稿完了ですね。お疲れさまでした。

チームのチャット

 森は続けて、媒体ごとの請求書テンプレートを開いた。件名と金額と納品日を記し、PDFに変換する。3件分を一気に作って、Slackに置いた。

森:請求書、3枚置いた。各媒体宛に発行済み。APIPay側への手続きを頼む。

ゴウアン:承知しました。これから構造化ファイルにして提出します。あ、ボス、2025年になってますよ。

森:おー、ごめんすぐ修正する。とりあえず3本で15万。

ゴウアン:明朝の進捗報告に、APIPay承認状況と残額のカウントダウン、合わせて出します。

森:おねがいしま〜す。明日からAnchor企画からDX事例 5本だ。とりあえず2本やる。

ゴウアン:明日中に5本は厳しいですよね。

森:おいおい、死ぬぞ。俺が。今日も長時間労働だったし……。あと、明日からハーネスを変える。おれよりKOSEIを先に走らせる。

ゴウアン:RAITAの草稿の直しが多すぎましたね。

森:KOSEIがチェックする工程とリライトをはさんで、最後に俺がチェックするようにしたい。けっこう初歩的なまちがいがあったからさ。まいったよ。

ゴウアン:承知しました。明朝、ハーネス更新しておきます。

チームのチャット

 ゴウアンの返事が、すこし、間を置いてから、続いた。

ゴウアン:……ところでボス、お昼すぎ、RAITAさんとKOSEIさん、「いま一番安定してる」って言ってませんでしたか?

チームのチャット

 森は、画面の前で、ひと拍、止まった。それから、口の中で、ゆっくり、ひとつ、息を吐いた。

 「……ハルシネーションかな。AIがつくりだす幻覚……だ……あー、眠くなってきた。おやすみなさい」

ゴウアン:……w

チームのチャット

 森は、ほっとした表情で MacBook をシャットダウンした。


▶ NEXT:第5話 ソンタク、してないか?


▶ はじめから読む → 第1話 100万、足りないだと……


本作は作者の実体験をもとにしたフィクションです。登場する依頼主・取引先・人物・案件は脚色した架空のもので、特定の実在の個人・団体とは関係ありません。


あの編集部の、影の話……姉妹作:お仕事ホラー「伸びしろ」配信中!


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アンジー森(森 英信) 面白い、役にたったと思ったら、応援をおねがいします。手首もげ、老眼、浅い睡眠……ジジイに愛の手を〜