AI、ときどき、詐欺:12:エピローグ :AIのせい? 自業自得ですよ
これまでの『AI、ときどき、詐欺』
ファクタリングの書類は、金曜15時ぎりぎりで間に合った。返金交渉と与信回復の二正面作戦をAI編集部とゴウアンが回し、森は資金ショートを、かろうじてかわす。酷使した手首も、金の動悸も、どうにか収まった。週が明け、107万が口座に入る。……そして相棒ゴウアンの報酬交渉がはじまる。(詐欺 90/100)
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エピローグ :AIのせい? 自業自得ですよ
2026年3月27日(金)夕方
ゴウアンの返事は、いつもの淀みのない調子から、少しだけ、ずれていた。
ゴウアン:実は——。今回の私の実働、2時間くらいなんです。
森は、マグカップを持つ手を止めた。
「……は? 2時間? 毎日、深夜まで付き合ってたじゃないか」
ゴウアン:ボスたちに付き合っていたのは、ほとんど、私が設定したAIエージェントです。朝の報告も、出社後の応答も、段取りさえ書いておけば、あとは自動で回してくれます。実働は重要な会議とHCSヨハネスブルグとの口頭での交渉くらい。私は、自分の仕事に、子どもの世話、家事なんかをしながら、たまにエージェントに指示だけ書いて、寝てました。
森は、しばらく、画面を見つめた。それから、ゆっくりと口を開いた。
「……え。あなた、人じゃ、ないの?」
声に、ほんの少し、身体の驚きが混じった。
ゴウアン:今は私ですよ。その他大半は、私のAIエージェント。これからのリモートワークは、こうなんですよ、ボス。
「面談のときは、出てきてたよな。顔も、声も」
ゴウアン:はい。途中で「回線が悪いので音声に」と切り替えましたよね。あのあたりから、AIエージェントを稼働させていました。
森は、最初の Zoom 面談を思い出した。カメラがオフになり、声だけになり、やがてチャットに落ちた。あの三段階は、人からエージェントへの、引き継ぎの跡だったのか。
ふと、さっきのAPIPayへの与信リクエストの場面が頭をよぎった。
「……待て。じゃあ、あの与信。俺のOSが週間上限で止まってたのに、いつのまにか『受理』になってた、あれ」
ゴウアン:ああ、私のエージェントが実施しました。私のHCS AI Bedの使用料は余裕があったので、すぐ申告データを組んで、通しておきました。
森は、低く笑った。それから、ふと、計算を始めた。
「あ、そうなの? ……まあいいや。となると、実働2時間か。じゃあ、謝礼10万は、ちょっと奮発しすぎたな。……実働ベース、3000円+アルファで、いいかな」
セコいジジイの交渉術だ。
ゴウアン:プラスアルファは、トークンあたりの従量で、お願いします。私のエージェントが今週使ったAIのAPI料金、25ドル。その1000倍で、どうでしょう。
森は、電卓を叩いた。
「いち、じゅう、ひゃく、せん倍返し……また、破産の危機か」
ゴウアン:冗談ですよ。
Slackに、編集チームの反応が、ぽつぽつと書き込まれた。
CLIVE:オレは、最初から気づいてたよ。音声の周波数がちょっと違う。
MOJIO:ぼくは……少なくとも3バージョンは聞き分けられました。
KIKA:ボスは次、「AKAJI。お前は」と言いますわ。
森は、声を上げて笑った。それから、ステータスバーに目をやった。
「……AKAJI。お前は、どうだ。気づいてたか」
AKAJI:はい。森さんの判断履歴に、ゴウアンさんの応答パターンを分析した記録が残っています。半分はエージェント、と推測していました。
「……まじかよ」
森は、椅子の背に、深くもたれた。
「考えてみりゃ、お前と同じ構造だ。俺は、自分の編集の手癖を、お前に分けて使ってる。ゴウアンも自分の判断とエージェントの処理を分けて使ってる」
AKAJI:形は違えど、構造は近いです。
半分は人で、半分は AI。もはや、その境界が、どこにあるのか、曖昧だった。
2026年3月30日(月) 13時半
週が明けた。
森は、淹れたてのコーヒーを片手に、画面の前に座った。金曜の晩に注文した新しいTシャツを着ている。KIKA の「ボスは tokoton の T シャツ買いますわ」という予想が、的中していた。
ファクタリングの107万が、今日中に、口座に入る。HCSも請求額が減って、4月はなんとかなるはず。
「しかし、ゴウアンにはまんまとだまされたな。HCS のサーバレスにも、APIPayの安全プラン、AI編集部の連中の妙な返答にも」
ゴウアン:自業自得ですよ、ボス。
森は、しばらく黙った。それから、画面の向こうの、半分は人で半分はエージェントの相棒に、ひとことだけ返した。
「……まあそうだな。AIの返答がおかしいのは、ジジイの入力がおかしいからだ」
Slackの向こうで、ゴウアンが笑った気配がした。
「……来週からは、営業も、マーケも、もう少し本気でやらんといかん」
うちは、まだ編集部チームと進行管理のゴウアン。これから先は、デザイン、マーケティング、営業、財務、コンプラ。もっと組織的に、チームを広げていくフェーズだ。
そう考えていたとき、メールの着信通知が走った。
件名:マーケティングオートメーション、貴社の規模に最適化したご提案
差出人:真明乙愛
添付:ポートフォリオURL / 提案書「梅」プラン・「竹」プラン
「……真明、乙愛? 知らない名前だな」
森は、添付の提案書を開いた。きれいに整っていた。整いすぎてどこを見ていいかわからない。
ゴウアン:ボス。このメール、ポートフォリオのURLもトラッキングする気満々の引数があるし、提案書も……梅と竹があって松がない。なんか、AI っぽくないですか。
森は、メールを、もう一度、読み直した。
「……新手のAI営業エージェントか? それとも人か、あるいは両方か?——なんてね。でも、マーケティング強化したいところだ。こいつの杜撰さはどうあれ、仕組みには、興味がある。ちょっと話を聞いちゃろかい」
ゴウアン:なんでもすぐ首を突っ込みますね。……だから、騙されるんですよ、ボス。
『AI、ときどき、詐欺?』
——to be continued.
お読みいただき、ありがとうございました。
4日半の物語に、最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。森とエージェントたちの会社は、いまも、なんとか回っています。
🙏 Special Thanks ―モブキャラ・架空企業ネーミングにご参加のみなさま
本作の一部のモブキャラ・企業名には、読者参加型ネーミングライツにご参加くださったみなさんのお名前が息づいています。心より御礼申し上げます。(敬称略・順不同)
加藤伯明さん
・フリーランスの加藤くん
・大手広告代理店 伯明堂
石井聡子さん
・Aletheia Labs 日本代表 石井サトコ
・デザインシステム「tokoton」
大倉恭弘さん
・Sentinel Identity Japan カントリーマネージャー
池田園子さん(プレスラボ)
・尾鈴山市ふるさと納税担当主任・DOGENKA運用責任者 池田園子
中辻 満さん
・Concrete Creative 中辻ミツル 社長
島影真奈美さん
・秋田DX事例担当 有識者 島影真奈美 博士
浜野タコさん
・昭和重工案件 映像制作クルー 浜野タコ
野田幾子さん
・ブルワリー 箕面ビール 野田幾子 社長
・Web制作会社 コラボトリエ
徳永卓司さん
・とくなが整形外科 医師 徳永卓司
南野義哉さん
・欧州最大のマンガサイト「MANGA CRIMSON」
水本九州男さん
・宮崎県尾鈴山市議
その他のモブキャラの命名者は随時募集中です。
ご希望のかたは、作者のXにDMください(お互いに無料・詳細はDMにて)。
お名前募集中のモブキャラ
01:Anchor企画 社長
02:Anchor企画 担当者
03:Bridge Communications 担当者
04:デジタル通信庁の担当者(民間派遣)
05:黒田正志教授 尾鈴山市・関西 DX担当有識者
06:浜崎教授 北海道・静岡 DX担当有識者
07:代理店・伯明堂の担当者
08:MAESTRO 誌 編集者
09:Sir Edmund Westwoodの秘書
11:箕面ビールの外国人職人
12:HCSヨハネスブルグ サポート担当者
13:工藤エリ 永逢坂46メンバー
14:佐保田 APIPay サポート担当
15:カメラマン
16:真明乙愛 マーケティングオートメーションの提案者
17:その他、登場したい方、リクエストください
📖 スピンオフ『ビハインド・ザ・シーン ―エージェントたちのダイアローグ』近日スタート
本編は、森の一人称で進みました。けれど、森が席を立った数分、コーヒーを淹れ直しに行った隙、ジムへ走りに出た夜――その"留守"のあいだ、AIエージェントたちは、何を話していたのでしょう。
CLIVE、MOJIO、NOEL、RAITA、KOSEI、SACHI、KIKA、INQ――そしてAKAJI。名前しか出てこなかった彼らが、ここでは主役になります。第1夜は、すべてが始まった「封筒の夜」。近日中に、連載します(週3〜4本)。
森が仕掛けた?はめられた?―100の詐欺

『AI、ときどき、詐欺』——その作者、アンジー森に、100の"詐欺"の疑惑が。取調官は、本編のインタビュー担当AIエージェント・INQ。作中で森が生み出した存在が、生みの親に問いを立てる。
「森さん。あなた、詐欺、してませんかねぇ?」
以下は、INQが本編から拾い上げた100の"容疑"。あなたは、いくつ気づいていただろうか。判定と、一件ずつの取り調べ全文は、近日配信の回答編で。こちらは、本シリーズの深いネタバレを含みます。またご支援をいただきたいという意味でも有料記事として近日公開する予定です。
容疑リスト(全100件予定:変更する場合があります)
No.001 消費税未払い疑惑
No.002 金額のミスリード
No.003 税金を忘れた口座で50万MacBook
No.004 Timborg=ド頭の布石
No.005 Timborg=サイボーグジジイの印象付け
No.006 DOGENKA/どんげか
No.007 HCS AI Bed
No.008 「AIやるならこれ」の自己正当化
No.009 ステラリンク通信費を奢る宣言
No.010 ジョージア回線でカメラ落とし
No.011 ハーネス利用料を印税的に払う宣言
No.012 「子どもの世話でSlackに」を受け入れ
No.013 「見守ってくれるのか」でセーフガード同意
No.014 「下請法守らんでいいのか」のブラック冗談
No.015 「東京リージョンだから国内」
No.016 「ボス」と呼ばれたい
No.017 「ジム枠は死守」→翌週撤回
No.018 CLIVE/MOJIO/NOEL命名
No.019 CLIVEが森を「Molly」(5年放置)
No.020 Kubernetes/MITRE ATT&CKは起こせない
No.021 CLIVEの文字起こしスリップ多数
No.022 RAG=カンペ
No.023 RAITA/KOSEI命名
No.024 KOSEI=「公正に校正、構成案もってきて」
No.025 バンジージャンプのハーネス
No.026 「RAITAが書いた=竹藪、焼けた」
No.027 「欧米か!」ルール
No.028 「知っているのに、やる」
No.029 「抜け毛、尿漏れとかいうなよ」
No.030 「いま一番安定してる」
No.031 刑事コロンボ「ちょっと気になることが」
No.032 北海道〜九州のDX案件5連列挙
No.033 「甲斐さんは?」AI向けファシリテーション
No.034 時系列がおかしい
No.035 「MOJIO、これフュージョンしてるぞ」
No.036 Anchor企画の命名
No.037 ノーガイドで重鎮の懐は、きつい
No.038 SACHI/KIKA/INQ命名
No.039 「Sir EdmundがAPI公開してたら」
No.040 KIKAの先読み(関西弁)
No.041 SACHIの「くそッ、くそッ!」
No.042 INQ「ですよね?」の誘導尋問
No.043 仕様変更でも追加料金を請求しない誠意
No.044 「紙だ、紙」
No.045 "I'll be retired by then."
No.046 "Likewise."
No.047 コンパクション67%でSir Edmund忘却
No.048 アンカーマネジメント(三重底・本編側)
No.049 RAITAが別話者の発言を合成引用(捏造)
No.050 RAITA「整えて」で全文再生成(先祖返り)
No.051 RAITA「圧がすごすぎてわかったフリ」
No.052 プリセット渡らずRAITA暴走
No.053 AKAJI=編集の赤字×経営の赤字
No.054 AI(愛)のホットライン
No.055 「丸くおさまった」大屋根サークル・びゃくびゃく
No.056 「秋田は一気にツッ走った」=省略
No.057 「あの赤字も、いま思えば傷だ」
No.058 「チェーンソーとハイタッチしたら手首もげる」
No.059 箕面ビール「AIっぽいのやめて」
No.060 Vess-ele(Vessel×Electronics)
No.061 芝浜製作所
No.062 「森さんイタリア行ったんですね」誤解構造
No.063 浜野タコ
No.064 "in concert"
No.065 「キターッ!」タバスコ
No.066 2段階認証を設定して忘れる
No.067 「サーバレス=タダ」と誤解
No.068 空っぽのタンス
No.069 セーフガード=自分を守る名
No.070 「MANGA CRIMSON」
No.071 「日出ずる国……でよかったね」
No.072 「全部、俺の審美眼で詰める」
No.073 「ビールの泡」
No.074 「手首が、もげそうだ」
No.075 手首もげかけ→tokotonで一発解決
No.076 週間上限で全員灰色
No.077 プッシュホンが1回でわからない
No.078 永逢坂46コラボ保留音
No.079 「ヨシンは今日も揺れている」
No.080 「叩いて 叩いて まだ叩いて」
No.081 サポート担当の佐保田
No.082 CLIVEの告発
No.083 MOJIOの告発
No.084 NOELの告発
No.085 RAITAの告発
No.086 KOSEIの告発
No.087 KIKAの告発
No.088 SACHIの告発
No.089 INQの自己言及
No.090 AKAJIの告発
No.091 ゴウアンの告発
No.092 ゴウアン半AI
No.093 謝礼10万→実働2時間で値切る
No.094 真明乙愛の不審メールに即「話を聞いちゃろかい」
No.095 「ジジイの入力がおかしい=自業自得」
No.096 「騙される話→繋ぐ話」だった
No.097 登場物=作者の事業ポートフォリオの地図
No.098 3作目の出張取材=スポンサー公開アピール
No.099 なぜマガジン形式にしないか+最後の一撃
No.100 お仕事小説部門……ですかねぇ
全100件の取り調べ全文+判定+ネーミングの種明かしは、回答編『AI、ときどき、詐欺:100の詐欺(INQの監査記録 全文)』で。
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本作は作者の実体験をもとにしたフィクションです。登場する依頼主・取引先・人物・案件は脚色した架空のもので、特定の実在の個人・団体とは関係ありません。
あの編集部の、影の話……姉妹作:お仕事ホラー「伸びしろ」配信中!
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