アメリカのワイン流通システムって、サステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第四十一回)悪名高い「3ティアシステム」崩壊の始まり?
前回は、再エネ送電網管理の難しさのお話でした
前回は、再エネ優等生スペインでの大規模停電のお話をしました。再エネは発電量が気候によって変動するため、送電網(グリッド)の管理システムがちゃんとしてないと、特に瞬間的な発電量の変化に対処できないと、今回のように大変なことになります。日本のエネルギー政策の基本方針、S+3EにさらにSをつけ加えなきゃいけないんじゃないですか、ということを指摘しました。
ワインの流通システムの歪みのお話がまた来ます
今回は、またワインの話題に戻ります。市場の成長を暗黙の前提にして作られているワインの流通システムのそこかしこで歪みが表面化しているというトピックをこれまでもいくつか書いています。先日のボルドーのアン・プリムールも、コングロマリットのポートフォリオ再編の話もその意味では通底しているわけです。WSET Diploma受験生の皆さんにとっては、早くクリアしないと特にD2(ワインビジネスという科目です)の中身がどんどん変わっちゃうかもしれません。
アメリカのワイン流通システムの話はDiploma受験生泣かせ
世界最大のワイン消費国はアメリカです。しかし、この国のワイン(アルコール飲料)流通のシステムというのが複雑で、受験生泣かせだったりするし、実務家の人にも手間をかけたりしている(あるいはブルシットジョブで金儲けの種になっている)わけです。このアメリカの流通システムで最近なんだか変化が起きているんじゃない?というのが今回のお話です。
アメリカの「3ティアシステム」が今回のネタ
前振りが少し長くなります。アメリカのアルコール流通システムは「3ティアシステム(3 Tier System)」と呼ばれます。その名の通り三層に分かれているわけですが、アルコール飲料(ワイン、ビール、スピリッツ)のアメリカ国内での流通を3つの段階に分けて規制する制度です。1920年から1933年までアメリカで施行されていた禁酒法が廃止される際、各州に酒類規制の権限が与えられ、それに合わせて導入されたシステムです。
3ティアシステムの基本的な流れは、ふーん、その通りじゃん
この制度の基本的な流れは以下の通りです。
生産者/輸入者がいて
Tier 1: 生産者(Producer)/輸入者(Importer)
ワイナリー、ブルワリー、蒸留所、または海外からの酒類を輸入する業者です。これらの業者は、直接消費者に販売することは原則として禁じられており、必ず次のティアである卸売業者に販売しなければなりません。
卸売業者がいて
Tier 2: 卸売業者(Wholesaler)/ディストリビューター(Distributor)
生産者や輸入者から酒類を購入し、それを小売業者に販売する中間業者です。各州でライセンスを取得する必要があり、州をまたいでの直接販売はできません(販売したい州のディストリビューターと契約する必要があります)。このティアは、州政府が税金を徴収し、流通を管理するための主要なポイントとなります。
小売業者がいる
Tier 3: 小売業者(Retailer)
卸売業者から酒類を購入し、最終的に消費者に販売する業者です。酒販店、スーパーマーケット、レストラン、飲み屋などがこれに該当します。
各ティアは独立、が原則
原則として、各ティアは独立した法人でなければならず、ティア間で資本的な結合や支配関係を持つことは禁じられています。ただし、州によって例外や規制の程度の差はあります。
メリット・デメリットあるよね
このシステムのメリットとしては、各州政府にとっては税金の徴収をしやすくなる、ワイナリーにしてみると販売のコストが抑えられる、とかいったメリットがあります。しかし、一方で、中間マージンがそれぞれのティアごとに発生するため最終的な小売価格が上昇しやすくなるとか、生産者がマーケティングしようとしても、間に卸売業者を通さなければいけないので独自のことがやりにくくなる(特に小規模な生産者だと卸売業者の全体の扱い量に比べて少ないので埋もれてしまう)、とかいったデメリットもあります。
非効率な部分もあり、例外もたくさんあるので深入りはしませんが…
そして、なんといっても州ごとにライセンスの制度が異なるので流通が非効率になったり、場合によっては消費者の選択の余地が狭まったりすることにもなります。さらにいろんな例外措置があるとかもあるので、ここ詳しくやると本を一冊書くことになりそうなので止めますが、めんどくさいシステムで、しかもここから完全に逃れて販売を拡大することはできない、ということだけご理解ください。
全米2位の卸売業者がカリフォルニアから撤退を発表
今回の本題に進みます。6月3日に、アメリカで2番目に大きな酒類卸売業者であるRNDC(Republic National Distributing Company)が9月以降カリフォルニア州でのビジネスから撤退するという発表をしました。事業売却じゃなくて、撤退です。3ティアシステムで言えばTier2にあたる、全米での取扱いシェアが2割弱の大手の卸売業者です。結構なインパクトがあるはずです。
いろんな背景が指摘されてますが、「撤退」です
背景としては、①経営コストが上昇した、②カリフォルニア州のサプライヤー(生産者)との契約が打ち切られた、③全国的なワイン販売量の落ち込み、④カリフォルニア州の規制緩和でビール卸売業者がスピリッツを取り扱えるようになり、競争が激化している、などが指摘されています。③は、コングロマリットのワインポートフォリオの組み替えとも関連しますね。
多くのワイナリーが販路を失います
撤退の影響は様々に広がりそうです。まず、カリフォルニアの多くのワイナリーが販路を失います。詳細は明らかではないのですが、RNDCはカリフォルニア州で数千件のワイナリーをサプライヤーとして契約しているとされています。カリフォルニア州の法律では、ワイナリーが製品を小売店やレストランに販売するためには卸売業者を経由する必要があるため、これらのワイナリーは新たな流通パートナーを見つける必要に迫られます。特に中小規模のワイナリーにとっては、新たな大手ディストリビューターとの契約は簡単じゃないでしょうね。
新たな販路ができるまで、世界のワインの1.5%くらいが路頭に迷う?
そして、その新しい契約ができるまでの間はワインを含むアルコール類の流通に混乱が生じることが予想されます。カリフォルニアは、全米一のワイン生産地で、生産量はアメリカ全体の8割強、他の国と比較しても第4位(イタリア、フランス、スペインに次ぐ)です。OIVの統計によると、2024年のアメリカのワイン生産量は世界の9.4%ですから、カリフォルニアだけで世界の7.5%、RNDCのカリフォルニア州内のシェアはわかりませんが、全米並みの2割弱としたって、世界のワイン生産量の1.5%くらいが路頭に迷う計算になります。
卸売業者の寡占化も進むなど流通に変化が出る
次に、カリフォルニア州内での卸売業者の寡占化が進むことになるでしょう。その結果、生産量の少ないブランド力の弱い中小ワイナリーはさらに販路を見つけにくくなり、淘汰されてしまうかもしれません。一方、生産量の大きな大手企業(たとえばTreasury Wine Estates)はアメリカの他の州でRNDCを卸売業者として使っている場合、カリフォルニアからの出荷が滞るようであれば、流通を円滑にするために他の卸売業者との提携を進めたりするかもしれません。
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