EUのクリーン産業ディールって、サステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第四十二回)CISAF(クリーン産業国家補助金)は振る袖が無くなった証?それより大変なのは…
前回はアメリカのワイン流通システムの変化のお話でした
前回は、日本にいる日本人としてはほぼ関係ない、だけど世界のワイン流通を考えるときには無視できない、アメリカの悪名高い「3ティアシステム」をネタにしました。最大のワイン産地であるカリフォルニアで大手卸売業者がビジネス撤退することでこのシステムが変わるのか?というお話をしました。ビジネスのやり方は変わるかもしれないけれどもシステムそのものは変えられないでしょうね、がとりあえずの結論。
久しぶりにEUの脱炭素政策のお話
今回は、久しぶりにEUの脱炭素政策を取り上げてみたいと思います。EUのワイン産業政策の話はしましたが、脱炭素政策そのものの話はしばらくしていませんでした。
2025年2月に「クリーン産業ディール」を発表
今年の動きをさかのぼると、2025年2月26日に欧州委員会は産業競争力強化と脱炭素を両立し、経済成長を目指す政策文書「クリーン産業ディール」を発表しました。2050年の気候中立(CO2排出量をネットでゼロにする)目標はそのままに、技術中立(CO2ゼロ排出であれば再生可能エネルギーだけではなく原子力発電やCO2回収利用・貯留(CCUS)付きの火力発電なども認めるという意味)の原則に基づき、エネルギー多消費産業の脱炭素の動きをスピードアップするための支援と、将来の競争力の核心となるクリーンテックへの支援に焦点を置いたものです。
6つの柱
この中では、「成長と繁栄をもたらす欧州の産業エコシステム」として、6つの柱を掲げています。
①手頃なエネルギーの確保
- 再エネ導入の加速、電力市場の統合、発電に占める再エネ比率の向上(2030年に32%目標)
②クリーン製品市場の創出
- 公共調達に「持続可能性」「EU製優遇」などの基準を導入
- カーボン・インテンシティ・ラベルの導入(生産量に対する二酸化炭素排出量の比率をカーボン・インテンシティと言います。それを製品ごとに開示して、環境に優しい製品を選べるようにしよう、ということです。鉄鋼などから開始する方針)
③資金調達の強化
- 国家補助金の新枠組み(CISAF)を導入
- イノベーション基金や産業脱炭素化銀行の創設
- Horizon Europeによる研究開発支援
④循環経済と原材料アクセス
- 希少資源の再利用・共同調達
- 2030年までに循環型素材の使用率を24%に引き上げ
⑤グローバル市場とパートナーシップ
- CBAM(炭素国境調整メカニズム:EUよりも脱炭素の取り組みが遅れている国からの輸入品に対して、脱炭素コストの差額を徴収する仕組み)の簡素化と強化
- 貿易防衛措置の強化
⑥人的資本とスキル
- スキル連合の設立、Erasmus+による人材育成
- 高付加価値な雇用の創出
加えて、規制緩和などの取り組みが必要と指摘
同時に競争力強化には、規制緩和・簡素化、単一市場の統合、デジタル化の加速、イノベーションの促進、質の高い仕事の促進、EUおよび加盟国間の政策の調整の水平的取り組みが必要としました。
先立つものを調達するための仕組みがCISAF
お題目はいろいろ並んでます。ただ、これを推進するには先立つものがいるわけです。それが③資金調達です。このCISAF (Clean Industrial State Aid Framework) について、6月25日にEUが概略を発表しました。この枠組みを使うことでEUのグリーン産業ディールがサステナブルになるんですか?というのが今回のお題でございます。
これまではEU主導でTCTFという枠組みを使ったファイナンス
EUが主導するグリーン政策は、現状TCTF(Temporary Crisis and Transition Framework)という枠組みの下で各国が補助金やら税額控除やらの政策を行っています。この枠組みは、2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けて、エネルギーコストの上昇への対処やロシア依存のエネルギー構造の転換を進めるために設定され、これを基に各国がいろいろな手を打っていたわけです。
各国の裁量を高めてスピードアップを狙う
ただ、この枠組み自体が一時的(Temporary)であることや、スピードアップが必要だという要請もありました。特にEUが絡んでいるとスピード上がらない、ということで各国の裁量を高める形の新しい枠組みを作りましょう、ということです。また、EUは公式には言ってませんが、今のままだと脱炭素投資の金額がまだまだ足りないとされる一方で、インフレの影響、防衛力強化の要請、高齢化への備えなどを考慮した時に、財政面の余裕が乏しくなってくる可能性も当然考えられます。
ということで出てきたCISAF
という状況の下でこのCISAFです。EUのプレスリリースによれば、「CISAFは、EUの国家援助規則に沿って、加盟国が特定の投資や目標に対して支援を提供できる条件を定めています。この枠組みの下で、欧州委員会は、クリーン産業を促進するために加盟国が導入した援助スキームを承認し、個々の援助の迅速な展開を可能にします。」とのことです。New State aid framework enables support for clean industry
具体的には
・クリーンエネルギーの展開に向けた「ファストトラック」(手続き緩和&迅速化、規制緩和ということですね)
・クリーンエネルギーの柔軟性対策と容量メカニズムに関する新しい規則(再エネ電力のグリッド(供給網)整備の話ですね)
・エネルギーを大量に消費するユーザー(企業)の電気代をサポート(鉄鋼業などカーボン・インテンシティの高い企業が脱炭素投資をすることへのサポートですね)
・脱炭素化やエネルギー効率の向上につながるすべての技術への投資を柔軟に支援(ここにいろんなものが入ってきそうです)
こういったことをやることで
・クリーンテック製造業のサポート(域内投資、域外への投資流出防止、サプライチェーンのサポート、地域間格差是正、脱炭素投資コストの税額控除導入などが想定されています)
をするわけですが、なんだかどこかで聞いたようなお話ばかりですよね。
民間資金のリスクを軽減しようというのが肝
で、2月に発表されたクリーン産業ディールを支援するプロジェクトへの民間投資のリスクを軽減するための金融面の措置、というのがCISAFの肝のようです。
それでも資金的には全然足りなさそうです
欧州環境庁やECBによれば、EUのグリーンディール実現には年間5,200億ユーロ規模の投資が必要とされており、さらにクリーンテック製造基盤の強化には2030年までに追加で920億ユーロが求められています。現状でどのくらいの金額が投資されているかはわかりませんが、5200億ユーロってことはおそらくGDP比3~4%の投資になるはずです。それを公的支出だけで賄うのは大変で、民間も巻き込まなきゃいかんでしょう。2月のクリーン産業ディールでは、CISAF以外の金融措置も合わせて1000億ユーロ以上を動員する、ってことになってますので、まだまだ足りないわけです。
CISAFを活用した民間資金の引っ張り出しが目的みたいです
そんな状況で、CISAFは加盟国が株式、ローン、保証などの公的ツールを使用して、適格なインフラストラクチャ、エネルギー、循環型経済プロジェクトへの投資のリスクを軽減できるようにして、民間資金を引っ張り出そうとしています。
EUが、各国政府の「出資」を提唱
これに合わせるような形で、EUの競争政策を担当するテレサ・リベラ氏はFT紙の取材で、グリーン産業への「出資による支援」を提唱しています。競争政策上、EUでは特定企業への補助金は制約されていますが、出資(実際にはファンドや特別目的会社などを通じたものになるでしょう)であればこうした制約は回避できる可能性があるうえ、事実上の政府サポートで民間資金の呼び水になることも期待できる、というあたりを狙っているんでしょう。将来的にその企業の株が上がれば儲けもの、というのもあるかもしれませんが。いずれにせよこれが呼び水になるか、が大きなポイントです。Inject equity in green industry not subsidies, EU tells capitals
「ESG投資ファンドから資金流出」という、出鼻をくじく記事
これによって、欧州でのクリーン産業ディール、すなわち脱炭素投資がサステナブルなものになるかに注目しましょう、なのですが、その出鼻をくじくような記事が日経新聞に出ました(ESGマネー、世界で逆流 1~3月、欧州で初の流出超 企業の脱炭素に遅れ - 日本経済新聞)。脱炭素を中心とするいわゆるESG投資ファンドからの資金流出が続いていて、ついに欧州でも資金流出になりました。
CISAFの話に紐づけられていないのが残念
脱炭素への資金フローが細ってます、ということですが、CISAFの話につなげて書いてたら、おーっ!!すげえ!!ってなったんですけどね。
資金流出の最大の理由は儲からないから
トランプ大統領のせいだとかなんとか言ってますが、資金が引き上げられた理由は単純に儲からないからです。(ESG投資の話ってどこかで書いたつもりだったんですが、過去の記事を見直したらちゃんとは書いてなかったみたいです。どこかでやらなきゃ。)
脱炭素投資自体が現状サステナブルではないのが問題
ここから先は
¥ 100
この記事は noteマネー にピックアップされました
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?

