【ショートショート】線香花火と夏の音~風まかせ文芸部
※以前投稿した『青い時雨』の続き的な感じで書いています。
本文
季節の移ろいを僅かに日に焼けた肌が感じてきた。
夕方特有の生暖かい湿った潮風が手の隙間から通り過ぎていく。
手持ちの線香花火の火芯がふつりと消えたのだった。
「手で風を避けてたのに。」
近くのホームセンターで買った手持ち花火セットは、いつも線香花火だけが残ってしまう。
大量の線香花火の束からまた一つ選び、その先端にロウソクで火をつけた。
最初はすごく小さな火種だ。それが徐々に大きくなりやがて花びらの如くパチパチと咲き乱れるのに。
ほら、こんなにきれいなのに。
みんなは、打ち上げ花火に夢中だ。
男女混合で花火をしていたのに、いつの間にかカップルが出来ていて自分だけが取り残されていた。
この線香花火は自分自身じゃないかと思う。
いつまでも誰の目にも止まらず、最後まで残り続ける。
「ああ、馬鹿らしい。」
こんなに頑張って、浴衣まで着てきたのに、髪型も可愛く見えるようにがんばってきたのに、誰も見ていない。
『まあ、誰かのためにしているわけじゃない。自分のテンションを上げるためにやっていたんじゃないの』と自分に言い聞かせるが、なんか納得がいかない。
今日は高校の同級生と久ぶりに会い、近くの海岸でバーベキュー&花火をすることになったのだった。
こういう時は、何かを食べるに限る。
バーベキューの残り物の野菜と肉をプラスチックの皿に盛る。
『ちょっと、冷めちゃってるけど、食べれればなんでもいいや。ついでにビールも飲んじゃおう。』クーラーボックスを探し、手を中に突っ込んでみるが、なんか温い。でも、ないよりましだ。
ビールを手に持ち、周りで腰を下ろせそうな場所を探す。道路わきに丁度腰を下ろせそうな場所を見つけ、腰を据えてから、蓋をあけ、一口飲んでみた。だが、やっぱり、まずい。ぬるボケの缶を見つめ、こんなものに頼らなければここにいられないのかと思うと、ますます悲しくなってきた。
向こうに見えるのは、私とは全く関係のない、異次元の空間だ。
二人寄り添い話に夢中になっているカップル、花火にはしゃいでいるカップル、手持ち花火でふざけ合っているカップル。奇数だから誰かが余ることは必然なのだが、こういう場合大体いつも私なのだ。
「あれっ、おねえさん?」
予想だにしない方向から不意に声を掛けらた。
私は驚くと同時に、そして、歩道からこっちに向かって真っすぐに歩いてくる姿に少し嬉しくもなった。
「あっ、あの時の、」
私のアパートの近くに住んでいる青年だった。時々すれ違いざまに挨拶をする程度の、まあ、知り合いと言ったら知り合い?だけど、名前すら知らない人。それが、偶然こんなところで会うなんて、何かの巡り合わせか、少し恥ずかしいような、こそばゆい感じがする。
大学の友達の家からの帰りだというその青年は、今日は、片手にペン字練習帳を抱えていた。
「ああ、僕は字が汚いから、きれいに書けるようになりたいと思って・・・ほら。」
「風?」
練習帳には風に関する言葉がずらっと並んでいた。
「僕は風間音也っていうんだ。自分の名前ぐらい綺麗に書きたいからね。」
偶然入ったコンビニで見つけたという練習帳を広げてニコッと笑う。私は子供の頃習字を習っていたから、字にそれほど苦労をしたことはないが。
「字がきれいな人はうらやましいよ。」
そういうものなのだろうか。確かに結婚式でのし袋に筆ペンで書くときはちょっと初め緊張もするが。
夏の海岸を見詰めて話す彼の表情は、いつも見かける柔らかい表情とは違い、少し大人びて見えて、私はなぜかドキリとした。
なるほどイケメンだ。
時々見かけていたとはいえ、こんな近くでこの青年を見るのは初めてだった。
去り際にラインのアドレスを交換し、私の胸が少し高鳴った。
これは、夏の音なのだろうか。
鈴虫の声が、花火に交じって聞こえていた。
了
本文を読んでみて興味ある方は、前作も読んでいただけると、すごくうれしいです。↓
#風まかせ文芸部
#夏の音
#ショートショート
#掌編小説
#花火
#線香花火
#鈴虫
いいなと思ったら応援しよう!
よろしけば応援お願いします!いただいたチップはクリエーターとしての活動費に使わせていただいます。