ワインメーカーの「緩和と適応」ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点
(第十三回)マーケティングツールにもなる脱炭素への取り組み
ワインメーカーの環境対応の前に先週の書き残し
前回は、地球規模の脱炭素祭りのお話をしました。国の動きでいうと、最終的には最大の温暖化ガス排出国である中国に地球市民としての矜持と責任感があるのか、ということになっちゃいます。が、一方で中国の立場に立ってみると、これをチャンスに再エネ導入を加速して脱炭素社会の覇権を握ろうとしているという見方もできなくはないです。関連企業にドンドン業容拡大させて、先進国の太陽光パネルメーカーをグイグイ駆逐して、風力発電企業の業績もギリギリ圧迫して、国内で水素電解槽をバンバン計画してマーケットシェアを取ってます。
今年の脱炭素祭り(COP29)ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~|わこさん
中国は脱炭素社会をサステナブルにできるかな?
ただ、その結果として国内では歪みが蓄積して不良債権になったりしているみたい(情報開示がちゃんとしてないので何とも言えません)ですから、最後は財政赤字になるんでしょうけど。それに耐えられれば中国が脱炭素時代のリーダーになれるかもしれません。日本以上にハコを作る力はあっても、オペレーションや波及して起きる悪影響への対処がお上手ではなさそうなので、それがサステナブルになりますか?とは思いますが。
ワインメーカーの「緩和と適応」のお話に
その話はともかく、今回は、ワインメーカーの脱炭素に関した「緩和と適応」のお話をしてみましょう。「緩和」は気候変動(地球温暖化)を緩和するための温暖化ガス排出削減などの取り組み、「適応」は気候変動の影響をどのようにワインづくりに反映させるか、ということと整理できます。
またIWCAを引っ張り出します
このNoteの二回目で、IWCA(International Wineries for Climate Action)という国際的なワインメーカーのイニシアチブ(取り組み)をご紹介しました。加盟しているワインメーカーの生産量は世界の2%くらいに相当するとのことです。この団体が発表した加盟ワインメーカーの温暖化ガス削減の取り組みを紹介したレポートによると、ワインの生産から販売までの温暖化ガス排出量を計測した時に、ワインメーカーが直接コントロールできる排出量(専門的にはScope1です。なじみのない方、すみません)が15%、外部から購入した電力など間接的な排出量(Scope2)が6%、瓶買ってボトル詰めしたりするのも含めてワインメーカーから小売店など流通まで(Scope3)が79%となるそうです。
International Wineries for Climate Action (IWCA)
ワインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん
加盟社が2050年カーボンニュートラルを目指します
このIWCAのレポートでは、加盟各社が温暖化ガスをはじめとして様々な環境対応をしていることが紹介されています。排出量をこのくらい減らした、とかワイナリー内での再エネ比率をこのくらい上げた、とかいったことはもとより、水の使用量を減らしたといった点も挙げられています。目標としては、2050年までに加盟ワインメーカーがカーボンニュートラル(ネットゼロ)を達成すること、ということになっています。

環境に配慮することは「緩和」か?「適応」か?
素直な人は、これで拍手して、このワインメーカーが作るワインは環境に配慮して地球温暖化の「緩和」に参画しているような素敵なワインなんだ、応援しよう。ということになるわけです。ところがワイン片手のわこさんは、素直ではないのでここに「適応」を見に行きます。
環境配慮はマーケティングでは
いま、地球の温暖化に配慮することは、当たり前になってきています。環境配慮しないと爪はじきになったりします。とすると、環境配慮をしてます、ということがある種の宣伝になりうるわけです。つまりマーケティングの一環ですね。温暖化で企業の競争環境が変化しているので、それに合わせてワインメーカーが経営を変えているわけです。
水削減でいえば、半導体も
もちろん、電力や水の使用量を減らす努力をしていなければ、ワインメーカーでなくても投資家に詰められる時代です。脱線します。水を大量に使う産業はいろいろあります。台湾のTSMCがなぜ熊本に来たか、というのは水が大きな要素でした。半導体は製造工程で「超純水」による洗浄など必要なため水へのアクセスが重要です。表面上の使用量だけ見て環境に敏感な方々の一部が騒いだりしましたが、開示データによれが90%はリサイクルされているので水資源への実質的な影響はおさえられているということになっています。
発電にも水が大量に必要
火力発電所や原子力発電所も似た理由で、復水器用の冷却水としてすごい量の水(海水でも可)を使うため、海の近くの立地が(燃料輸送だけではなく)都合がよかったりします。もう一段脱線すると、原発大国フランスでは、水へのアクセスという点でジロンド川とかローヌ川の沿岸に原発が設置されていたりするんですが、ボルドーワインにガイガーカウンターくっつけてガアガア言わせる人は寡聞にして存じません。ついでに、夏が暑すぎて川の水量が下がったので原発の稼働を落とさざるを得なかった、とか別途改めて書きたい話もあります。
ワインメーカーにとって、環境配慮は「緩和」でも「適応」でもある
ワインメーカーの環境配慮に戻ります。ワインの栽培・醸造・流通過程で温暖化ガスを削減しても、それが地球の温暖化抑制に有意な影響を及ぼすか、というのはよくわかりません。ただし、農薬などを可能な限り使わなければ土壌の悪化は避けられるでしょう。そして健康なブドウの樹からとれたワインを作り続けることができるでしょう。こうした考え方から、自分たちの経営環境をサステナブルにするために環境配慮に取り組む必然性はあります。同時に、それは自分たちのアピールポイントにもなるわけです。見えてきました。温暖化「緩和」の努力が、時代の変化、ニーズの変化に合わせた「適応」にもなっている、ということですね。
「適応」は栽培段階でいろいろ
もちろん、温暖化に対しての「適応」も様々な形で行われています。ブドウの栽培に関して言えば、温暖化前と比べると平均気温が上がるわけですから、冷涼地域に適していると考えられているピノ・ノワールとかは過熟になりやすくなったりします。糖度が上がってアルコール度数が上がると、ピノ・ノワールなどはジャムっぽい味わいが出てきて、フルーツのフレッシュな風味が隠されてしまう、といったリスクが高まります。それに対して、ブドウの糖度が上がりきる前に早めに摘んでしまうといった対応がとられることもありますが、逆に未熟だと茎の青臭さが出てしまうかも…ということで別の難しさが出てくるようです。
品種も変わってきます
あとは栽培する品種を工夫しましょう、などということも起きます。ボルドーで(ブレンド比率は制限されていますが)新品種が認められたりしていますが、これは温暖化やそれに伴う気候変動(雨が多くなったり、ってことです)による病害に強いから、という理由もあるようです。ボルドーの新品種に入った白ブドウのアルバリーニョなどは、もともとスペインやポルトガルの大西洋岸、湿気の多いところで栽培されるブドウで、果皮が厚いため病害に強いとされています。
「ストーリー」になりやすいワインの「緩和と適応」
ワインにとってこうした「緩和と適応」努力がプラスになりうるのは、これが「ストーリー」になりやすい、という面があるからではないかと思います。ワインの勉強をしていく中で、私が痛感したのは、ワイン造りは多数の意思決定の塊なんだな、という点です。ブドウ畑のロケーション、栽培品種、仕立て方、農薬使用の有無や量、収穫のタイミング、収穫の方法、醸造や熟成についての温度や期間などの様々な判断、ブレンド、瓶詰などなど枚挙に暇がありません。年ごとにそうした判断を繰り返しながらワインを作っている作り手の方々には本当に頭が下がります。頭の中に中島みゆきの「地上の星」がフェードインしてきませんか。
ワイン作りは「プロジェクトX」
こういうストーリーは、そのままマーケティングに使えそうです。いろんなワインメーカーのウェブサイトとか見ると、作り手のこだわりとか、家族経営からスタートしたところなどはファミリーヒストリーとかも書いてあるわけです。読んでるだけで気分が良くなることもあります。美しいマーケティングですよね。そこに温暖化緩和への貢献をしながら温暖化に適応して良いワインを作り続けます!!って、決意表明が乗るんですね。
マーケティングコストをかけてワイン作りをサステナブルに
マーケティングになっている、ということは、多少コストがかかっても「緩和と適応」を続ける理由がある、つまりサステナブルにできるってことではないでしょうか。コストがかかるだけで製品やサービスの付加価値が上がらないのであれば、民間企業として積極的に取り組む理由はありません。補助金もらったって、それで売り上げが上がらなければ企業としては成長がないので、サステナブルにはなりにくいです。(政府は別ですよ、念のため)
みんながカーボンニュートラル達成したら?
もう一段ひねくれてみます。で、全てのワインメーカーが温暖化ガス排出削減に取り組み、環境配慮をしてサステナブルな形でワイン作りができたら?ワイン業界としてカーボンニュートラル達成できたら?もちろん、それ自体は素晴らしいことです。ただ、同時に環境配慮することが付加価値にならなくなってきます。かといって、その時に環境配慮から抜けるわけにもいかないでしょう、きっと。
違いがなくなると付加価値がなくなる
資本主義って、ものすごーく冷めた言い方をすると、「違いに値段をつける」ことだと思ってます。人にできない(人がやりたくない)何かをするから高いお給料がもらえるわけで、誰でもできることをやっていてはそれなりのお給料しかもらえません。だとしたら、みんなが環境配慮したワインづくりをしたら、その面での超過利潤はもらえなくなって、ワイン作りがサステナブルじゃなくなっちゃうかもしれません。
別のブランディングが必要に
そうなったら、環境配慮は大前提とした、それ以外の推しポイントを持ち上げていくブランディングなどをして、付加価値を上げていく努力を続けていく、ってことですね。ただ、世の中はまだそこまで行ってませんから、今回のタイトル画像のようなワインショップしかなくなる、なんてことはないんでしょうね。
デタラメタイトル画像について
ちなみに、今回はCopilotに、「すべてのワインがエコフレンドリーでカーボンニュートラルに貢献してますっていうワインショップの看板の画像を作って」と英語でお願いしたら、なんとなくそれっぽい絵を一部デタラメ英語で出してくれました。この一部デタラメ、ってのもすごいですね。
この、環境などへの取り組みをマーケティングに使う、というのは企業の取り組みをサステナブルにするために重要なので、いろんな形でお話ししたいと思ってます。ただ、来週はちょいと野暮用のためお休みするかもしれません。

