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青葉山の新緑と、消えた足音。

1950年の東北大学で起きた「イールズ事件」の当事者である祖父が、卒寿を前に、現代を生きる孫の男の子「律」へと激動の過去を語り継ぐ物語です。


第三話凍りついた新緑

:凍りついた新緑 「あいつたちが消えた街は、やけに静かだった。わしは、抗議の署名板が回ってきても、黙って下を向いた」

おじいちゃんはベッドの背もたれに体を預け、遠い目をして言った。

「そうしてわしは、無事に大学を卒業し、地元のまともな企業に就職した。日本がどんどん豊かになっていく昭和の波に乗って、人並みの出世をして、人並みの幸せを手に入れたんだ。だがな、律」

おじいちゃんの声が、微かに震えた。

「その幸せの裏で、わしの心の一部は、あの一九五〇年五月二日、青葉山の新緑の中で凍りついたままだった。わしが手に入れた『順風満帆な人生』は、あいつの犠牲と、わしの卑怯な沈黙のうえに成り立っていたからだ」

そんなおじいちゃんの凍りついた心を溶かしてくれたのが、おばあちゃん(お祖母ちゃん)だった。

一九三六年生まれのおばあちゃんは、戦後の混乱期を自らの足で逞しく生き抜いてきた、聡明で、けれど誰よりも優しい女性だった。

結婚して数年が経ったある嵐の夜、おじいちゃんは誰にも言えなかった「あの日、友を見捨ててビラを落として逃げ出した自分」という、消えない後悔を彼女に打ち明けた。

おばあちゃんは、まるでおじいちゃんの後悔ごと抱きしめるように、冷たく震える手をそっと両手で包み込んで、こう言ったのだ。

『生き延びることは、少しも卑怯なんかじゃないわ。あの日、あなたが逃げて、生きていてくれたからこそ、今の私たちがある。その痛みを生涯忘れずに、今ある命を大切に生きていくことこそが、あなたが背負うべき優しさよ』

おじいちゃんは律の目をまっすぐに見つめた。それは、おじいちゃんから孫へというより、一人の「男」から、これから人生の荒波に漕ぎ出す一人の「男」への、魂の対峙だった。

「律、わしはあいつのように、歴史に名を残すようなヒーローにはなれんかった。だが、己の弱さを生涯引き受け、後悔の痛みを背負いながら、それでも愛する者を守り、ひたむきに生き延びることもまた、一つの男の生きざま、選択なのだ」

「お前の生きる現代は、何もかもが滑らかで、手応えがない。だがな、お前は自分の意志で、その選択の重みと傷を引き受ける覚悟があるか?」

📖第4話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n8e2ef3f1b26b
📖第2話:https://note.com/juicy_laelia8513/n/n6802331b0400
🌐英語版:https://note.com/ttukumoo/n/n86da5d05d18a

最後までお読みいただき、ありがとうございます。💗

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