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気候変動対策の「緩和より適応」ってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点~

(第五十九回)国や企業の立ち位置が改めて問われてます、高市総理

前回は、サステナビリティ課題としての情報セキュリティのお話でした

前回は、情報セキュリティはサプライチェーン管理と裏表で、企業にとっては死活的に重要なサステナビリティ課題だということをまとめました。例示した2社はまだサプライチェーンが完全に復旧した状況とはいえません。この2社は、情報セキュリティがビジネス上のリスクであることは認識し、それに備えた対策を取っていることは開示していましたが、それがある意味で的外れであったということだと思います。リスクをゼロにすることを目指すのではなく、リスクが顕在化することを前提に対応を進めておくことが重要であるというわこさんの考えをお伝えさせていただきました。

COP30の議論を前に新たな意見

以前取り上げた通り、11月10日からCOP30 がブラジルのアマゾンで開催されます。それを前にして閣僚級会合が行われていて、予想通りアマゾンの熱帯雨林保護への取り組みが合意されたり、アメリカのパリ協定脱退が批判されたりしているようです。過去のCOPを振り返っても、閣僚級会合でサプライズが出てくることはほぼないので、10日以降の議論が本筋です。

COP30に対するわこさんの考え方は変わってませんが、ここにきて気候変動対策の「緩和と適応」について、このバランスを変えた方が良いのでは、という意見が出てきました。今回はこの辺りのお話をさせていただきたいと思います。

気候変動対策の「緩和と適応」

「緩和と適応」は、前にも触れましたが、気候変動対策に対する取り組みの方向性の考え方です。省エネや再生可能エネルギーの導入などを進めたり、見た目の排出量を相殺して減少するための排出量取引を拡充したり、といった手段を通じて国や企業のGHG(温室効果ガス)排出量を減少させようという取り組みが「緩和」策です。

そして、気候変動やその結果としての気温の上昇、異常気象の頻発によるビジネスや生活環境の変化に対応して、新しい商品やサービスを開発したり、新たな生活スタイルを模索しよう、という取り組みが「適応」策になります。異常気象による想定被害の軽減策(例えば海面上昇対策で防潮堤を作るとか)や被害の復旧なども「適応」策に含まれると考えられます。

ビル・ゲイツ氏がブログで意見表明

ビル・ゲイツ氏はマイクロソフトの創業者として超有名ですが、メリンダさんと離婚する前に一緒に設立した慈善財団の活動などを通じて、世界の技術進歩や様々な社会問題への対応を後押ししています。気候変動問題についても影に日向に発言して議論に影響を与えています。COP30を前にした10月28日に公開したブログ「Gates Notes」での「Three Tough Truths About Climate」というタイトルのコラムが気候変動対策に関心を持つ人達の間で話題になっています。A new approach for the world’s climate strategy | Bill Gates

ゲイツ氏のブログ要旨

このコラムでは、気候変動に対する「緩和と適応」のバランスを修正すべきではないか、という提言を行っています。Copilotに要旨をまとめてもらうと、

①    「気候変動は深刻だが、文明崩壊を招くほどではない」として、 “doomsday view(破局的見方)”を否定。
②    「緩和(GHG排出削減)に過剰な資金が集中しており、貧困・疾病・適応策にもっと資源を振り向けるべき」と提言。
③    「科学技術の進展により、最悪の事態は回避可能」との見通しを示したうえで、「人間の苦しみを減らす」ことを優先すべきと述べた。

Gates Notesの「Three Tough Truths About Climate」をCopilotが要約

つまり、これまでの気候変動対策が、GHG削減に偏っていて、適応(というか気候変動による被害の救済)が十分では無かった、という判断の下で適応に資金配分を厚くするべきだ、ということです。

影響力のあるゲイツ氏の発言に様々な反応

これまでイノベーションによる排出削減(再エネ、核融合、代替肉など)といった気候変動の緩和をサポートする資金提供を行ってきたゲイツ氏の発言ですので、様々な反応が出ているようです。

ポジティブなものとしては、途上国や島嶼国など気候変動に脆弱な国々は適応資金の拡充を歓迎して、COP30での成果を期待しているようです。

「緩和の軽視」という批判も

一方で、環境団体や政策専門家からは「緩和の軽視」につながる可能性が懸念されています。これまでGHG排出をしてきた先進国や中国の責任逃れにつながるのではないか、という批判もあります。また、緩和の努力をせずに適応策(被害の救済)ばかりに注力しても、対応が後追いになり、結局は救済もできないのでは?という疑問も当然のように投げかけられます。

今の取り組みは「緩和」に力を入れている印象

確かに、国や企業の動きを見ていると、再エネ導入など「緩和」策の方に力を入れている印象はあります。それは、新しい需要や雇用につながる可能性があるので、次の成長エンジンとしての期待は持てますし、気候変動対策というお墨付きも得られやすいので、取り組みやすいということは言えます。

「適応」策は線引きが難しい

「適応」策はいろいろありますが、気候変動対策なのかどうか、線引きが難しいところはあります。例えばエアコンの普及。気温の高い日が多くなったのでエアコンを普及させて生活の質を改善しましょう、ということなのですが、生活水準が上がってエアコンが買えるようになった、という話との区分けは難しいです。また、台風などによる洪水の復旧なども、これまでもやってきています。どこからが異常気象への適応なのか、わかりづらいです。

異常気象が貧困拡大につながっているなら

とはいえ、異常気象などが天災を通じて貧困層の拡大につながったり、新たな疾病などを引き起こしていたり、いるのであればそれへの対策は人道的な問題への対処も含めて「適応」策になるんでしょう。

今の資金配分は非効率かも

実際、ゲイツ氏はコラムの中で資金配分の非効率性を指摘しています。つまり緩和策に偏った資金が、途上国の実際の苦しみ(洪水、飢餓、感染症)に届いていないということです。

政治的状況を考えると戦略見直しが必要に

加えて指摘しなければいけないのは、世界の政治的な状況を考えたときに、2015年のパリ協定締結時や2021年のグラスゴーでのCOP26の時のような、先進国中心に手を取り合って2050年のGHG排出ネットゼロを目指そう!!という機運が後退していて、現実的に戦略を見直す必要が高まっている、ということです。

言うまでもなく、アメリカがパリ協定を脱退しましたし、中国だって再エネ導入は猛烈な勢いで進めているものの石炭火力発電所の建設は続けています。

「緩和」策はビジネスモデルが成立していない

「緩和」策の主役と期待されている再エネは世界中で設備や建設コストの高騰で洋上風力の導入が滞っている中で送電網(グリッド)の管理に課題が指摘されています。EV(電気自動車)については、ガソリン車との価格差を補填する各国政府の補助金がなくなったことで販売が落ち込みました。また、水素についても水素製鉄など需要サイドが立ち上がらない中で供給コストが下げられず、ビジネスモデルが成立しない状況です。

二項対立ではなく最適な資源配分への転換を提唱

こうした状況を踏まえて(だと思いますが)、ゲイツ氏は、「緩和の重要性は変わらず」、「技術革新によって排出はさらに減らせる」としていますが、その一方で「1.5℃目標は達成困難」で「2℃も厳しい」とし、現実的な適応策との併用が不可欠と述べています。緩和をあきらめたわけではないですが、「緩和 vs 適応」の二項対立ではなく、苦しみを減らすための最適な資源配分への転換を提唱しているということです。

COP30での議論を後押しする形にも

間違ったことを言っているとは思いません。GHG排出ネットゼロに向けた時間軸が伸びてしまいそうだ、ということを冷静に判断して、それに伴って生じている新たな問題に対処すべきである、ということでしょう。その文脈の中で特に気候変動の被害を大きく受ける途上国の福祉向上を重視して、気候資金と人道支援を統合すべきだ、という話になります。

COP30に向けた議論でも、「緩和と適応の統合的アプローチ」が求められており、ゲイツ氏の意見表明はその流れを後押しする形になりそうです。

資源配分を転換して、それで対策がサステナブルになる?

問題は、そうした時に新たな気候変動対策がサステナブルになるんですか?ということです。ただでさえ、気候変動対策についての先進国と途上国の対立は、形を変えた「南北問題」的なとらえ方をされてきました。

資金供与の方法、原資は不透明

途上国に対して資金供与(投融資)を拡大する場合、それは誰がどのような形で行うのでしょうか?これまでのCOPで決まっている「損失と損害基金(Loss and Damage Fund)」を拡充する形になるんでしょうか?どこにそんなお金があるんでしょう?

先進国に対する圧力は高まるでしょうが、実際に資金は十分に動くんでしょうか?以前も少し触れた官民共同の投融資(ブレンデッドファイナンス)のような形ができるのか?NZBAが活動休止したなかでどの程度意見集約できるのか?やっぱり問題山積です。

リーダーシップをとる国がいますか?

各国の意欲や意思が問われますが、リーダーシップをとる国がなければ、資金の増額は期待しづらいでしょう。中国は、二国間か、中国が主導権を握れる国際機関を通じてはやるかもしれませんが、国際協調に資金は出さないでしょう。出したらびっくりです。

「緩和」策が「死の谷」を超えるサポートがなければ企業は躊躇

さらに、資金配分を「緩和から適応」に移していくということになると、「緩和」側の技術に関連した企業の投資がどうなるかも問題になります。上にも書いた通り、「緩和」策の多くはコスト高や需要不足、政府サポートの終了などのため、サステナブルなビジネスモデルになっていません。

新技術がビジネス的に自立するためには、需要の拡大でコストが下がり、それがさらに需要を刺激して拡大し、産業として成り立っていくことが必要ですが、その途上で頓挫する技術が多いため、この過程が「死の谷」と言われることがあります。「死の谷」を超えるためには、やはり政府のサポートが必要でしょう。それが見えないと、自分自身をサステナブルにすることを優先せざるを得ない企業は自力での投資継続に躊躇することになります。

「適応」で企業はよりサステナブルになる?

加えて、企業の立場から、「適応」への資金配分を増やすことで自社がよりサステナブルになるか?も考えておく必要があります。エアコンメーカーのように、「適応」がビジネスとして成り立つ企業もありますが、大部分は難しいでしょう。

短期的なコストを吸収するだけの収益力と経営陣の肚が必要

おそらくESGの「S」的な考え方で、気候変動に適応するために従業員福祉や社会貢献を拡充しましょう、というのはあり得ます。しかし、わこさんが繰り返し書いてきたように、それがサステナブルになるためには、企業の生産性が上がるとか、売り上げが伸びるとか、企業のブランド価値が上がるとか、といったポジティブな効果が必要です。 当然、短期的にはコストが勝ちますから、それを飲み込むだけの収益と株主からガタガタ言われても動じない経営陣の肚(ESGの「G」)が必要になるでしょう。

高市総理の立ち位置は?

こうした中で、日本の立ち位置はどうするんでしょうか?どうでもいい話ですが、高市総理は(覚えてないと思いますが)二十数年前に大阪の某テレビ局の番組で何度かコメンテーターをご一緒したことがあります。

責任ある積極財政との関係は?

メガソーラー設置に対する環境規制を強めることは見えていますが、責任ある積極財政の中で、気候変動対策をどうするんでしょう?「緩和」策としての再エネ導入などの支援を拡充するのか、「適応」策として防災や国土強靭化を拡充するのか?核融合とペロブスカイトについては言っていますが、核融合はまだ「死の谷」以前の段階です。

時間軸を持った「適応」資金の拠出を増やす?

はたまたゲイツ氏の意見表明を受けて、外交面で途上国への「適応」資金の拠出を増やすのか?そんな長期の時間軸は持ってなくて、とりあえず目先の経済活動さえ何とかなれば良いのか?もしそうなら世界の中心で咲き誇る日本外交にはなりませんね。

ゲイツ氏の提言は、サラッと読むと「それで?」なんですが、ただでさえサステナブルになることが微妙な気候変動対策について、改めて各国、各企業の立ち位置の確認を迫るものになっていると言えそうです。

今回もワインが片手にできない、硬い話になってしまいました。次回は頑張ります。

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