花時
-追憶のフラグメント #42 -
花を見ると、
決まった意味を思い浮かべる人が多い。
桜なら、
卒業とか、入学とか。
でも、
自分にとっての『その花』は、
少しだけ違っている。
チューリップを見ると、
入学したばかりのあの教室を思い出す。
まだ名前も覚えきれていない空気と、
少しだけそわそわしていた自分。
銀杏の匂いは、
小学校のグラウンドの隅。
踏まないように歩いていたはずなのに、
結局どこかで踏んでしまっていたあの感じ。
コスモスは、
なぜか雨の記憶が強い。
晴れていたはずなのに、
急に降り出す雨。
何度も空を見上げて、
そのたびに濡れていた。
同じ花なのに、
誰かにとっては、
まったく違う景色を連れてくる。
きっと、
花そのものに意味があるんじゃなくて、
そこにあった時間が意味をつくっている。
だから、
同じ季節に咲いていても、
思い出すものは少しずつ違う。
目の前の花を見ながら、
自分の中にある『その花』の景色を、
静かに辿っていた。
後書き
『花時(かじ)』
同じ花を見ていても、
思い出す景色は、人それぞれ違う。
決められた意味よりも、
そのとき、自分がどこにいたか。
誰といて、
どんな気持ちだったか。
そのほうが、
ずっと深く残っている。
花はただ咲いているだけなのに、
なぜか時間だけを連れてくる。
きっと、
花が記憶を呼ぶんじゃなくて、
そのときの自分が、
花と一緒に残っているのだと思う。
〜4410〜
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