ボルドーのアン・プリムールって、サステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第三十九回)「先物買いの銭失い」になりたくないよね、普通
前回は「ビジネスと人権」を前向きにとらえましょうというお話
前回は、「ビジネスと人権」について、そもそも論からお話をして、後ろ向きなボックスティッキングじゃなくて前向きな人的資本経営につなげようよ、というお話をさせていただきました。とかく、人権リスクとか人権尊重の課題とか言うと、「とりあえずこれだけやっとけば怒られない」ガイドラインを求めて、それを充足して終わろうという動きが出やすいですが、本来はそうじゃなくて、働く人々の能力を最大限発揮してもらうにはどうするか、を考えていく必要があると思ってるだけなんですけどね。
今回は少し重い話題。ワイン片手に悪酔いしないように
さて、二回ほどワイン片手の話をしなかったので、今回はワイン片手(両手?)のおはなしをしようと思います。これまでお話してきたことを少し考え直さないといけないかも、などと薄々思わされるお話になりそうです。悪酔いしないと良いのですが。
ボルドーのアン・プリムールのお話です
ワインの流通にかかわってる方とか、プレミアムワインのコレクターも含めてワインに投資することをお考えの方にはなじみがあるお話ですが、ボルドーでは毎年「アン・プリムール」という取引が行われます。アン・プリムールは、瓶詰めされる前にワインが先行販売される仕組みです。ボルドーの有名なシャトーでは、収穫から約6~8か月後の春に瓶詰前のワインを試飲会で披露し、専門家やバイヤーが評価を行います。その後、ワインは瓶詰め・出荷の前に販売され、購入者は数年後に瓶詰めされたワインを受け取ることになります。
「先物買い」にメリットを感じる仕組み
ある種の先物買いということですが、そのワインが欲しい購入者は(クオリティはともかく)確実に買える、ということになります。また、売り手であるシャトーは実際にモノを出荷する前にそのワインを売った後のキャッシュフローを入手することができて、次の年のブドウ栽培やワイナリーの設備投資などに資金を回すことができます。この仕組みは、主にプレミアムワインに関して行われ、ボルドーだけではなく、ブルゴーニュやローヌ、バローロなどでも一部行われるようになっているらしいです。
2024年産ワインのアン・プリムールが行われました
今年は4月から5月にかけて、2024年産ワインについてのボルドーのアン・プリムールが行われました。
一般向けの販売では「大変お求めやすい価格」ですって。なぜ?
で、業者さんのメルマガなどが送られてまいりました。
「ボルドー・プリムール2024販売開始!! 2024年ヴィンテージは例年と比較して大変お買い求めやすい価格で、人気銘柄は早期完売の可能性がございます。 この機会をお見逃しのないよう、ご利用ください。」
ほうほう、今年は安くなったんだ。では一つ乗ってみるかな、などとお考えのあなた、なぜ安くなったかお分かりですか?
今年のアン・プリムール価格は昨年比大幅下落
確かに、今年のアン・プリムールでは、トップシャトーはワインの価格を下げました。例えば、ボルドーの五大シャトーの一つ、ラフィット・ロスチャイルドは昨年から31%価格を下げて、2014年以来の低水準としました。それでも、それを引き受けたネゴシアン(仲介業者)は販売に苦戦しているとFinancial Timesへの寄稿でJancis Robinsonが書いています。またそれ以外のシャトーでも販売価格の引き下げを強いられていると伝えられています。(FTを講読してないと読めないかもしれません)
いろんな要因が絡み合っているみたいです
背景には、供給と投資資金を含む需要と取引システムなどが絡み合っているようです。
供給面で2024年は「良年」とは言えない品質のようです
まず供給ですが、まずは量というよりは質の問題です。2024年のボルドーは雨が多く、気温が十分に上がらなかったなど、厳しい栽培環境でした。栽培・醸造の品質管理のレベルは上がっていますから、ワインは決して悪い出来ではないとのことですが、2022年などと比べると「良年」とは言えない年のようです。だとすると高品質だった前のヴィンテージのような高値で売ろうとしたって売れるわけがありません。2024年の生産量は低下していますので需給バランスで言えば価格は上がっても良いのですが、品質の問題で価格は上げられません。
需要面では、これまで指摘してきた通りです
次に需要ですが、これまでもわこさんNoteでいろいろお話している通り、グローバルに赤ワインに対する需要は構造的に落ちてきています。ボルドーでも、普及価格帯のワイン生産者がブドウの樹を引っこ抜かなきゃいけない、とかいうお話が出ています。
高格付けなら大丈夫、という考えを変えなきゃいけない?
この話、高格付けシャトーのワインにはあまり関係ないのかな、と思っていたのですが、バックヴィンテージ(最新のものではない、その前の生産年)のワインの在庫がネゴシアンに積みあがっていること、ワインコレクターがある程度コレクションを完成しているとみられることなどを背景にして、5大シャトーの過去10年分のヴィンテージで構成されるワインの価格指数が、新型コロナ収束後の経済再開に伴って上昇してピークを付けた後、この2年間で27%も下落しているということです(著作権の関係が怖いので新聞記事のキャプチャとかはしません)。
中国からの需要の急増と急落の影響もあるんです、習主席。
追加の要因として、これも何度かお話していますが中国要因もあります。中国の経済成長に伴って、中国人の生活水準も上がり、彼らにとっておめでたい色とされる「赤」ワインへの需要が爆上がりしました。それがお役人様への袖の下に使われるということもあって、さらにプレミアムワインへの需要が高まることになりました。
先に挙げたワインの価格指数と新興国経済の成長がリンクしているという見方もあったりして原油価格とワイン価格がキレイに連動していたこともあります。脱線ですが、昔々その話を持ち出してきたのは、IMF(国際通貨基金)様です。懐かしくて検索しちゃいました。A Barrel of Oil or a Bottle of Wine: How Do Global Growth Dynamics Affect Commodity Prices?; by Serhan Cevik and Tahsin Saadi Sedik; IMF Working Paper 11/1; January 1, 2011
で、このところ中国経済がもたついているのと、それと表裏一体かもしれない習近平政権の腐敗撲滅政策によってプレミアムワイン需要は低下しているということでしょう。その動きがこの後お話する価格低下トレンドやワイン投資の委縮と関連している面は大いにあります。
ワイン投資をするときの考え方は残存価値上昇への投資
コレクターとともにプレミアムワインの買い手としてワイン投資をする投資家さんという方々もいらっしゃいます。ワインは、ある年に生産された本数は、そこから年数がたつにつれて残存本数は減少します。我慢できなくて飲んじゃう人がいますから。
で、世界で生産されているワインの9割以上(95%という人もいます)は、瓶熟成には向いていない、すぐ飲んだ方がフレッシュで美味しいワインと言われています。瓶熟成に耐えられる残りの5%が時間とともに残存本数が減少して価値が上がっていくのでそこで利益を上げましょう、というのが基本的なワイン投資の考え方です。
「順張り」には乗れない現状
で、投資しようとするんですが、2年で価格が(あくまでも合成指数ですが)27%下がっているということは、2年前に買った投資家さんは理屈でいえば損失を被っている、ってことですよね。相場は下げ止まったのか?買いか?といえば、2024年の質が良くなくて値段が上がらない(むしろ下がっている)中では積極的に買いに向かう人は少数派でしょう。人間の心理としては、投資で言う「順張り」つまり流れに乗っていく方が乗りやすいですよね。
「先物買いの銭失い」状況で、今ボトル現物を買う方がお得
さらに言えば、この数年のヴィンテージでは、アン・プリムールで買った値段よりも実際にボトルとして売られている値段の方が安かったりするケースもあるそうです。2年前にアン・プリムールで買った人も「先物買いの銭失い」になっていて、早くてこれから一年半後にお届けとなる、評判が今一つの現行のアン・プリムールを買うよりも、評判の良い前のヴィンテージをボトルで買った方がすぐに美味しく飲めます。こんな状況では、価格を相当下げないとアン・プリムールは売れないでしょうね。
長期の価格上昇期待はクオリティが低下した場合どうなる?
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