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ネイチャー・ポジティブってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第八十回)人間の経済活動と自然環境保全は足し引きできる?

前回は「プライベート・クレジット」についての不透明感のお話

前回は、中東情勢などで長期金利が上昇しようとする中で、金融市場のリスクとして取り上げられている「プライベート・クレジット(PC)」について、現時点での整理をしてみました。2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)のように金融システムが瞬間的な機能不全になる可能性は小さいですが、スタグフレーションで金利が上がる中、市場価格の見えない借り手の状況が悪化して、それがモニタリングできないことがいろいろな意味で不信感を増幅することが怖いな、ということではあります。

サステナビリティ関連の情報開示拡充が期待されています

日本では3月期決算企業の業績発表が4月下旬以降に本格化します。サステナビリティ関連の情報開示が一段と充実することが期待されるわけですが、そうした中で自然環境や生物多様性との関わりについても開示が拡大していくことになっています。

これまでは気候変動関連の影響

これまではTCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures :気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいて、気候変動がそれぞれの企業の経営環境にとってどのような影響を与えるか、リスクや機会として企業の経営戦略と紐づけて開示することが定着してきました。まあ、経営戦略と本当に結びついているか疑問を感じる事例も多数ありますが、言葉としては定着してきたと言えるでしょう。

今後は自然環境との関わりについての開示が広がります

今後はこれに加えてTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)に基づいて、企業が自身の経済活動による自然環境や生物多様性との相互依存関係への影響を評価し、情報開示することが広がります。つまり、企業が「自然からどのような恩恵を受け(依存)、どれほど悪影響を与えているか(インパクト)」を評価し、投資家に開示する、ということです。

2026年は開示本格化開始

これまでも先行して開示を行う企業が増えてきていますが、簡単に言うと、2025年まではお試し期間、2026年に発表されるレポートからは開示が本格化していき、2027年からはサプライチェーン全体についても(温室効果ガス排出に関してのScope3のような)開示を拡充していくという時間軸です。

この概念は、SSBJと言われるサステナビリティ情報開示基準にも取り込まれていて、社会的責任を考慮して投資を行う機関投資家が、上場会社と対話し、投資判断を行う際の参考にすることが見込まれるため、情報開示自体は拡がる方向です。2027年3月期以降、時価総額3兆円以上の上場企業についてSSBJに依拠した開示が義務化され、徐々に対象企業が増えていきます。

日本企業のTNFD開示は世界に先行

実は、TNFDの開示に関しては、日本企業は世界に先行しています。お試し期間ですから、Adopters(早期採用企業)という言い方になりますが、昨年のCOP30前の集計で、世界全体の約730社に対して、日本企業は約200社と3割近くになります。2位の英国が約60社とのことです。なぜこんなに多いの?ということについては諸説ありますが、全体としての環境保護意識が高いというよりは、「横並び意識」、「お上のガイドラインへの形式的な早期対応」といった要因が強いという話もあります。

2030年にはネイチャー・ポジティブ実現!!が国際的な目標

そうした流れの中で、国際的には「2030年までにネイチャー・ポジティブ(NP)を実現する!」ことが野心的な目標として掲げられています。NPとは、「自然をこれ以上減らさない」だけでなく、「プラス(再興)」に転じさせる、ということです。これが今回のメイン・テーマです。

人間の経済活動で自然への介入は不可避

そもそも、我々が経済活動を行う過程では自然への「介入」は避けられません。沼地を乾燥させて農地とし、荒野を均して道を拓いてきました。その意味では、経済活動は自然を人間にとって「都合の良い形へ改良」し続ける営みに他ならなりませんよね。

ワイン用のブドウ畑は自然のままじゃありません

例えば、わこさんを形作るワイン。その原料となるブドウを栽培するブドウ畑は自然のままではありません。荒地を掘り起こし、必要なら土壌改良し、水はけを改善するための排水パイプが埋め込まれています。人間にとって「良質なブドウ」が育つ土地に改造しているわけです。

人間にとってのテロワール表現は自然にとっては大きなお世話?

これって、人間が考えるその土地の個性、即ちテロワールを表現するために行った行為ではあるのですが、実はその場所の自然にとっては大きなお世話かもしれません。だって、その過程でもともと生えていた植物は引っこ抜かれてその周りにいた生物とかも排除されたわけですから。

でも、そうしないと美味しいワインはできませんし、我々のワイン文化も育ちません。同様に、企業が競争力を高めるためにはこうやって環境に介入してコントロールすることが、善悪は抜きにして必要なんですよね。

日本企業の素敵な事例もあります

大事なのは、もちろん実質的な取り組みです。そうした取り組みが進んでいる日本企業の好事例もあります。3社ほど上げてみましょう。

① サントリー:水源涵養(水のリスク管理)

サントリーが掲げる「水と生きる」という理念は、単なるスローガンではありません。同社は「天然水の森」と題し、全国22箇所・約12,000ヘクタールもの森林を、水質保全のために自社で管理しています。この活動の核心は「ウォーター・ポジティブ」です。工場で汲み上げる量以上の水を森に還すことを目指し、科学的な調査に基づいた植樹や間伐を実施しています。飲料メーカーにとって、水源の質と量は原材料そのもの。つまり、この活動は、自然保護という名の「長期的なインフラ投資」なのです。自然環境の健全性がそのまま製品の品質と供給の安定性に直結しているため、環境への取り組みが経営戦略のど真ん中に組み込まれています。

② キリンホールディングス:再生型農業(調達のリスク管理)

キリンの環境戦略は、麦やホップといった「農業原材料の調達」に深く根ざしています。同社は「キリングループ環境ビジョン2050」を掲げ、単なる資源の節約に留まらず、生物多様性に配慮した「再生型農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー)」の推進を強調しています。具体的には、サプライヤーと協働し、土壌の健康を回復させながら農産物を生産する技術を普及させる取り組みです。彼らにとって、気候変動で農作物の収穫が不安定になることは、即座に死活問題となります。環境を「守る」だけでなく、自然の再生能力を高めることで持続可能な調達網を構築する。この攻めの姿勢こそ、同社がTNFD開示で先行し得る論理的な基盤となっています。

③ 王子ホールディングス:森林経営(資産としての自然)

王子HDの強みは、自社で国内外に約60万ヘクタールという広大な森林を保有・管理している点にあります。同社にとって森は、木材を切り出すための工場であると同時に、CO2を吸収し、水資源を蓄え、多様な生物を育む「経営資産」です。同社は、FSC認証などの持続可能な森林管理基準を徹底し、木材を生産する一方で、森を極めて高いレベルで維持・再生しています。森が枯れれば、彼らのビジネスも終わる。この極めてシンプルな因果関係に基づき、自然資本の保全が「企業の永続性」と完全に同義となっている点が特筆すべき特徴です。彼らのNPは、環境への善意というよりは、巨大な森林資産をいかに未来へ引き継ぐかという、究極の長期資産運用なのです。

多くの企業にとってこんなに美しいNPはない

これらの企業にとって、NPとは「経営環境そのもの」を整える極めて合理的な戦略と言えます。でも、こうした企業って、もしかしたら例外かもしれません。多くの企業にとって、「ネット(純量)でプラス」はこんなに美しい図式にはなりませんよね。

計算上「プラス」なもので実質的にNPとなるんでしょうか?

簡単に言うと、ルール上、ある土地の生態系を損なっても、別の場所に木を植え、生物多様性の「スコア」を稼げば計算上はプラスになることになっています。生成AI対応の巨大データセンターを建設する代わりに植林するとか、それによって凄く環境配慮しているというアピールはできます。でも、ある場所で起きた生態系などの変化が広がっていったときにどこまでその影響を考えるべきなんでしょう。

きびなごの漁獲量減少は各企業の環境配慮の結果

最近、瀬戸内海の春の風物詩、きびなごの漁獲量が減少していることをご存じの方は多いでしょう。その原因とされているのが、各河川の水質が改善して、結果的に瀬戸内海が貧栄養化していることです。これってNPですか?各企業にしてみると、環境配慮したわけです。もしかすると上流で植林したり、工場内にビオトープとか作ったりして、生態系維持にも貢献したりしています。でも、遠くで日本の食文化が…。

NPがサステナブルになるための考え方は…

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