EUの修正ワイン産業政策ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~
(第三十一回)前門のトランプ後門の供給過剰
エシカル消費プロモーションのチャンスだと思ったんですが
前回は、卵の価格上昇をきっかけに、エシカル消費のプロモーションができるのでは?というお話をしました。価格要因以外のストーリーを含む商品価値の問題に目を向けるチャンスだとは思うのですが、まだ価格の問題が大きすぎるんですかね。まだまだ啓蒙も含めた努力が足りないんでしょうか。
「相互関税」が「理屈」で決まったわけではなさそう
今回は、トランプ大統領がよくわからない「相互関税」などというものを導入したのですが、はっきりしているのは、関税率が貿易不均衡を是正するための「理屈」で決まったわけじゃなさそうだ、ということでしょう。ワインについては、EUからのアルコール製品に200%の関税をかけてやると脅している一方、全体としてはEUからアメリカへの輸出品には20%の関税がかけられると発表されました。さしあたりアメリカ国内に入るEU産ワインの価格は20%上がることになります。
対EU追加関税でワインへの影響は二極化
これまでも何度となく議論しているように、おそらくプレミアム価格帯の高級ワインの需要は落ちず、普及価格帯の供給過剰が強まる、ということになるんじゃないかと思ってます。そのあたりのお話もしながら、今回は世界最大のワイン生産地域、EU様がワイン産業政策の枠組みを変更した、というトピックをご紹介したいと思います。
欧州委員会がワイン産業政策の改定を発表
3月28日に、欧州委員会がワイン産業政策の枠組みの変更を発表しました。個別の議論についてはポロポロ出てはいましたが、改めて供給過剰問題を含めた、EUのワイン産業政策の今後についての考え方がまとまっているかと思います。まあ、問題は政策が上手く前に進んで、効果のあるものになるのか、ってことですが。
EUの発表資料によると、ワイン政策の枠組みの主な変更点は:
① 供給過剰の防止:加盟国は、グラビングアップ(不要なブドウや余分なブドウの木を取り除く)やグリーンハーベスト(収穫前に未熟なブドウを取り除く)などの行動を取る権限を与えられます。これにより、過剰生産を防ぎ、市場を安定させ、生産者を財政的負担から保護することができます。
② 植え付けの柔軟性:生産者は、植え替え許可制度について追加の柔軟性が認められます。これは、彼らが現在変化する状況で投資決定を下すのに役立ちます。また、加盟国は、自国の国や地域のニーズに合わせて植栽許可をより適切に調整することも許可されます。
③ 気候変動への支援:ワイン生産者は、気候変動に対するレジリエンスを高めるために、より強力な支援を受けることになります。加盟国は、気候変動の緩和と適応を目的とした投資に対する適格投資費用の最大80%まで、EUの財政支援を最大限増額することができます。
④ NoLoワインの明確なマーケティングルールの確立:革新的な製品のマーケティングは、単一市場全体での低アルコールワイン製品の明確なルールと共通の製品名称により、より容易になります。
⑤ ラベリングについての調和:ワインに関わる従事者は、ワインのラベリングに対するより調和のとれたアプローチの恩恵を受け、コストを削減し、EUの国境を越えた取引を簡素化すると同時に、消費者が情報に簡単にアクセスできるようにします。
⑥ ワインツーリズムの促進:地理的表示の下で保護されているワインを管理する生産者グループは、ワイン関連の観光を開発するための支援を受け、農村地域の経済発展を促進するのに貢献します。
⑦ プロモーション期間の延長:EUが資金提供する第三国でのプロモーションキャンペーンの期間は、ヨーロッパワインのより良いプロモーションのために3年から5年に延長されます。
改めて、EUって農業国の集まりですね
グーグル翻訳に手伝ってもらっているので、多少変なところがありますが、これ見ると、改めてEUって農業国の集まりなんだな、って思いますよね。日本みたいに財務省主導の制度だったら、減反政策みたいな話が最初に出てくるなんて無いですよね。
これまでに扱ったトピックもいくつか
それはさておき、わこさんNoteの愛読者の皆様には、トピックとして扱ったものが結構あるな、と思っていただけるんじゃないでしょうか。まあ、ワイン産業を取り巻く話題を探して書いているので当たり前と言えば当たり前です。NoLoワインの話とか、ラベリング規制についての話とか。
いろんな需要掘り起こしも狙う措置も
これ以外にも、フレーバーワインについての規制を緩和しよう(たとえば、グリューワインに「ロゼ」のカテゴリーを作るとか)といった、新しい需要を掘り起こせないか、といった話も含まれていたりします。
権限委譲で供給過剰問題への対処のスピードアップを狙っている
ただ、その中でも供給過剰問題への対処が業界としては一番重要なんでしょうね。多分、ブリュッセル(EU本部があります。霞が関みたいなもんです)が、あーでもないこーでもない言って、それをトップダウンで各国に下ろして、そこから各地の生産者と交渉する、なんて時間をかけていられないほど問題が深刻だと(やっと)認めたってことです。それぞれの国に生産調整の権限を下ろしたってのはそういうことでしょう。
生産調整が進みやすくなるか?そうは問屋が卸さないのでは
これでボルドーとかラングドックとかの普及価格帯大量生産ワインの生産調整が進みやすくなるかも、とちょっとは期待できるでしょうか?そうは問屋が卸さない、という気はします。例えば財政負担について、文書を読む限りはCAP(共通農業政策)の枠組みの中としか書いてないみたいなのですが、例えばフランスで減反して、ブドウ農家に補償金支払うとして、そのカネはEUが出すんでしょうか?フランス政府が出すんでしょうか?それでフランスの財政赤字が拡大したとき、それは誰の責任になるんでしょうか?よくわかりません。
やっぱりアメリカ市場がどうなるかが大きいでしょう
それから、普及価格帯のワインを買ってくれる上客のアメリカ市場がどうなるんでしょう?EUからアメリカに輸出されるワインには上乗せ関税かかります。公式に発表されたものは20%の追加関税ですが、3月には200%などという脅しもしています。どっちにしても、小売り価格は上がりますよね。
欧州産ワインへの関税の影響は二極化しそう
ブランド価値が高くて値段の高いブルゴーニュとか、ボルドーの格付けワインは小売り価格が2割位上がったって、アメリカでブランド品を欲しい人がいますから需要はそんなに落ちないでしょう。一方で普及価格帯のワインの値段の上がり方の印象はよろしくないでしょうね。アメリカの消費者がそうしたEUのワインに手を出さなくなるとすると、最悪供給調整しても逃げ水のように需要も落ちるかもしれません。
アメリカでのワイン消費量は国内生産量では全然足りない
ちょっと脱線して、アメリカの立場でアルコール消費を考えてみます。2023年の数字(OIV統計)では、アメリカのワイン生産量は24.3百万ヘクトリットル(mhL)で、消費量は33.3mhLでした。なので、アメリカ人は海外からワイン買わないと需要は満たされません。EUのワインに関税かけたら米国内のワイン産業が潤う、なんてことを口走る大統領がいますが、量的には生産量の1.5倍くらい供給しないとマーケットニーズには全然足らないわけです。
量だけではなく価格帯とクオリティのアンバランスが問題
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