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プライベート・クレジットってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第七十九回)市場のフレキシブルな価格発見機能を活用しないと不信感が

前回は、中東情勢を受けて世界の物流が影響を受けている中、欧州産ワインの輸送混乱を契機に、「リスク管理」の観点で輸送路が相対的に安定している南半球のワイン産地に目を向けませんか、というお話をしました。ワインのマーケティングに重要な、欧州ルーツの「ストーリー」と環境配慮の「グリーン認証」を兼ね備えた、価格帯がミドルレンジの素晴らしいワインがいろいろあるわけです。

金利が上がっちゃうかもしれないことの追加的な影響

さて、中東情勢、まだまだどうなるかわかりませんが、化石燃料のサプライチェーン(モノの流れ)は簡単には戻らないでしょう。ということは、インフレが高止まりしやすいわけですから金利も思ったほど下がらない、ないし上がるかもしれないわけです。金利については、わこさんも何度か「上がっちゃうかもしれない」ということを書いてきましたが、今回は「じゃない方」のわこさんからの、それに追加するべきお話です。

今回は「プライベート・クレジット」のお話です

2026年、金融市場の話題(リスク?)として、アメリカでの「プライベート・クレジット(PC)」が取り上げられるようになっています。このPCという言葉が、不穏な響きを持って語られ始めたのは、2025年秋、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン会長が放った痛烈な一言がきっかけでした。「ゴキブリを一匹見つけたとしたら、それは裏側に100匹潜んでいるということだ」。

ゴキブリが出てきたことは世界金融危機再来の予兆?

この発言の背景には、当時、PCファンドに投融資を受けていた米国の自動車部品メーカーが突如破綻し、調べてみたら不適切なファクタリング(売掛債権の売却)や循環取引の疑いが隠されていたという、PCファンド側の査定(ないしモニタリング)の甘さが露呈した事件がありました。

一見クリーンに見えるポートフォリオの裏側に、どれほどの不透明な損失可能性が積み上がっているのか。これからゴキブリが増えるとすると、どれだけ投資家が損失を被ることになるのか、そして、甘い査定という共通項から2008年の世界金融危機(いわゆるリーマン・ショック)再来のような連想ゲームを行う人たちもいるわけです。

PCの残高が3兆ドルを超えた背景

PCの残高は足元で3兆ドル(470兆円)を超えていると言われています。金融市場のプロの皆様には物足りないお話ですが、簡単に整理させてください。資金の貸し手、借り手両方の要因があります。

貸し手側の背景

まず貸し手である銀行には、2008年の金融危機後、貸し出しに対して十分な自己資本を確保するようにという規制が強化されました。その結果、銀行が貸し出しという形でのリスクを増やしにくくなったわけですが、運用利益を求める年金などの資金は増加を続けていて、そうした資金がPCファンドへと流れ込みました。

借り手側の背景

一方で借り手の企業側も、資金のニーズは増える中で規制が強化された銀行からは借りにくくなりました。その結果、特に信用力が多少落ちる中小企業などが多少高めの金利でPCファンドから直接資金を調達するようになりました。表面上はWin-winの関係でPCファンドの残高増加と企業の資金調達が増加したわけです。

借り手の行動と投資家の行動に変調

こうした流れの変調が警戒されています。PCファンドで、PIK(Payment-in-Kind:現物支給利息)ローンが急増しています。これは契約時の借り入れ条件を変更して、現金で利息を払う代わりに、その分を元本に上乗せする(借金を借金で払う)仕組みです。業況の悪化や金利上昇を受けてこの「禁じ手」に頼る借り手が増えていることが様々に報じられています。そして、こうした状況を受けて、貸し倒れの増加などによる運用成績の悪化を懸念した投資家がPCファンドから資金を引き出し始めるという、逆回転の兆候が表れています。

疑心暗鬼が悪循環を生んでいる

疑心暗鬼が資金の流れを変えているわけですが、根本にはPCによる貸し出し条件の決定が不透明ではないか、といった懸念があります。この不透明な条件決定をベースにした疑心暗鬼の強まり、貸出の逆回転によるPCファンドの縮小とさらなる貸し倒れ懸念、という悪循環の高まりが、2008年のような金融危機につながるのではないか、という見方も出ています。

標準的な回答は、「金融危機にはなりません」

現状では、PCの問題が2008年型の危機につながらない、というのが標準的なお答えです。最大の違いは、PCの問題が直接銀行とつながっているわけではない、ということです。リーマン・ショック時は銀行が瞬間的に連鎖破綻する「システミック・リスク」が表面化しました。

2008年は金融システムの瞬間的な機能不全が起きて危機に

当時の主因は、銀行が返済能力の低い住宅ローン(サブプライム・ローン)を切り分けて別の金融商品に組み替えた(証券化した)金融商品を抱え込んだことにありました。切り分けたことで本当のリスクの在処や損失額が見えなくなっていました。住宅ローンの貸し倒れが増え始めた結果、思わぬところで損失が出るかもしれないという懸念が強まって、銀行間市場で銀行相互の健全性や支払い能力に対する疑心暗鬼が増幅し、銀行間の送金など決済システムそのものが機能不全になって銀行が連鎖破綻することになりました。

PCは銀行の連鎖破綻になる構造ではない

それに対して、現在のPCファンドの問題は構造的に異なります。まず、原資は年金基金等の長期固定(ロックアップ)資本であって、解約にも時間がかかるなど、即時の取り付け騒ぎが起きにくい形です。そして、銀行が直接融資をしているわけではなく、いわゆる信用創造のプロセスや上で書いた決済システムと直接つながってはいません。ですから、銀行の連鎖破綻になるようなことは想定しにくいです。

リスクの在処がわからなくなる、はない

そして、貸し出しはPCファンドから直接行われます。サブプライム・ローンのように借り手の借金を切り分けて、リスクの在処がわからない、見目麗しい別商品に仕立てることも行われていません。

銀行の迂回融資に使われていると金融システムへの影響も

ただし、銀行がPCファンドに対して融資(レバレッジ・ライン)を提供しているケースがあります。中小企業向け迂回融資みたいなものです。この場合、ファンドに損失が発生すると、最終的には銀行の貸出資産も毀損するかもしれませんので、影響がゼロ、とは言えませんね。

なぜ市場は気にしている?

全体としてそんなに心配することないじゃん。となりますが、ではなぜ市場は気にしているのでしょうか?

Geminiにまとめてもらいました

最近の壁打ち相手のGeminiに、専門外でもわかる「PCの何が危ないのか」を簡単にまとめてもらいました。書きぶりが大げさで、事実誤認につながりそうな表現もあるのですが、興味深いのでそのまま使わせてもらいます。

通常の金融市場は、誰もが見ることができる「掲示板」のようなものです。悪いニュースがあればすぐに価格に反映されます。しかしPCは、誰の目も届かない「密室での契約」です。

金利が低かった時代、この密室は「安定」を意味しました。しかし、金利が上昇したことで、密室の中の行為が次々と炙り出されています。

不透明な成績: 前述のPIKの使用は、実態としてのキャッシュフローが枯渇していることを示唆します。密室の中で「利息を元本に付け替える」ことで、帳簿上の破綻を先送りにしているに過ぎません。

時価の不在: 毎日価格がつく市場と違い、PCは「理論上の価格」で計算されます。金利上昇によって資産価値が実質的に暴落していても、帳簿上は満額として扱い続ける「見せかけの安定」が維持されてしまいます。

密室の壁は、いまや保護膜ではなく、腐敗を隠すための蓋へと変質しています。

Geminiに「PCの何が危ないのか」専門外の人でもわかるようにまとめて、とお願いした結果

信用をベースにしていることが大事

結構煽っている印象を持たれるかもしれませんが、冷静に判断しましょう。問題の根本は、不透明=見えないことが不信感を招くかもしれない、ということですね。資本主義って、信用で成り立ってます。信用があれば、多少のことには目をつぶって(=リスクを許容して)高めの利回りを追求することもできます。

可能な限り時価情報を反映しないと疑心暗鬼

多くの借り手が非上場の中小企業であるなど、もともと借り手の状況をモニタリングすることは難しいわけですが、可能な限り適切な借り手企業の価値(時価情報)を得ないと返済能力についての疑心暗鬼が強まります。特に、現状のようにPIKが増加するなど、当初の契約条件が正しかったのかという疑念が生じるときには尚更です。

市場の「価格発見機能」を使うことが重要

適切な時価情報を得るためには金融市場の「価格発見機能」が役に立ちます。低格付けであっても、米国の社債市場は機能して指標となりうる価格(利回り)を提示してくれます。その過程で時価が変動して投資家の含み損益は変動しますが、その変動は様々な情報を消化しているということで、結果的に透明性(説明責任)が向上することになります。

投資家も不透明なものへの投資について説明責任問われます

その価格発見機能と遮断した形でPCファンドの価格を提示したとしても、適切な時価情報がない中では年金などの資金の出し手はそうしたファンドに(含み損を抱えたまま)投資し続けることは難しいでしょう。また、そうした年金などは不透明なファンドに投資することの説明責任を問われる、つまり将来の年金受給者のために適切な運用を行っているのかを問われることにもなります。

そこにスタグフレーション懸念と金利上昇懸念が乗ると?

こういった問題が表面化してきた中で、世界のスタグフレーション、つまりインフレと景気停滞の同時進行が懸念されているわけです。原油・天然ガスの価格高止まりや供給懸念が持続する可能性が高いと考えられますので、スタグフレーション懸念はすぐに収束はしないでしょう。

価格面か数量面かはともかく、企業の収益環境は悪化しそうです。とりわけ、信用力の劣る企業の返済能力は借り入れの契約時より悪化する可能性が高まります。そんな中、金利が上がるかもしれないわけです。さらに返済能力が気になってくるはずです。

金融市場の機能を借りない密室協議は不信感を増幅するかも

金融市場の価格発見機能を活用せずにそうした状況変化を見極められるのか?特に不信感を高めない形で企業への投融資を継続できるのか?PCはファンドと借り手の相対の交渉で条件などが決められるのでパニック的な資金引き上げにはならない、それがパブリック(公開市場)ではないプライベートの良さなのだ、という指摘もありますが、市場環境の変化を反映しない価格設定や条件改定は上に書いたような不信感を増幅します。もしかすると破綻企業を延命しているだけではないか?という懸念が強まったらどうしましょう?

経済や市場の動きを反映しないプライベート・クレジットってサステナブルですか?

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